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二日後。東京都。新宿御苑。
初夏の新緑に囲まれた旧御凉亭から、池を眺める人影があった。
金色の髪を整髪料で撫でつけ、口髭を蓄えた紳士。皺の刻まれた顔で穏やかに微笑み、時折風景に感銘を受けたように頷いた。
「そのうんうん頷くやつ、おじいちゃんっぽいですよ」
背後から声をかけられて振り向くと、落ち着いた靴音を立てながら白衣の女性が歩み寄ってくる。
「もう気持ちはおじいちゃんさ。セーラ、久しぶりだね」
「マシューおじさんも。元気そうで良かった」
セーラはそのまま紳士と軽いハグを交わす。
「それにしてもこんなところでも白衣とはね。他に人がいたら怪しまれてしまうよ」
「眼鏡と白衣は身体の一部なのでね」
ふふんと笑って、セーラはマシューの隣に立って池を眺める。
「結果が出ました。やはり“与えられた十三人”の塩基配列に酷似しています。ですが多分、本人はまだ自分の真価に気づいていませんね」
マシューは一度天を仰ぎ、また池に視線を落とす。
「そうか……。不思議な因果だ」
「因果、でしょうか。ご子息は気づいていたのだと思いますよ」
「あの子を息子と呼んでもいいものか、未だに疑問はあるけどね」
「彼は間違いなくあなたの息子ですよ。科学的にも、心的にも」
「君がそう言うなら間違いないだろう」
朗らかな笑顔で、マシューはそう言った。
「今、彼女は?」
「ヒリフダ市で例の件に対応してます。昨日彼女発案のオペレーションが承認されましたよ。下手をすれば彼女に危険が及びますが……どうします?」
眼鏡の奥で、セーラの目が鈍く光った。
マシューは風でわずかに波打った水面を見て、また何度か頷いた。
「様子を見よう。その試練が、彼女に福音をもたらすかもしれないしね」