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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2015 - アンネ・ラインハルトの記録
3/53

[1-3]

「どうしたんです? 急に呼び出したりして。あれ、ここの資料どこにやったんですか?」

 研究室に入るなり、アンはごっそり一段本が消えた本棚を見て言った。

 椅子に腰かけてうつむいていたジェームズが顔を上げる。

「ああ……。エドワードが持っていったよ」

「まだ読んでなかったのに……。エドワードから何か連絡ありました?」

 ジェームズはまたうつむき、放心しているようだった。

「ジェームズ先生?」

「……二つ、悪い知らせがある」

 唸るような声に、アンの笑顔が引きつる。

「そういうのって、大抵片方は良い知らせじゃないんですか?」

「今回は、そうもいかない……。軽い方から話そう。あのコロンシリーズは偽物だった」

「……偽物?」

「CIAから連絡があった。DNA鑑定の結果、あの血の署名はケネディどころか、人間の血ですらなかったそうだ。本そのものも、コロンシリーズとは全く関係ない内容だったらしい。本物を隠し持っているんじゃないかと疑われたよ」

「それは……ムカつくわね。でもそんなに落ち込むこと?」

「もう一つは……エドワードが死んだ」

「……なんですって? なんのジョーク?」

「東京の渋谷で、ビルから飛び降りたらしい。遺体は、原形を留めていなかったそうだ……」

 茫然とジェームズの話を聞いていたアンの表情が凍りつく。語るジェームズも、沈痛な面持ちだった。

「明日、遺体が到着する。君も葬儀に――」

「……失礼します」

 アンは震える声でそう言って、研究室を飛び出した。

 そのまま大学内を駆け、自分の部屋がある寮へと走る。普段運動をしていないこともあって、すぐに息が切れた。苦しくて涙が出た。それでも足を止めることなく、涙を拭いながら走り続け、寮へと辿り着いた。

「あら、アン。もう帰ったの?」

 立ち話をしていた同級生を無視して、自分の部屋のある二階へと階段を駆け上がっていく。ドアを開け、ほとんど倒れ込むように部屋に入った。本の山を崩しながらベッドまで這っていって、枕元に置いてあった本を手に取る。それを開いて、挟まっていた一枚の紙を取り出した。

 何度も読んでいたその便箋を、アンはもう一度読む。


 親愛なるアンへ


 まず最初に言っておきたいことは、もし君が僕を友達だと思ってくれているなら、

 この本のことは誰にも言わないでほしい。この本は原典ではないが、内容は本物だ。

 それを信じるか信じないかは君次第だけど、きっと楽しんでくれると思う。

 誰にも物怖じしないで突き進む君の姿は、とても魅力的だったよ。

 たった数か月だったけど、一緒に研究ができて良かった。

 もしまた会えたら、この本の感想を聞かせてくれ。

 じゃ、元気で。


 エドワード・アダムズ


 追伸 “真実は前を向く者の視線の先にある”


 アンは溢れてくる涙を、何度も何度も手で拭った。それから便箋を丁寧に折って脇に置き、今度は本を手に取って、その革製のカバーを外した。

 中から出てきたのは、黒い表紙に白い文字でタイトルが印字された、ハードカバーの本だった。

 タイトルは“CHRIST:0033”。その内容は、一般的な聖書の物語とはまるで違っていた。

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