表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2018 - アンネ・ラインハルトの福音
21/53

[4-3]

 暦史書管理機構第一研究室。セーラの居室でもあるその部屋は、一見ガラクタのような自称発明品がそこかしこに散乱していた。壁の一面は特殊強化ガラスによる窓がはめ込まれており、その向こうは実験室になっている。

 アンとセーラは実験室の中で、机を挟んで向かい合って座っていた。

 セーラはパックされた注射器を開け、採血用の小瓶を用意する。


「う……」

「注射は苦手?」

「身体に針を突き刺されるのを好む人はいないと思うんだけど……」

「いやあ、世の中には色々な性癖を持った人がいるからね。まあでもダイジョーブダイジョーブ、痛くないよ~」


 胡散臭い文句にさらに不安が増したアンだったが、ぎゅっと目を閉じているとなにも感じないうちに「終わったよー」という声が聞こえてくる。

 目を開けると、確かに小瓶の中には少量の血液が入っていた。セーラは薄く微笑みながら、針を刺したと思われる場所を消毒している。


「上手いのね」

「針が良いからね、誰がやっても痛くないよ。検査の結果は二日後に送るね」

「ええ……」


 セーラは止血用のテープを貼り、表情を曇らせたアンに笑みを向ける。


「心配?」

「まあ、多少ね」

「そっかそっか。心配事があったらいつでもセーラちゃんに連絡するんだよー。支給されてる端末に連絡先入ってるから」

「……今、一つ聞いてもいいかしら」

「なんだい?」


 アンはまっすぐにセーラの目を見据える。


「イデアってなに?」


 その質問の意図を探るように、セーラもアンを見つめ返す。


「リリィ女史が説明したって聞いてるけど?」

「リリィからだけじゃない。イデアを知る機構職員みんなに聞いて回った。天国、精神世界、理想郷……みんなそれぞれ違った認識をしていて、なにが正しいのか……」

「あーはーん。なるほどにゃー」


 奇妙な日本語にアンが困惑していると、セーラはどこからともなく一冊の本を取り出した。それは小さなサイズの聖書だった。


「……あなたも本を生み出せるの?」

「ポケットに入っていただけだす。答えはここに書いてあるよ」

「聖書に?」

「“始めに言葉ありき”」


 その文言を聞いて、アンは即座に聖書に手をかけ、確かめることもなく開いた。


「“ヨハネによる福音書”、冒頭の言葉ね」


 セーラは指をぱちんと鳴らした。


「さっすがぁ、詳しいね。私はその記述通り、イデアとは言葉だと思ってるよ。ただの言葉じゃないけどね」

「リリィが言っていたわ。イデアはゲームのプログラムのようなものだと」

「そう。イデアはある種、この世界のソースコード。ジーニアスはそのコードを書き換えたり、書き足すことによって能力を行使する」

「なるほど……。いいえ、待って。もしイデアが言葉ならば、体系化することができるんじゃないの?」

「うんにゃ、それは無理だね。なんせさっきアンちゃんが言ってた通り、イデアの認識は人それぞれだからさ」

「母国語以外は理解不能ってことね……」

「そう。干渉能力の根源にあるのは、干渉対象への愛や執着、憎悪なんかもあるけど、とにかく強い思い入れが必要なんだ。――アンちゃんの能力のようにね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ