[4-2]
各ペアの顔合わせが済み、会議室から人が出ていく最中。一人抗議の声を上げていたのは、先ほど自らペア制を発表したアンネ・ラインハルト自身だった。
「なんであなたなのよ!」
「知らん。というかなんでお前があんな偉そうに喋ってるんだ」
「出世したからよ! 少しは見直した?」
「いいや。俺は階級で人を判断しているわけじゃないからな」
「相変わらず腹の立つ男ねこのテクノカット!」
「ぼさぼさの癖毛女に言われたくないな。それとその洋画の吹き替えみたいな喋り方はなんとかならないのか」
「吹き替えの洋画で日本語を勉強したのよ! 文句があるなら吹き替えの台本書いてる人に言いなさい!」
「まあまあお二人とも、再会の挨拶もそのくらいで……」
アンとシノユキの応酬は、ユウコが間に入ってようやく止まった。
「すみません、以前お二人で行動したこともありましたし、まったく知らない方と一緒になるよりはいいかなと思ったのですけど……」
「いいえ、私は構わないのですが。こいつが大人気なくて申し訳ありません」
「なっ……! も、もういいわ。仕事の話をしましょう」
アンは大げさな咳払いを挟んで、説明を始める。
「私たちは記者に扮してヒリフダ市に潜入します。機構傘下の実在の出版社だから、断られることはないでしょうね」
「俺は通訳ってところか。お前の日本語は海外の記者にしては不自然すぎるほどに自然だ」
「……褒めてもなにも出ないわよ?」
「事実を述べただけだ。褒めたわけじゃない。嬉しかったのか?」
「こいつ……!」
「顔が赤いぞ。で、どこから当たるつもりだ」
「……はあ。日本支部のコロニストが先に数人潜り込んでいるから、まずは彼らに接触して情報を集めるところからよ。出発は明日の朝十時」
「寝坊するなよ前科持ち」
「わっ、わかってるわよ」
「いちゃいちゃ終わったー?」
舞台の縁に腰掛けて二人の痴話喧嘩を見守っていたセーラが、ぴょんと飛び降りて歩み寄ってくる。
「誰が!」
「アンちゃんは本当にテンプレみたいなツンデレだな、顔真っ赤だよ……」
「これは不可抗力よ!」
「おー、難しい日本語も覚えてるね偉いね。さあさあ、セーラちゃん特製百倍コーヒーでも飲んで気分を落ちつけようじゃないか」
「……百倍ってなにが百倍なの?」