いらっしゃいませ。
学生バイト視点
失敗した。
何がって、そんなつもりじゃなかったのに。口から出た言葉は誤魔化せなくて。
おかしいと思われた。
だって、カップラーメンに対して
「あたためますか?」なんて
違うんだ
本当はお弁当じゃないことにくらい、気付いていた。
だって俺は、この人をずっと見ていたから。
最初はたくさんいる常連さんの一人にしか思っていなかった。毎日、毎日、遅い時間に来てはお茶とお弁当を一つずつ買って行く。
この近くが家なのか、職場なのか
くたびれたように、ネクタイを緩めて欠伸をする横顔は大学生の俺にはずいぶんと大人に見えた。
スーツもネクタイも髪型も
買って行くお弁当の種類も
例えば、お茶は必ず烏龍茶だとか
気付けばずっと目で追いかけていて
俺は、まずいと感じた。
好きだと、気付いてしまうのに時間はかからなかった。
中学の時
青春真っ只中の友人達が、巨乳だ何だと騒いでいた中で俺はひたすら勉学に励むようにしていた。恐らく、クラスメイト達は俺をツマラナイ人間だと思ったはずだ。もしくは気にもされていなかったか。
興味がないふりを、していたのではなく
本当に興味がなかった。
その時にはすでに、自分の恋愛対象は「男」なんだと理解していたから。
そして、まともな恋愛を諦めた。12歳にして、俺にとって恋はしてはいけないものに決定された。
親友と呼ばれる存在も
優しくしてくれる男性教師も
気を抜いたら汚れた目で見てしまいそうで、自分から逃げるようにした。
出来るだけ、話さない
無表情に
笑わないように
それでも、友達だと言ってくれる奴はいるもので余計に苦しくなる。
コンビニの客に惹かれる、なんて
とんだ、笑い話じゃないか。
相手は、普通のサラリーマンで
俺とはレジでしか接点がなくて
俺のことなんか、見てくれる訳ないのに。
それなのに。
「ありがとう。」
そう笑った貴方は、優し過ぎた。
俺には、刺激が強過ぎた。
どうしよう、
これ以上、深入りしたら危ない。
細身のグレーのスーツ
袖口から伸びた大きな手が、俺の髪に触れる。
その笑顔は、動揺する俺をあやす保父さんのようで。子供扱い?大人の余裕が目に見えて悔しい。
苦しい
恋はしない、と
あの日に決めたのに
こんなはずじゃ、なかったのに。
彼がいらないと捨てたレシート
彼が触れた紙切れ
唇に寄せて、でも、触れることは出来なくて
そっと握りしめた。




