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夕闇の猫  作者: 風浪
一章 ギルドと独立遊撃部隊
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唐突に大通りの先が開け、

 唐突に大通りの先が開け、巨大な建造物が行く先を阻んだ。

 左右に大きく張り出したその建物は、沢山の棟が集まった複雑な造りになっている。漆黒の壁はこちらに押し迫るような威圧感を与え、何人たりとも侮る事を許さない。窓枠などの装飾に使われた金銀橙の色は、華美でないその建物の無骨さを和らげていた。

 ひときわ巨大な門扉の上部には、鈍く光る黒鉄のプレートが掲げられている。それには、金の装飾文字でひとつの名が刻まれていた。

 ――《ガッド・ディ・セラータ》

 もちろん日本語ではない謎の言語で記されていたのだが、なぜか唯咲は呼吸をするように読み解く事ができた。

「着いたな。ここが俺のギルドだ」

 黒毛馬を操るヴィハーシュが、唯咲の後ろから教えてくれる。唯咲はそれに答えずに、ぽかんとその威圧的な建物を見上げていた。

 でかい。

 城だ。これは建物とかいう次元じゃない。

 巨大な城塞だ。

 くらくらと目眩を覚えた唯咲は、がっくりと肩を落とした。ヴィハーシュの世話になるという事は、今後この城で生活するという事だ。

 ……ちょっと早まったかもしれない。

 唯咲が葛藤している間に、城……ギルドのうまやに着く。ひょいとヴィハーシュに抱えられ、そのまま下馬する。唯咲を地面に下ろしたヴィハーシュは、黒毛馬の手綱を引いて厩に繋ぎに行った。

 ヴィハーシュの後にぞろぞろと続く、見るからに危険臭漂う荒くれ者たち。そういえばいたな、と唯咲がそちらに目を遣ると、彼らも唯咲が気になるらしくこちらを見ていた。ばっちり視線を合わせて、なお怯まずじろじろと無遠慮な視線をぶつけてくる荒くれ者たち。

「……はじめまして」

 唯咲は躊躇いながら、おずおずと挨拶をしてみた。すると彼らはぎょっとしたような顔になって、慌てて馬を引いて逃げるように行ってしまった。

 唯咲が軽くショックを受けていると、馬を繋いで来たのだろう彼らがひょこひょこと厩の壁の端に顔を覗かせる。じーっとこちらを眺める少年中年壮年たちに、唯咲は試しにひらひらと手を振ってみた。

 すると彼らはきょとんと目を瞬かせ、にいーっと顔中で笑ってひょんと引っ込んだ。

 なんだこれ。結構可愛いぞ。

 すると引っ込んだはずの荒くれ者たちが、再度どやどやと姿を表した。ヴィハーシュは堂々たる足取りで先頭を歩いている。

「来い、イサキ」

 ヴィハーシュが左腕を軽く上げて、緩やかに弧を描く口で唯咲を呼ぶ。素直にととっと小走りで傍に寄ると、ぐいと左腕に肩を抱かれて隣に寄せられた。

 そういえばヴィハーシュの傍にいる時は、後ろの荒くれ者たちはとても大人しくしている。今もちらちらとヴィハーシュを伺っている。

 まるで、恐れているように。

 唯咲はどこかもやもやとした気持ちを抱えて、ヴィハーシュの隣を歩いた。

 そのヴィハーシュは人の気も知らず、上機嫌でずんずんと歩を進めている。唯咲は胸中でこっそりため息をついて、ヴィハーシュに問いかけた。

「ヴィハーシュさん。これからどこに行くんですか?」

 ヴィハーシュは機嫌よく唇に笑みを乗せたまま答える。

「ギルドの受付に行く。任務報告をして報酬をせしめないとな。喜べ野郎共、今夜は宴だ」

「お、おう……」

「楽しみだな、隊長……」

 やはりどこかびくびくしたような返答に、唯咲は眉をひそめる。初めてあった時には、彼らももっと自然にしていたはずだ。なんせヴィハーシュと共に腹を抱えて爆笑したくらいなのだから。それなのに、なぜ今になって、こんな態度をとるのだろう。

 唯咲が抱いたその疑問の答えは、ギルドの受付で解決された。

 ヴィハーシュがギルドの正面入口から堂々と帰還を果たすと、周りの人々が妖怪でも見たかのような顔つきでヴィハーシュを見る。受付業務に勤しんでいるカウンター内の受付嬢が、ヴィハーシュを見るなりあんぐりと口を開けて卒倒しかけた。受付カウンター内でのんびりと新聞のような物を読んでいた男性が、ヴィハーシュを見るなり顔から表情を落っことした。

 真顔になった男性が、地の底を這うように低い声で唸る。

「……てめえ、誰だ?」

「独立遊撃部隊隊長ヴィハーシュ・イクサ、只今任務より帰還した。任務報告に移る」

 周りの動揺などそっちのけでビジネストークに移ろうとしたヴィハーシュに、男性が悲鳴をあげた。

「おいおい、マジかよ! んなヘラヘラ笑いながら帰って来やがるから、うちの若いのが使いもんにならなくなったじゃねえか!」

「言いがかりはよせ、俺は普段通りだ。予定通り西ヘサロン平原北東部でダウロ王国軍を発見」

「馬鹿言うな、てめえんとこの奴らが死人みてえな顔してビビってんぞ! で? 何があったんだよ、このお嬢ちゃんが関係してんのかオイ?」

「だから、俺は普段通りだ。国境線を侵そうとしていたので、警告を発した。それと同時に攻撃を受けたので、迎撃した。これでめでたくダウロとも戦争だ」

「それのどっこが普段通り――って、何してくれちゃってんのてめえ」

 唯咲は目を白黒させながら、カウンターを挟んで向き合う二人を交互に見た。ヴィハーシュと対等に言葉を交わしている受付の彼は、派手な金髪とくわえ煙草が印象的な人だった。

 ヴィハーシュは彼の言う通り上機嫌に見えたが、それだけで大騒ぎされる理由までは、唯咲には分からなかった。

 ヴィハーシュだって人の子だ。今までずっと不機嫌だった訳でもないだろうに。

 けれど周りは確かにヴィハーシュを気味悪がっている、ようにも見える。

「ヴィハーシュさんがヘラヘラしてると、なにか問題でもあるんですか?」

 唯咲が思い切って訊いてみると、カウンター内の彼は今度こそ口から煙草を落とした。

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