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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
Episode 2.Memorial
8/42

Memory 2.ルフィルの決意

 木々に囲まれた薄暗い空間、ルフィルの目の前に無我は姿を現す。

《今回は僕の目の前に現れるんだね?》

「もうテレポートは隠す必要ないからな。――何故俺を呼んだ? 俺にはもう用はないはずだろ?」

《……いくよ》 ルフィルが無我に突撃してくる。

(! フォースを展開しないのか?)

 ルフィルの羽根が無我の首を狙う。無我は左手で攻撃を受けとめ、右拳をルフィルの顔面に放つ。その攻撃をルフィルは左羽根で防御した。そして、互いに距離を取る。

「お前は一体、何がしたいんだ? こんな意味のないことがお前の望みなのか?」

《――本気の、Aモードってやつできなよ》

「……いいだろう。――死ぬなよ」 無我が斬糸を三本生成する。

 斬糸が赤く光輝いた。それを見るなり、ルフィルはBモードを展開する。――そして、青いオーラに包まれる中、右の翼を赤く輝かせた。Aモードのラーニングに成功したのだろう。

《キミはBモードってのは出さないのかい?》

「必要ない。……これで、終わる」

 無我は斬糸をもつ手を振り、徐々に斬糸を伸ばしていく。

 A、Bの両モードを展開したルフィルが再度突っ込んでくる。

「『旋風つむじかぜ』っ」 赤い斬糸の竜巻がルフィルを包み込んだ。

 無我の放った旋風を受け、ルフィルのBモードは無我のAモードによって剥がされていく。

 ルフィルはその場に倒れた。

「まともに受けたか……」《こちらNo.9。先日のランクSSテットを――》(! なっ。まさか、まだ――)

 本部に連絡を入れようとした時、ルフィルが立ちあがった。傷ついた身体を震わせながら、再度AモードとBモードを展開する。

「もうやめろ。これ以上傷ついてなんになる?」

 ルフィルがゆっくりと無我に向かってくる。赤い右の羽根を振りかぶるが――

 無我は斬糸をムチのようにしならせ、ルフィルに叩きつけた。ルフィルがBモードを展開しているおかげで、真っ二つに切り裂かれるのは防いだものの、ものすごいスピードで吹き飛ばされていく。

 ――大きめの木に激突した。その衝撃でAB両モードが消える。もう、動くことは出来ないようだ。無我はAモードを解除した。

《……キミの、言うとおりなんだよ》

 ルフィルが突然、そう語りかけてきた。

《すべてを終わらせたはずなのに、なにも、変わらないんだ》

「お前はもう何にも縛られちゃいない。好きに生きていけばいいんだ。――俺みたいな人間と関わるべきではないんだ」

《……僕の傍に、来てくれないか?》

 無我はゆっくりとルフィルに近づく。

《今、この瞬間より僕はあなたに忠誠を誓います》

「なっ!? 何を考えてやがる? お前はもう自由の身なんだぞ? なぜ自分からそんなことを言い出すんだ?」

《僕はキミに――いや、マスターに敗れた。だから、忠誠を誓うんだ》

「お前は本当にそれでいいのか?」

《……はい》

「わかった」《こちらNo.9、これより本部へ帰還します。なお、ランクSSテットを本部へ同行させます。本部立ち入りの許可を申請します》

《本部、了解しました》

「いまから俺らの本部にお前を連れて行く。これからどうなるかはそこで決めてもらうが、それでいいな」

《マスターの意のままに》


 ――EXPERT本部、司令室。

「No.21、雨宮 霧。入ります」

 虚空の前に霧が姿を現す。

「……来たか」

「私に伝えておきたい話があるということですが?」

「ああ。今しがた新しいEXPERTが入った。No.は70。――イレギュラーだ」

[* イレギュラー:正式な訓練を受けずに能力に目覚めたEXPERTの総称。無我や総真、それに凪がそれに当てはまる]

「examinationエグザミネーション”C”で今年は一人も新人が来なかったのに珍しいですね。……ですが、それと私にどんな関係が?」

「君が捜していた能力を持っている。――瞬間ラーニング能力をな」


 ――午後九時、舞川家玄関前。

 無我はルフィルを連れて陸の家の前までやってきたが、そこで立ち尽くしていた。

「さて、弱りましたな。呼ばれたとはいえ、非常に訪問しずらい時間だ」

《日を改めたらどうですか?》

「うーん。けど、今日じゃなきゃダメな用かも知れないしな」

 あの後、ルフィルは司法取引に近い形で罪を消してもらった。(EXPERTに入隊することで罪は問わないというような内容)

 あとはいろいろな手続きで時間がかかり、今に至るわけで。

《マスター。どうするんですか?》

「迷っていて仕方ないか」 意を決し、無我は手をインターフォンに伸ばした。

 家の中でチャイムがなった音が、かすかにここまで聞こえてくる。

 ――少しして、女性の声がインターフォンから聞こえてきた。

「はい」

「えっと……。陸さん、います?」

「どちらさまですか?」

「無我が来たと伝えてもらえれば――」

「む、無我ぁ?」 名前を聞いたとたん、インターフォンの女性の口調が変わる。そして、受話器を叩きつけて置いたような音が聞こえた直後、通話が切れる。

 家の中から廊下を走る音が聞こえてくる。その次の瞬間、勢いよく玄関が開かれる。

 ――玄関から出てきたのは夕菜だった。

「ちょっとっ! こんな時間に家に何の用なのよ?」

「ゆ、夕菜?」 無我は知らなかった。陸の娘で日向の姉が夕菜だということは。

 と、夕菜と無我の後ろにいたルフィルの目が合う。

「……テット? ちょっとあんた、なんでそんなモン連れてんのよ?」

《そ、そんなモン!? そんなモンってちょっとっ――》

《無駄だ。EXPERT以外にこの声は届かんよ》「……そんなことより、なんで夕菜がここにいるんだよ?」

「私の家に私がいてなにがいけないのよ? 私にはなんであんたが家に来ているのかが不思議よ」

「俺が呼んだからだ」 玄関から陸が姿を現す。

「お父さん」

「……はい?」 夕菜が陸を『お父さん』と呼んだことで、無我は夕菜が日向の姉ということを理解する。

「無我。ずいぶんと遅かったな?」

「ちょっと手間取ってな」

「連絡は来ている。――そいつが噂のルフィルか」

 そういってルフィルを確認する。

「ちょ、ちょっと何? なんなの?」

 夕菜にとっては、内容の見えない話である。

「まぁ、ここでくっちゃべっててもしゃあないだろ? 中に入れや、無我」


 リビングに案内された無我を待っていたのは、成長した日向だった。

「お、お久しぶりです、お兄ちゃん」 

「お、お兄ちゃん?」 無我を兄と呼ぶ妹に、夕菜は戸惑いを隠せない。

「……その呼び方はやめろっての。――七年ぶりだな、日向」

 名前を呼ばれて日向の顔が明るくなる。

「なんなの、もう」 もはや、夕菜にとってはわけのわからない状況となっている。

「無我と日向は、七年前に一度、俺に連れられて仕事場の保養地に行った時に会っているんだよ」 陸が説明に入る。

「どうしてこいつがお父さんの仕事場の保養地に居るわけなのよ?」

《おい、おやっさん。EXPERTの事は伏せてもらうぜ》 無我は慌てて陸に口止めのテレパシーを送る。

《わかっている、安心しろ》「――無我の父親は俺の仕事仲間でな、その関係で無我は俺たちの仕事を手伝うこともあるんだよ」

「じゃあ、無我のバイト先ってお父さんの職場だったんだ。……あれ? だとすると、七年前ってことは、こいつ九歳の頃から働いていたってこと?」

「お兄ちゃんは凄いんだよ? ――レビテーションって知ってる?」

「そりゃ、こう見えてもガーディアンの卵だからね――って、なんで日向がそんな言葉しってんのよ?」

「お兄ちゃんが見せてくれたの、昔に」

「は? じゃあ、アンタ、九歳の時にもうレビテーションを使えたってこと!?」

 リビングに陽子がやってきた。

「はいはい、無駄話はそれくらいにしなさいね」 陽子が夕菜の話に待ったをかける。

 そしてそのまま、陽子は無我に話しかける。

「でも、無我くんも冷たいね。プラナに引っ越してきてたのなら、一度くらい家に顔を見せに来てくれてもよかったのに」

「お母さんとまで面識があるんだ……」 もう夕菜はため息をつく他なかった。

 だが、本当の問題はこの次の陽子の言葉だった。

「でも、まぁいいでしょう。今日からは無我くんはここで暮らすんだから」

「「はい?」」 突然のこの言葉に、無我と夕菜の声が重なった。

「なによ? なんでそんな話しになってるわけ?」

「俺だって初耳だ。説明してもらうぞ、おやっさん?」

「悪いな、無我。お前はただでさえ過剰に働いているのに、緊急時には寝ずに出動してるからな。――総真に聞いたぞ? 今日、ぶっ倒れたんだってな?」

「! そうよ、こいつのせいでBoutに負けたんだから」

「だから、俺の家に住ます事にしたんだ。――虚空の承諾も得ている」

「!」 虚空の名が出ると無我の表情が変わる。

《マスター?》 ルフィルはこの無我の表情を知っている。最初に無我と会ったときに見せた、怒りに近い感情だ。

「……これは俺から虚空に提案したことだ。無我、虚空との約束を守るつもりなら本部よりここの方が都合がいいだろ?」

「お兄ちゃん、嫌なの? ここに住むこと?」

「――こいつも一緒だが、問題ないか?」 ルフィルを掴み、前に出す。

「ああ、問題ない」

「ちょっと、私はまだ納得してないっ」 夕菜はまだ納得がいっていないようだ。

「あら? 夕菜ちゃんに拒否権はないよ?」 納得のいかない夕菜に対し、陽子が拒否権なしと告げる。

「な、なんでよ?」

「この件についての確認は昨日にしているはずよ? その時に拒否してれば仕方なかったんだけど、夕菜ちゃんろくに話も聞いてくれなかったじゃない」

「う、う」 結論。夕菜さん、人の話は最後まで聞きましょう。

「決まりだな。無我、お前の部屋は二階の奥に用意してある」

《え、と……よろしくお願いします》

 ルフィルは陸に対してそういったつもりだった。が、ルフィルの言葉に返事をしたのは、日向だった。

「うん、よろしくね。――えーと、お兄ちゃん、この子の名前は?」

「名前か……」《おい、お前の名は?》

《名前なんかないよ? マスターが名付けていいよ》

「名はない。そのままルフィルでいい」

「じゃあ、『フィル』ちゃんね。いいでしょお兄ちゃん?」

「それが呼びやすいならいいんじゃないか? ……じゃあ、俺は部屋の方をを見せてもらう」

 無我がリビングを出て、階段を上っていく。

「フィルちゃんも行こ」 日向はルフィルの羽根を掴み、ルフィルを連れて無我の後を追う。

《ちょ、ちょっと。痛いよ》 リビングを出たところで、ルフィルが痛みを訴えた。

「あ、ゴメン、痛かった?」

 すると日向は、ルフィルの言葉が聞こえたかのように、ルフィルの羽根から手を離した。

(え? まさか、僕の声が聞こえている?)《……ねぇ?》 確認のためルフィルは日向を呼んでみる。

「ん? なに、フィルちゃん?」 即座に日向が反応した。

《……キミ、僕の声がわかるの?》 ルフィルは確信をつく質問を日向に飛ばす。

「なにいってるの、フィルちゃん? さっきからずっとお兄ちゃんと話してたじゃない?」

(……僕の声ってマスターみたいなEXPERTしか聞こえないんじゃ?)

「はやく行こうよ、フィルちゃん? お兄ちゃんが待ってるよ?」

《あ、うん》(まさか、この子もEXPERTなの?)


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