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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
Episode 1.Bout
6/42

Round 5.平男vs美紅 完全構築のフォースウェポン

「ゴメン、負けちゃった」

 夕菜が平男と幻斗のいる場所に戻ってくる。

「ははは。まぁ、仕方ないよ。能力に目覚めただけ得したと思えば?」

 平男の言うとおり、エレメンタルフォースに目覚めたことは、夕菜にとってはかなりのメリットになるだろう。

「――平男、こんなこと言えた義理じゃないけど……勝ってね」

「ははは。まぁ頑張るよ」

「……夕菜ちゃん、酷いや。友人の私に負けろって言うんだ?」

 美紅が話に割り込んでくる。

「今は敵同士、でしょ。美紅?」

「そうだったね、夕菜ちゃん」

 総真が平男と美紅に声をかける。

「おーい。そろそろ副将戦を始めるぞ? 準備はいいか?」

「はい、OKです」 美紅は即答した。

「ははは。僕の方もいつでもいいよ」 平男の方も準備万端のようだ。

「じゃあ、二人とも装置の前につけ。装置を身に着け次第、すぐに始める」

 平男と美紅が装置の前の席に座り、装置のヘルメットを身に着けた。

 平男と美紅が仮想空間に現れる。空間はワイヤーフレームの世界ではなく、先程夕菜たちが戦った円状のリングのある空間だった。

「どうする? 希望ならば空間を書き換えるが?」

「このままで構いません」

「ははは。僕の方も問題ないよ」

 両者、異議なし。

「じゃあ、互いにフォースを展開しろ」

 平男がナイフを生成する。そして、美紅が作り出した武器は――杖だった。


「杖? 美紅の武器って杖なの?」 初めて見る美紅の武器に、夕菜は意外そうな顔を見せる。

「杖、か。やっかいだな」 幻斗は武器が杖と見るなりそう口にした。

「やっかい? なんでよ、桐生? 別に珍しくもない、ただの杖じゃないの」

「フォースでただの杖を武器にするもんか。……打撃目的ならハンマーやメイスを武器にすればいい。それを杖にしたってことは――」

「なにかしらの付加価値を付けてあるってこと? じゃあ、桐生は美紅の杖には何かあるっていいたいわけなの?」


 杖を回転させ、美紅が身構える。

「うーん、杖か。さしずめ魔法でも放つつもりなのかな?」 平男は美紅の杖を冷静に分析する。

「似たようなものと思ってもらっていいですよ」

「あらら、簡単に手の内をさらすんだ」

「ほんの一部ですよ。あなたのナイフみたいに」

「ありゃ? コレ知ってたんだ」

 どうやら美紅は平男のナイフをひと目みてスプリングナイフと気づいたようだ。

「準備はいいか? 始めるぞ。A組 平田 伸男。D組 五十嵐 美紅。副将戦、始めっ」

 総真の開始の合図と同時に、平男が動いた。

 平男がナイフを野球のアンダースローのように振りかぶり、スプリングナイフのトリガーを引いた。低い弾道でナイフの刃が飛んで行く。刃からは釣り糸のような細い糸が出ていた。

 美紅の足元から刃が迫る。美紅はとっさに刃の後に続いてくる糸に杖を当てた。杖を中心に糸が巻き取られていく。

「あれ? 見きられちゃってるの?」

 平男は、糸が杖に巻きついて使い物にならなくなったナイフを消し、手元で新たなナイフを再生成する。

牽制けんせいのつもりでしかなかったのでは? 今のが本気の攻撃とは思えませんよ?」 美紅は今の平男の攻撃が手を抜いているようにしか見えないようだ。

「ははは。――じゃあ、本来の使い方でいきましょうか」 ナイフを手に平男は美紅との間合いを一気に詰める。

 ナイフで美紅に斬りつける。美紅は上体を反らし回避、そのまま杖で平男の腹部を強打する。

[平男、ダメージ 112(888/1000)]

 ダウンがないので攻撃の手は止まらない。再びナイフが美紅を襲う。美紅はバックステップでナイフをかわすが、平男はトリガーを握り刃を飛ばして追撃する。だが、美紅は杖を回転させ盾のようにして防御。――攻撃は成立しない。

 美紅が杖で攻撃を仕掛けると、平男は美紅から距離をとった。

「ははは。ひょっとして不利なのかな? 僕が」


「うーん。やるね、彼女。ひょっとして舞川より強いんじゃないの?」

「何言ってんのよ、桐生? 平男がちんたらやってるだけじゃない?」

「本当にそうかしら?」

 遥と神威が二人の会話に入ってくる。

「五十嵐さん、まだ杖にのせた能力を見せていないけど?」

「何よ? アンタまで美紅の方が強いって言いたいわけ? そりゃ、同じクラスの仲間を応援する気持ちはわからないでもないけど――」

「別にアナタが強いとか弱いとかはどうでもいいわ。私が言いたいのは、まだ五十嵐さんは本気を出していないってこと。氷室もそう思うでしょ?」

「僕はナイフの彼の方が気になるね。何か、まるで別の事を考えながら動いているみたいだ」


 互いに間合いをとっての仕切りなおし。武器を構えて動けない状態が続く。

(攻撃がないのはありがたいかな? まだ構築には時間がかかるや) 神威の予想通り、平男は何かを狙っているようだ。

「……なにが目的かは知りませんけど、そっちがそのままこんな攻撃を続けるのであれば、私は一気に決めさせてもらいます」 杖の先端に光の球が生成させる。

 杖の先には光の球。美紅はその杖を振りかざした。光の球が平男めがけて飛来する。

「わわわ、これはちょっとマズイかな」 右方に向けて飛びのく。

「これが私のフォースウェポン、『フォースロッド』です。――では、連続でいきます」 杖が放つ光の球の間隔が早くなった。

 多数の光の球が平男を襲う。平男はかろうじてながらも攻撃を回避しつづける。

「うーん。――仕方ないや、こっちも反撃しなきゃ」 スプリングナイフを持つ右手とは逆の左手に投げナイフを作り出す。

 投げナイフによる攻撃。夕菜が遥戦で見せたダーツの矢で連続攻撃を止める方法と同じ手法だ。

「……残念ながら、それは真壱さんの武器が弓矢だったから有効だった方法。こうすれば――」 フォースロッドの光の球で投げナイフを相殺。再度平男に向けて攻撃を開始する。


「私の弓とは違って五十嵐さんの動作は杖を振るだけだからね。いくら球の速度が遅くても、発射速度でカバーできるってことかしら?」

「これってちょっとまずいんじゃない? 平男だって何発もかわし続けられないでしょ? 今は避けつづけれても、いつか当たることに――」


 仮想空間の外で夕菜がそう言った直後だった。美紅の放つ三つの光の球が一斉に平男に飛来する。これはかわすことはできない。

(これはよけられないかな? 仕方ないか、一撃受けてダウンしよう)

 一つの光の球が平男にクリーンヒットする。平男は背中からリングに倒れ込んだ。

[平男、ダメージ 201(687/1000)]

「ダウンだ」

 総真の声に、美紅は攻撃の手を止める。

銃身バレル、OK。弾倉マガジン、OK。撃鉄ハンマー、OK。後は引金トリガーのみ」 平男は何かを確認するかのように、ブツブツと呟いている。

(けど、ダウンは思ったより時間が稼げるや。もう一撃だけ受けてみようかな?)

 平男が立ちあがる。

「よし、続行だ」 総真の続行サイン。

「ははは。――この程度の攻撃力だったら無理してかわすことなかったよ」 平男が美紅を挑発し始める。

 そしてそのまま言葉を続ける。

「なんなら、もう一発くらってあげるから撃ってきなよ?」

「……そうですか。なら本気で放たせてもらいます」 美紅の杖に光の球が生成される。その大きさはさっきの倍ほどだった。

(倍程度かぁ。受けて四、五百ダメージってとこかな。――よしっ。構築に専念させてもらおう)

 光の球が放たれた。平男に回避動作は見られない。

 ――直撃。平男が背をつけて倒れた。

[平男、ダメージ 499(188/1000)]

「ダウンだ、構えを解け」

 総真のダウンコールを聞き、美紅は構えを解いた。

「どんな魂胆こんたんかは知りませんけど、これで私の勝ちは決まりですね」


「どーすんのよ、桐生? あと一撃で平男の奴、終わっちゃうじゃないのよ?」

「俺に言っても知るかよ? ……ただのハッタリなのか? それとも、奥の手があるっていうのか、この状況で?」

「……九割方、勝ちは決まっている。――けど、もし彼が先程の彼女のようにとんでもない能力をもっていて、しかもそれをコントロール出来ているとしたら?」

 神威の言葉を聞いて、夕菜は先ほどの能力を思い浮かべる。

「平男もあの炎が使えるとでも言いたいの?」

「氷室が言っているのは、可能性の話よ。炎じゃなくても、攻撃を無効化できる能力とかをもっているかもしれないってことでしょ?」

 遥が神威の話に補足説明を入れる。だが、神威の見解は少し違うようだった。

「――いや、彼はなにかを狙っている。無敵の盾をもっているというよりは、圧倒的強さの剣を隠し持っているような……、そんな感じがする」


「ははは、氷室くんの正解だよ。――僕には舞川さんのような能力はない。けどね、特定の条件を満たすことで生成できるフォースがあるとしたら?」

 仮想空間外の会話に聞き耳を立てつつ、平男はダウンから立ちあがる。

「あなたが仮に、そういう剣を持っていたとしても、今のこの間合いで何がどうできるっていうのですか?」 美紅は杖を構えなおす。

「それは、先生の再開の合図の後ですぐにわかるよ」

「なら私は、その前に終わらせてあげます」

「――続行」 頃合いを見て総真が試合を再開させた。

 合図と同時に、美紅がフォースロッドで光球を放った。その数、五つ。


「一気に五発? ――美紅はここで勝負を決めるつもりなんだ」

「五十嵐さんの攻撃を回避するのは困難、そして、彼には攻撃を耐えるライフも残っていない。どうでるの、彼は?」

 夕菜と遥が平男の動向に注目する。

 五つの光球が平男に命中すると思えたその時だった。仮想空間の中から耳を劈く(つんざく)、乾いた爆音が発生した。

「――なんて音なの? 花火?」 夕菜はとっさに耳を塞いだが、それでも爆音は耳を劈く勢いで響いてくる。

 この音は花火の音なんかではなかった。これこそが、平男の奥の手ということなのだろう。


[美紅、ダメージ 2209(0/1000)]

「勝負あり。勝者、平田 伸男」 爆音の直後、総真が平男の勝利を宣言した。

「え? なに? 何が起こったの?」 美紅が困惑の表情を浮かべている。

 ダメージを受けた本人なのに、なにが起きたのかが理解できない。――無意識に、攻撃を受けた胸元をおさえながら。

「僕の攻撃の方が先に命中したんだよ」 平男の手には黒い物体。その先端からは煙が上がっている。


 勝負が決まり、仮想空間内から平男と美紅の姿が消える。

「平男の奴、銃を生成していたのか」 幻斗は平男が持つ物体が拳銃ということにすぐに気づいた。

 が、使った武器が拳銃と判明したというのに、遥はまだ納得がいかないような表情を浮かべている。

「でも何なの、今の銃声は? フォースウェポンであんな――仮想空間を突き抜けてまで聞こえてくる銃声を発生させるなんて……」

 仮想空間から戻ってきた平男が、装置のバイザーを上げて、遥の疑問に答える。

「氷室くんなら気付いているんじゃないかな? ね、氷室くん?」

「……真壱。あれは完全構築型のフォースウェポンだ」 平男の予想通り、神威は平男の奥の手がどういうものかわかっているようだ。

「ははは。さすがだね、氷室くん。そのとおりだよ」

「……ちょっと、桐生。完全構築のフォースウェポンってなに?」

「やれやれ。夕菜さん、普通、フォースウェポンっていうのは使用者の能力次第で威力が変わるんだ。だが完全構築した場合、武器の細部まで完全に再現されるから威力は使用者の力量に関係なく、武器本来の威力になるって能力だよ」

「つまりね、舞川さん。さっき僕が出した銃は本物の銃と全く同じ殺傷力があるってわけ。――でもね、さっき言ったようにコレを作り出すには条件があってね、部品からネジのひとつひとつまで構築しなくちゃいけないからものすごく時間がかかるんだよ」

「それをキミはナイフを振りながら行なっていたというわけだな」 神威が先ほどの試合で気になっていた平男の攻撃についてを指摘する。

「ははは。……ナイフ攻撃はたんなる囮動作だったからね。もう少しうまく動ければもっと使い勝手のいい能力になるんだろうけどね」

「……どうやら完全に私の負けのようですね」 それを聞いて美紅は負けを認める。

「ははは。そうでもないよ? 言ってみれば今回、このBoutのルールのおかげで発動させることが出来たようなものだからね。実戦だったらダウン中に追撃を受けて終わってたよ」

 と、総真が会話に割り込んで、これまでの経過を伝える。

「これで3ptと2pt、A組のリードだな。次は大将戦だ。A組、法名 無我。D組、氷室 神威――」

「無我、あんたの番よ?」

 夕菜が無我に語りかけるが、無我からの返答はない。

「ちょっと、無我? 聞いてんの?」 そういいながら、夕菜が無我を確認してみると――

 無我はあいかわらず椅子に座って眠り込んでいる。

「ちょっ、まさかこいつずっと眠ってたの?」 夕菜は今、無我が眠りこけていたことに気づく。

「……夕菜さん、いまさら気付いたんですか?」 また幻斗が皮肉っぽくそういった。

「桐生っ。気づいていたんだったら起こしなさいよ! ――無我、起きなさい。あんたの番よっ」 夕菜が無我を激しく揺らす。

「――やめろ。気持ち悪い」 はい。無我さん、お目覚めです。

「よう、気分はどうだ?」 幻斗が寝起きの無我に調子を尋ねる。

 ……が、少し無我の様子がおかしい。

「最悪だ。――敵はあいつだな?」 そういうと無我は、殺意がこもった目で神威を睨み付けた。

 幻斗はその異変にすぐに気づいた。

「なっ――、おまえまさか寝ぼけているのかよ? これはたんなるイベントだぞ? なに本気の目になっていやがるっ」

 幻斗の言葉を無視し、仮想空間装置へと歩き出す。

「総真さんっ、無我を止めるんだ!」

 幻斗が声を上げるが、無我は無駄な動作なしに装置を身につけ、作動させる。その行為に気付き、神威も慌てて装置を身につける。

「総真さんっ、無我の奴本気になってやがる。早く装置を止めてくれっ」

 しかしそれはすでに遅かった。仮想空間内に、無我と神威の姿が現れてすぐ、それは起こった。

 その瞬間は誰も見てはいなかった。ただ、気付いた時には神威の後方に無我の姿があって、神威の首に無我の斬糸が絡み付いていた。

 その直後、神威が前方に崩れるように倒れてた。

[神威、ダメージ ―――――] ダメージのカウントは一万を超えてもまだ高速で増えつづける。

 そこで初めて総真が異変に気づく。

「! 緊急停止っ。強制終了――くっ、間に合わないか。幻斗っ、氷室の装置を外せっ」

 総真が幻斗のことを名前で呼んだ。……それはとっさに出た言葉だった。

「了解っ。舞川、無我の方を頼む」

 幻斗はこういう状況に慣れているのか、総真の指示に即座に従い、神威に駆け寄っていく

 一方夕菜は、この状況に何が起きたのかが理解できず、うろたえるしかなかった。

「僕が外すよ」 うろたえている夕菜を尻目に、平男が無我の装置を外しに動く。

 平男が装置を外すと、装置の中では無我はぐっすりと眠っていた。

「氷室は大丈夫か?」

 総真がそう問いかけると、幻斗は神威の目の前で掌をかざし、それを左右に動かした。

 神威の瞳は幻斗の掌を追う。

「大丈夫です、総真さん。氷室の意識は確認しました」

(さすが、氷室だな。六万を越えるダメージ――首をはねられるのと同じ攻撃を受けたって言うのに……)

「いったい、何が起きたの?」 まだ夕菜は何が起きたのかがわかっていないようだ。

「舞川、平田。無我を保健室に運んでくれ。……残念だが、A組は失格だ」 この出来事に総真は、無我たちの失格を告げた。

「な、なによそれ?」

「それと、幻――桐生、悪いが残って手伝ってくれ」 他の生徒の手前、今度は名前で呼ぶことに踏みとどまった。

「わかりました」

 意識を取り戻した神威は――

(僕が――、反応すら出来なかった? 彼は、いったい何をしたんだ?) 初めて経験する、圧倒的力量差による敗北を噛みしめていた。


 無我たちのBoutは、ここで終わりを告げた。


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