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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
Episode 1.Bout
5/42

Round 4.夕菜vs遙 炎の覚醒

 開始の合図と同時に夕菜が飛び出した。

 夕菜がクレイモアの刃先を引きずりながら、遥に詰め寄る。

「取った」 夕菜は重心を低くして、剣を振り上げる体勢に入る。

 だが、剣を振り上げようとしたとき、夕菜の目の前に矢が飛んできた。

「なっ」 夕菜はやむをえず攻撃を中断し、回避行動に移る。

 そして、遥から距離をとると、クレイモアを構えなおした。

「意外そうね? 間合いを詰めれば弓が引けないとでも思っていたの?」

 遥は矢を弓を介さずにそのまま投げ放ったのだ。

 遥が左手に新たな矢を作り出す。そして、矢を弓に添え、弦を引く。

「よくかわしたと思うけど、私がきちんと弓を射れば威力も速度もけた違いになるから」 夕菜に狙いをつける。

「私がだまって食らうとでも思ってんの?」 夕菜は遥を中心に円を描きながらゆっくりと歩く。

「そちらにその気があってもなくても、結果は同じことです」 弓先は夕菜への狙いを外さないように夕菜を追っている。

(一発撃たせて、次の矢を装填する前に仕掛ける) 夕菜は円を描きながら、少しづつ間合いを詰めていく。

 弦を引く手に力が入った。夕菜はその瞬間を見逃さない。一気に間合いを詰めに入る。

 距離を縮められる前に矢は放たれる。サイドステップ。攻撃を誘っておいて直撃なんてのは話にならない。矢を回避し、そのままクレイモアを振りかぶりカウンター攻撃。

[ダメージ 236――夕菜(764/1000)]

 飛びかかった夕菜が後方へとはじき飛ばされる。

「そ、そんなっ」 遥の矢は、剣を振りかぶってがら空きとなっていた夕菜の胸元に直撃していた。

 夕菜は一発目の矢は完全に回避していた。だが、夕菜が斬りかかるよりも早く、遥は二発目の矢を打ち放っていたのだ。

 飛ばされた状態から体勢を戻し、膝から着地する。胸の矢は光の屑となって消えて行く。

 遥の攻撃の手は止まらない。距離を取られたが最後、遥の放つ矢が四本一斉飛来してきた。

「くっ」 夕菜は動かないのは危険と判断し、その場から飛びのく。

 しかし、遥の次の攻撃先は夕菜の飛びのいた場所に合わさっていた。また、矢が四本一斉に放たれる。

 遥は矢を四本まとめて束ね打ち(たばねうち)しているのだ。

(このままじゃ、まずい。これじゃあ近づく事もできない。なにか方法を考えないと、1000ptなんて――。とにかく、どうにかあの矢をかいくぐって距離を――! 違う、ここは――)

 夕菜が何かを思いついたような表情を浮かべる。

 夕菜は走りながら右手にフォースを生成し始める。作られたのは一本の小さなダーツの矢。

 そして、足を止めず、ダーツの矢を遥めがけて投げ放った。

「!」 ダーツを回避するために、遥の放つ矢の嵐が一瞬おさまった。

 夕菜はその瞬間を見逃さない。その場で身体を回転させ、剣を振りまわした。そして、遠心力にまかせ剣を放り投げる。クレイモアは回転しながら遥めがけて飛んで行く。

「なっ」 さすがにこれには、遥は大きな回避動作をとらざるを得なかった。

 その隙に夕菜が遥との間合いを詰める。両手を握り締め、腕に渾身こんしんの力を込めて遥を地面へ叩きつけた。

[遥、ダメージ67(933/1000)]

「飛び道具が来ないとでも油断してるからよっ」

 遥がうつぶせに倒れた。

「ダウンだ。距離を取れ、舞川」 総真から、ダウンのコール。

 このBoutのルールでは倒れた者への追撃は認められていない。夕菜は遥から距離を取って身構えた。


 さっきの夕菜の行動を見ていて、幻斗が言葉を漏らした。

「……うーん、俺だったら距離を詰めながら――」

「そう。僕だったら、フォースを再生成しながら距離を詰めるね」

 と、神威が幻斗の独り言に割り込んでくる。

「ああ。そうすれば、舞川の能力にもよるが少なくとも三倍から四倍のダメージがあっただろうな」

「そういえば、君の名を聞いていなかったな?」

 神威が幻斗の名を尋ねる。

「おいおい。俺は部外者だぜ?」

「今は、ね。けど、いずれキミとはやりあうことになりそうなんでね」

「やれやれ。――桐生 幻斗だ。これでいいかい、天才くん?」

「そういえば、僕の方は知ってもらっているようだったね」


 遥が立ちあがり、服を軽く整えると夕菜に向かって弓を構える。

「なんかこのルール、私にすごく不利なんじゃない?」 夕菜はクレイモアを左手だけで持ち、右手にはダーツの矢を構える。

「少し、あなたをなめていたみたいですね」 遥が弓の狙いを夕菜から外し、上の方へと向ける。

「? 狙いを上に?」 夕菜が上方を確認してみるが、なにもない。

(なにあれ? あれじゃ、隙だらけじゃない)

 遥の矢が円柱状の束ね矢に変わる。

「!」 それと同時に夕菜が踏み込んだ。

「少し判断が遅いようね。――『アローレイン』」 束ね矢が上方へ放たれた。

「な、なに?」 放たれた矢を目で追う夕菜。そのために、踏み込んだ足を止めてしまった。

 束ね矢は上方でばらけ、多数の矢が空中にばらけた。しかも、夕菜がその矢に気を取られ足を止めたせいで、遥の弓は完全に夕菜を捉えていた。

「くっ」 弓で狙いを定められた以上、不用意に突っ込むわけにはいかなくなり、夕菜はその場から動けなくなる。

「これで、私の勝ちのようね」 夕菜が足を止めたことにより、遥は勝利を確信する。

「え?」

 上方で散らばった矢が雨のように夕菜に降り注いだ。矢が次々と夕菜をかすめて落ちて行く。直撃がないため、一撃のダメージは微々たるものなのだが、数がダメージを蓄積していく。

 遥が構えていた弓のつるをねじりだした。そして、その状態でさらに弦を引く。

「これでフィニッシュ。 ――『スパイラルアロー』」

 矢が螺旋を描きながら夕菜に向かって飛んで行く。夕菜は矢の雨にうたれ動く事が出来ない。螺旋の矢が夕菜を直撃、夕菜はその勢いに飛ばされダウンした。

[夕菜ダメージ。『アローレイン』TOTAL 212、『スパイラルアロー』直撃 549――]

 夕菜のライフポイントが高速でなくなっていく。

「ダウンだ」 今度は夕菜に対しての総真のダウンコール。

「ふぅ」 弓の構えを解いて、遥は一息ついた。


「なんだ? 今の、あの打ち方は?」 遥の変わった弓の射方に、幻斗が声を上げた。

「……桐生くん、『旋条痕せんじょうこん』って知ってる?」 と、平男が唐突にそう聞いてきた。

[* 旋条痕。一般的には『線条痕』と呼ばれることが多いのですが、ここではこちらの方で記載します]

「旋条痕? ――銃をぶっ放した後に弾に残るっていうあれか?」

「ははは。――じゃあ、なんで出来るかってのはわかる?」

「なんでって、ありゃあ勝手に出来るもんじゃねえのか?」

「――あれは銃口内にある溝が発射される弾丸を回転させるからだ」 またしても、神威が会話に割り込んできた。

「うん、正解。まぁ細かく言うとちょっとだけ違うんだけど……、彼女の放った矢は、その――銃の発射と同じ原理なんだ」

「矢を回転させ貫通力を高めたその矢を、夕菜ちゃんはまともに受けちゃったわけなんだ」 美紅も会話に入ってきた。

「うーん。舞川の奴、負けちまったかな?」

 幻斗の呟きに、平男が待ったをかける。

「ははは。まだ勝負は決まってないよ? ――あと3のライフが残ってるはずだから」


[夕菜ダメージ TOTAL 761(3/1000)]

「な、なによコレ? 一方的じゃない?」 仮想空間が作り出した人工的な空を見上げ、夕菜はそう呟いた。

「舞川、立てるか? それとも、ここまでか?」 総真が試合を続行するかの確認をとる。

「冗談じゃないっ、このまま終われるわけがないじゃない」 夕菜は立ちあがり、クレイモアを再生成する。

「よしっ、続行だ」

 総真の仕切りなおしの声を聞き、遥が弓を構えなおす。

「わかっているのかしら? あなたはもう、私の攻撃をかすめただけでも負けになるんですよ?」

「そんなこと、言われなくてもわかってるわよっ! けどね、このまま終われないのよ」

「そうは言っても、攻撃をかすめるだけならコレで終わりよ」 円柱状の束ね矢が生成された。――アローレインの体勢だ。

 アローレインの束ね矢が上方へと放たれる。矢は空中で散り、雨となって降り注ぐ。この限られたフィールドでは攻撃を完全に回避するのは困難、夕菜はこのまま矢の雨にうたれるしかなかった。

(このまま、このままやられるなんて――) 夕菜がそう思いはじめたとき、夕菜の身体が足元から発火しはじめる。

 その小さな種火は一瞬で炎へと変わり、炎は夕菜の身体を包み込んだ。

「! あ、あれは、『エレメンタルフォース』」 総真が夕菜の炎を見て、エレメンタルフォースという言葉を口にする。

[* エレメンタルフォース:炎、水、風など自然現象をフォースとして再現する力。かなり高度な技術な上、自分と相性のいい属性しか使用することが出来ない]

 降り注ぐ矢の雨を炎が飲み込んでいく。――矢を灰に変えて。

「なっ! 私の矢が、消された?」

「な、なによコレ? ちょっと、大丈夫なの?」 炎の勢いは弱らない。夕菜は自分の作り出した炎に困惑していた。

(まずいな。使い方もわからない状態でエレメンタルフォースに覚醒するとはな。あのまま炎を出しつづければフォース切れで気を失いかねんな。――だが、立場上アドバイスするわけにはいかんしな……)

 総真の葛藤。このままだと、夕菜は危険なのだが、自分が止めることは出来ない。考えた総真は――

《無我っ、舞川にエレメンタルフォースの止め方を――》 無我に対してテレパシーを送った。が――

《? 無我?》 テレパシーに無我からの返答はない。

 無我は椅子に座ったままうつむいていた。完全に眠っているようだ。

(まずいな。……仕方がない、試合を止めるしか――)

「炎を抑えろっ。なんでもいい、炎を消すイメージを固めるんだ。そのままだと意識を失うぞ」

 仮想空間の外から声をかけてきたのは、神威だった。

「ちょ、ちょっと氷室。なんで相手にアドバイスなんか――」

「真壱っ。今の彼女は、いわば暴走状態だ。その状態が続くと、フォースが枯渇こかつする。――下手をすると命にも関わることなんだ!」

「――やっかいな力に目覚めたものね。……聞いての通りよ。早くその炎を消したら?」

「……今消したら、私は負けちゃうじゃないの? ――だったら、このままっ」

「やめろ舞川っ! ……この勝負、判定により真壱の勝ちとする」 総真がついに試合を止める判定を下した。

「ちょ、何でよ? 私はまだ――」 総真により仮想空間装置に強制終了がかかる。

 夕菜と遥の姿が仮想空間から消えた。

 夕菜のヘルメットのバイザーが上に上がる。それと同時に夕菜が総真に詰め寄った。

「今の判定、私は納得できません。私はまだ戦えました、ライフも残っています、なのになんで私の負けになるんですか?」

「……たしかにあの状態で戦えたならお前が勝っていただろうな」

「ならなんで止めるんですか?」

「戦えたのか? あんな勢いで炎を出しつづけて?」

「それは……。でも、そんなのやってみなくちゃわからないじゃない?」

「氷室の言葉は聞こえてたな? あれは冗談でも大袈裟おおげさでもなんでもない。お前の能力から見て、もって三分ってとこだったな。――お前が意識をなくすまでにはな」

「さ、三分もあれば――」

「仮想空間とは言っても、精神のダメージについてはなんの保護もない。あのまま意識を失えば二度と目覚めない事もあったんだぞ? ……死んでいたかもしれないんだぞ?」

「……」 『死』という言葉を聞いて、夕菜は言葉を失った。

「制御不能な能力を使用した、これが判定だ。納得いったか?」

 夕菜は自分の席に戻るしかなかった。判定勝ちとしてD組に2ptが加算される。

(しかし、気になるのは氷室だな。なぜエレメンタルフォースを知っていた? あれはまるで、自分にも経験があるかのような口ぶりだな)


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