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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
Episode 1.Bout
4/42

Round 3.Bout開始

 ――三月一日(火)、午前七時。舞川家、夕菜の部屋。

「――よしっ」 鏡の前で気合を入れる夕菜。

 いつもとは違い、すでに制服に着替え、髪の整えも終わっている。

「おーいダメねぇ、起きてるぅ?」 部屋の外から日向の声。

「だ、ダメ姉?」

 部屋のドアが開かれ、日向が入ってくる。

「……あれ?」 すでに制服を着ている夕菜を見て動きが止まる。

「ねぇ、日向ちゃん? ダメ姉って誰の事かな?」

「――お母さん、今何時!? お、お姉ちゃんが起きてるぅ」 慌てて階段を駆け下りて行く。

「ちょっと待てぇっ! なにか? そんなに私が時間前に起きてるのが珍しいのかっ」 夕菜も日向を追って階段を下りていった。


 ――午前八時、2−A教室。

 引き戸が開くと、幻斗が教室に入ってきた。

「おはよう、桐生」

「!」 驚きの表情を見せると、幻斗はとっさに壁掛け時計に目を向けた。

「あんたもかっ!? なに? 私が時間前に来ててなにか悪いわけ」

「い、いやな、俺の部屋の時計が遅れてたんかと思って――」

「どうせ私は遅刻の代名詞ですよ」

「でもどうしたんだ? いくらなんでも早すぎるだろ?」

「そういうあんただって早いでしょ? まだ誰も来てないじゃない?」

「俺はいつも針ちょうどで来ているの」

「? あんたん家ってそんなに近いの?」

「ま、このエリア内だで遠くはないな」

「げっ、同じエリアだったんだ」

「その『げ』の意味はわからんが――ん? 同じエリア?」

「そ。私は駅方面の方だけど?」

「俺は反対方向だな」

「EXPERTの建物がある方向?」

「……まあな」 まさか、幻斗の家がその施設だとは思ってもいないだろう。

「いいな。やっぱEXPERTに出会ったりすんの?」

「EXPERTがそんなに珍しいか? わからんな、俺には」

 話しているうちに、だんだんと生徒が増えてきた。幻斗は自分の席の方に向かい、鞄を置いて席についた。

 それと入れ違いになるように平男がやってくる。

「ははは。珍しいね、こんな早くに来てるなんて」

「なに? アンタも時計を確認するつもり?」

「ははは、何の事なのかなぁ?」 そうは言っても視線は時計へ……

「あ・ん・た・ら・ねぇ」


 ――午前八時半。登校時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 夕菜の前の席はいまだ空席だった。

「ちょっと、あいつなにやってんのよ?」

 スピーカーがわずかな音を立てる。校内放送の電源が入ったようだ。そして、その後すぐ放送開始の合図が流れた。

『――二回生のBout参加メンバーは仮想空間装置室へ集合してください』

[* 仮想空間装置室とは、その名のとおり仮想空間装置たるものが置いてある教室の事。Boutを含む模擬戦闘の類は、仮想空間装置を使い仮想空間にて行われる。これにより、互いに全力で戦ってもケガなどの心配がないのだ]

「ちょ、ちょっと、あいつ来ないじゃないの? どーすんのよ?」

「うーん、どうしようか、舞川さん?」

 教室後方の引き戸が開く。――無我が入ってきた。

「あんた、なにやってんのよ? もう、時間がないじゃない?」

「――ああ、悪い」

 入ってきた無我を見て、幻斗が無我の反応に違和感を感じる。

「ほら、行くよ?」 夕菜が無我の手を引き教室を出ようとした時――

「ちょっと待ってくれ」 幻斗がそれを止めた。

「なによ!? 時間がないってわかってるでしょ?」

「わかってる。だか、無我に話があるんだ」

「もうっ」 夕菜の髪をかきほぐす仕草。もどかしい時などによくやる仕草だ。

「ははは。――ねぇ桐生くん? すぐに終わる?」

「ああ」

「じゃあ舞川さん、先行ってようよ」

「もう。すぐ来なさいよ」 夕菜と平男が教室を出て行った。

「廊下に出よう、無我」

「――ああ」

 無我と二人廊下に出る幻斗。そして、話を切り出した。

「お前、寝てないな?」

「わかるか?」

「見ててわかる。明らかに意識を保つので精一杯だってな」

「……用はそれだけか?」 無我が階段に向かおうとする。

「おい待て。そんな状況でBoutに出るつもりか?」

「こんなお遊びイベントくらいどうってことはない」

「代わるか? 俺と」

「必要ない」 そう言い残して階段に消えて行った。

「無我……」


 ――仮想空間装置室。

 教室の引き戸が開き、最後の一人である無我が入室する。そこにはABCD各クラスの代表十一名(無我を含めて十二人)と担当教師である総真が待っていた。

「ようやく揃ったか。無我、席につけ。今からルールを説明する」

 総真の口からBoutのルールが説明される。Boutでは、各クラス総当り形式で試合を進める。まずはA組対D組、B組対C組の試合を行い、以降A対C、B対D、A対B、C対Dと試合を繰り返していく。

 試合は仮想空間装置を使用し、仮想空間という場所で行う。

[* 仮想空間とは、仮想空間装置が作り出したプログラムの世界。装置を介して人の意識だけをその世界に入れることができる。ここでの負傷等は仮想空間を出れば何事もなかったように消える]

 仮想空間では1000ptポイントのライフがあり、このライフをなくしたら負けとなる。(審判役の教師が続行不能と判断した場合も終了となる)

 ライフを全て奪い勝った場合は3点、審判の判定で勝った場合は2点、引き分けた場合は両者に1点ずつが入る。これを先鋒、副将、大将の順に進めていき、総合得点の高いチームがBoutの勝者になるわけだ。

「――と、まあこんなところだ。なにか質問は?」

 挙手はない。

「よし。A組、D組は装置Aへ。B組、C組は装置Bの方だ。装置Aの審判は俺がやろう。九時のチャイムで始めるぞ」

 夕菜、平男、無我は装置Aの方に移動する。

 そこにあるのは、大型コンピュータのような装置と、そこから伸びているケーブル付きのヘルメット二つだった。

「これを着ければいいのかな?」 ケーブル付きヘルメットを手にとる。

「仮想空間は初めてか?」 総真が夕菜に話しかける。

「普通、初めてでしょ? こんなのいままで使わせてくれなかったじゃない」

「ま、そうだわな。A組先鋒は舞川で、D組は……真壱まいち はるかか。真壱、準備はいいか?」

「はい」 用意されている席に座り、ヘルメットを手にとる。

 夕菜も椅子を引き、席についた。

 と、そのとき教室の引き戸が開く。入ってきたのは幻斗だった。

「あれ? まだ始まってなかったか」

「桐生? あんた何しに――」 突然の乱入者に夕菜が声を上げる。

「なに、総真さんに確認したいことがあってね」

「俺にか? ――時間がないから手短にしてくれよ」

「たしか、Boutは観戦が授業になってるんでしたね?」

「ああ、そのとおりだ」

「観戦場所に制限はありませんでしたよね?」

「仮想空間の映像を受信できる場所ならどの教室で見てもいいことになっている」

「ありがとうございます。確認は以上です」

「それだけか? まあいい、用が済んだら観戦場所に戻れ」

「は? なにを言っているんですか、総真さん? 観戦場所は自由なんでしょ? ――それはここも例外じゃないんでしょ?」

「なっ!? ――お前、最初からそのつもりでここに?」

「たしかに彼の言い分は正しいですね」 D組の大将が話に割り込んできた。

「ほう。D組の大将は天才『氷室ひむろ 神威かむい』か」 どうやら幻斗は彼を知っているようだ。

「その呼ばれ方はあまり好ましくないな」

「で、こちらは始めていいのですか?」 装置の前で待機している遥がしびれをきらす。

 九時のチャイムが鳴った。

「まー、余計な乱入者のせいでゴタゴタしたが、先鋒戦、舞川 夕菜VS真壱 遥――」

 総真の合図で、遥がヘルメットを装着する。それを見て、夕菜も慌てて後に続く。

 ヘルメットのバイザーを下ろすと、意識がバイザー越しに見える仮想空間へと引きこまれていった。


 ――仮想空間。

 真っ暗闇の中、青いワイヤーフレームの世界が目の前に広がっている。

 夕菜と遥が対峙するように仮想空間に現れた。

「なに、ここ? これが、仮想空間?」 夕菜にとっては初めて見る光景。

『そのままじゃ殺風景だろ? いま、バトルフィールドを映し出してやる』 空間内に総真の声が響く。

 仮想空間に円状のバトルリングが現れる。そして、辺りが学校の校庭に似た背景へと変わっていく。

 二人の左肩付近に『1000pt』という文字が浮かび上がる。

「これは?」 夕菜は現れた数字に目を向ける。

「これが、さっき説明のあったライフポイントみたいね」 遙かも自分の肩に現れた数字を確認した。

『そのとおり。そいつがゼロになれば負けだ。互いに自分のフォースを展開しろ。そしたら、開始の合図を出す』

「わかりました」 遥の両手に二つの光の球が現れる。

(二刀流の武器? なに?)

「こちらに気を取られている場合ではないと思いますが?」 遙の生成する光の球は、徐々に大きくなる。

(そうだった。――けっきょく何も思いつかなかったな) 夕菜は光の球を一つ、両手で形成し始めた。


「さて、夕菜さんはどんな武器にしたのかな?」

 仮想空間の外で、幻斗と平男がその光景を見ながら夕菜の武器の予想を話し合っている。

「ははは。あの形成方法だときっと両手武器だね」

「ほう。すると、夕菜さんの武器は斧かハンマーかな?」

「ははは。なんか想像できるね」


 遥の両手に現れたのは長弓と矢だった。

「弓使いか。少しやっかいな相手だな」

「弓使い……、けど、遠距離タイプの武器なら私にも勝ち目はある」

 夕菜が形成したのは、自分の背丈ほどの大きさの剣だった。


「ほう、『クレイモア』とはねぇ」 幻斗は夕菜の武器を一目見て、そう答えた。

「ははは。彼女はクレイモアなんて名称、知らずに出したんじゃないかな?」

「だろうな。ま、本能で出したとなれば、夕菜さんの得意武器は大型両手剣ってことになるな」

 一方、D組の二人も仮想空間の様子を見ながら、戦いの行く末の予想を話し合っていた。

「クレイモア、か。間接攻撃と大型の直接攻撃武器、相性ではA組の彼女の方が上だな。さて、どう戦う? 真壱」 神威は夕菜の方が有利と見ているようだ。

「大丈夫だよ。真壱さんだって、そんなことは百も承知だから。それに夕菜ちゃん、昨日まで武器に迷っていたから、あの武器を使いこなせる保証なんてないしね」

 さてさて、なにやらD組副将は夕菜さんのことをよくご存知のようで。――ま、わかってると思うけど一応紹介ね。D組副将は五十嵐 美紅、夕菜の親友である。

「よーし、準備はいいな。先鋒戦、始めっ」 総真が、開始の合図を出した。


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