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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
examination”C”
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examinationⅩⅠ.神威vs日向 神威の赤き刃

「――9(ナイン)……」

 総真の9カウント。この瞬間に平男が立ち上がるものと、誰もが思っていた。――そう、幻斗以外は。

「そうそう。俺はみすみす相手に時間をくれてやるようなお人好しじゃあないんだぜ?」 幻斗は倒れている平男に向かってそう言い捨てた。

 それは第三者にはわからない、平男本人しか感じることのできない現象だった。――平男は9カウントで立ち上がろうとしていたのだ。だが、見えない何かに押さえつけられているかのように、起き上がれなくなっていた。

(――!? や、やられた。桐生くんが最初に僕を覗き込んだのは、僕の身体を風圧で押さえつけるための伏線――)

 気づくのが遅かった。残り一秒で平男にできることはもう、何もない。

「――10(テン)。……勝者、桐生 幻斗」 10カウント。総真は幻斗に勝ちを告げた。

「俺の方が一枚上手だったな」 幻斗が指をならすと、平男を押さえつけていた風のフォースが解除された。

「――はははは。やられちゃったよ」 平男は立ち上がり、舞台を降りた。外見では笑っているようだったが、その内心は本人以外は知ることは出来ないだろう。

 舞台に残った幻斗が神威に呼びかける。

「来いよ、天才くん。――連戦だ」 舞台上から神威を呼びつける。

「幻斗さん。それはなし。――私の楽しみをとらないでよね」 日向が舞台に飛び上がる。

「――扉から入れ。そう舞台に上がられると、戦闘中のフォースを遮断できなくなる」 飛び上がった日向を、総真が呼び止める。

「はーい」 日向は舞台を降りて舞台裏に続く扉の方へと歩いていく。

「桐生も舞台から降りろ。勝手は認めん」 総真は幻斗にも声をかける。当然、そんな勝手は認められない。

「はいはい」 そういって幻斗はしぶしぶ舞台を降りた。

 それとすれ違いに、神威が舞台裏に続く扉をくぐる。――日向はすでに舞台裏を出て壇上にいた。

「日向の奴、なんであんなに楽しそうにしてんのよ?」 夕菜がポツリと呟いた。

 その呟きに凪が答えた。

「日向、私以外の人間と交戦するのは初めて」

「彼女、強いんですか?」 遥が凪に問う。

「強い。――私でも能力を制限してたら勝てない」 凪ははっきりとそう答えた。

「ただ強いって言われても……、せめて日向の能力がどういう能力かぐらいは言ってくれないと」 夕菜がさらに凪に詰め寄る。

「彼女は稀に見る珍しい特性を持ってる」

「珍しい特性って、アイツが?」 夕菜は日向が特別だっていうことが信じられないようだった。

 舞台上に、神威が姿を現す。

「待ったよ、お兄さん。――じゃあ、始めようか」

 日向と神威が対峙する。

「――第四戦、氷室 神威vs舞川 日向。始めっ」

 総真の開始の合図と同時に、神威が舞台を凍らせ始めた。――舞台は瞬く間に氷の世界へ。神威の『アブソリュート・ゼロ』の発動だ。

「わぁ。お兄さん、すごいね? これ、綺麗だよ」

「ちょっとアンタ、なにのん気なこと言ってんのよ? それは氷室が有利になる技なんだよ?」 のんきな日向に夕菜はツッコミを入れずにはいられなかった。

 氷の舞台を先に動き出したのは神威だった。

「――『氷牙ひょうが』」 神威が氷牙を放つ。

 日向の足元、氷のフィールドから巨大氷柱が日向を襲う。――が、日向は冷静だった。日向は炎を放ち、襲い掛かるその氷柱を解かした。

「――まさか、この技のために氷の舞台にしたんじゃないよね? だとしたら、この能力はお兄さんに足かせにしかならないよ?」

「足かせ? もしかしてキミは氷牙が単発でしか放てないとでも思っているのかい? 足元に氷があるかぎり、僕の氷牙は無制限で放てるんだ」

 そういうと神威は、今度は連続で氷牙を放つ。無数の氷柱が日向を襲う。それと同時に神威が距離を詰めてきた。神威の手の中にはフォースの光。それは槍に姿を変えて日向を襲う。氷柱と槍の連続攻撃、回避は不可能に思えたが――

 氷牙が神威に牙を剥いた。無数の氷柱が神威の行く手をさえぎった。

「なっ!」 これには神威も表情を変えずにはいられなかった。

[神威、ダメージ19%(残り81%)]

「だから言ったのに……」 日向がそう言葉を漏らした。――神威を襲った氷牙は日向が放ったのだ。

「これって、さっき弓のお姉さんが使った雨を降らす技と同類の技でしょ? ――で、幻斗さん言ってたよね? 属性によっては受ける効果が違うって。つまりはこの技も同じ原理で、お兄さんと同じ属性を使えば、同じ事ができるってことでしょ?」

「? どういうこと? アイツ、何言ってるわけ、無我?」 夕菜さんにはちょっと難しいようで。

「早い話が、今舞台は氷属性の人間なら誰でも氷牙を撃てる場所になってるんだよ」 話を振られた無我は、簡潔に説明した。

 と、遥がその会話に入ってくる。

「え? 彼女って、氷属性なの? 私、てっきり炎の属性かと……」 遥は日向を炎の属性持ちだと思っているようだ。

「それは私の妹だからってこと? 真壱さぁ、いくら姉妹だからって、属性が同じとは限らないんじゃない?」 夕菜が遥の言葉を否定する。

 それに対し、遥が言葉を続ける。

「そうじゃなくて――。アナタはその場にいなかったから知らないのかもしれないけど、彼女、この前の学校襲撃の時、火の鳥を放つ技を使っていたのよ。それに、さっきだって氷を溶かすのに炎を放ったじゃない?」

 遥の言葉に無我が何かに気づく。そして、凪にその疑問をぶつける。

「!――おい、凪? まさか日向は『フルエレメント』か?」 無我がそう口にした。

「そう。彼女はフルエレメント。全ての属性を使用できる特性の持ち主」 無我の質問を、凪は肯定した。

 神威がアブソリュート・ゼロを解除する。凍った舞台は一瞬にして元の舞台に戻る。

「うん、それが正解だね。――でも、お兄さん。一瞬で氷の舞台を解除できるんだ」

「法名のあの技――如月の対策だ」 どうやら神威は、同じてつを踏まないように、一瞬でアブソリュート・ゼロを解除する術を修得していたようだ。

「ふーん。で、お兄さん? 次はどうするの?」

「……先生、ひとつ確認したいことがあります」

 日向に次の手を尋ねられた神威は、総真に確認したいことがあると言い出した。

「確認? ――言ってみろ、氷室」

「――彼女はEXPERT能力を禁止されているんですよね?」

「何、お兄さん? そんなに私が信じられないのかなぁ?」

「気を悪くしたのならば、この場で詫びておこう。だが、聞きたい事はそうじゃない」

「? 何が言いたい?」 質問の意図が見えない総真は、神威に対して聞き返した。

「単刀直入で言いましょう。EXPERT能力を禁じているのは彼女だけですよね?」

「……そうだ」 総真は言葉を少し溜めてからそう返した。

 この神威の言葉に、総真はある仮定を作らざるえなかった。

 神威の言葉をそのまま受け取れば、神威の言葉には、『これから僕はEXPERT能力を使用しますが、よろしいですか』、と意味が含まれているということだ。

 そしてそれはすぐに仮定ではなくなった。

 神威は槍を生成し、その槍にフォースを送る。――槍の刃は赤く光輝く。

「! ――神威の奴、Aモードを発動させやがった」 それに真っ先に気づいたのは無我だった。

「ちょ、ちょっと。なんで氷室があの力を使えるのよ?」 夕菜がそう口にすると――

「天才、だからだろうな……」 幻斗が夕菜にそう返した。

 神威は槍を身構える。――このとき、日向の目つきが本気の目に変わっていたことには誰一人気付いていなかった。

「――総真さん、最悪ギリギリで止めてくださいね。自分から申し込んでおいてなんなんですが、ちょっと残りライフを気にしながら戦う余裕がなくなりました」 日向は総真に向かってそう言うと、その手に一枚のトランプを生成する。――ハートのAだ。

「ハートのA。『フェニックスダイブ』」

 日向の放つ、巨大な火の鳥が神威を襲う。しかし、神威の槍でそれは簡単に蹴散らされてしまう。そこに降り注ぐ剣の雨。日向の手には新たなトランプ、スペードの10。日向の『フォールダウンソード』が神威に反撃の隙を与えない。

 だが、剣は神威に当たらない。その剣の雨の中から神威の赤い槍先が日向を襲う。日向は巨大な氷の盾を作りだし、神威の槍を防ごうとするが、すぐに砕かれてしまう。

 砕け散った氷の盾が日向の姿をくらます。――と、神威が突然ピラミッドの中に閉じ込められる。

「『ピラミッドスクエア』、これにはこんな使い方もあるんだよ?」 ダイヤの5のトランプを手に、日向が神威に向かってそう言った。

 そして日向は、徐々にピラミッドのサイズを小さくしていく。

「終わりだよ、お兄さん」 神威の逃げ場を奪う、日向の攻撃。

 だが、神威は冷静だった。逃げ場をなくした神威がとった行動は――

「――『アブソリュート・ゼロ』、発動」

 神威は再度アブソリュート・ゼロを展開した。――日向が展開される氷に気を取られた一瞬の隙をついて、神威がピラミッドスクエアをAモードの赤い槍で破壊する。

 そして、それと同時に大量の氷牙が日向に襲い掛かる。――日向はとっさにピラミッドスクエアを自分の防御用に展開した。

 そこを上方から神威が赤い槍を振り下ろす。――神威のAモードによる攻撃は、日向を覆う氷牙、ピラミッドスクエアを破壊し、そのまま赤き刃は日向に直撃する――

 いや、直撃はしていない。赤き槍の刃を、日向は右手で受け止めていた。――青い光に包まれたその右手で。

「あ」 日向は神威の攻撃を受け止めた直後、目を丸くしながら声を上げていた。

「あっちゃあ……」 総真がその光景を見て、額に手を当てて言葉を漏らす。

「? どうしたんですか、先生?」 夕菜はまだ事の次第を理解できていないようだ。

「――天才くんの勝ち、そういうことだよな、無我?」 幻斗が無我にそう尋ねる。

「ああ。――日向の奴、やっちまったか……」

「? だからなにをよ? なんだって言うのよ、無我?」 事態が飲み込めない以上、夕菜にとって無我と幻斗の会話の意味が理解できない。

「そこまでだっ」 そんな中、総真が試合を止める声を上げた。

 その声を聞き、神威は槍を消し、戦闘態勢を解除する。

 日向も落胆の表情を浮かべながら、戦闘態勢を解除した。

「約束だ。いいな、No.72?」

 説明するまでもないだろうが、試合の判定は日向の反則負けとなる。――禁止されていたEXPERTスキルの一つ、Bモードを使用して攻撃を受け止めたのだから。

「――待ってください、先生。こんな決着では、僕が納得いきません」 不服を申し立てたのは、神威の方だった。

「お前はNo.72が無意識で本気になるほどの攻撃を仕掛けたんだ、これ以上なにを求める?」

「このまま、本気の彼女とやらせてください」 神威が望むのは、もう勝利などではなかった。

「却下だな」

「なぜですか!?」

「――お前はこれが試験だということを忘れてないか? どんな理由があれ、その結果を覆すということがどういうことになるのか、賢明なお前なら言わずともわかるだろう?」

「……わかりました」 総真の言葉を聞き、神威はそれ以上は踏み込まなかった。

「――勝者、氷室 神威」 そして、総真は神威の勝利を宣言した。

 日向が舞台を飛び降りた。

「さぁ、氷室も舞台から降りろ。次は無我と舞川だ」

 神威は納得がいっていない表情をしているが、総真の指示に従い舞台を降りた。

 それと入れ替わりに夕菜が扉をくぐり、舞台裏へと入っていく。――だが、無我が動かない。

「無我、お前も舞台に行け」

「――おい、総真。なんでライフを気にして戦う必要がある?」 無我は先ほどの日向の言葉がひっかかっていた。

「……お前は気にする必要は無い」 総真は言葉を濁した。

「そうか。じゃあ、俺のときも止めてもらえるんだろうな?」

「……舞台に上がれ。舞川が待っている」

 無我は扉に向かって歩き出す。そして、無我も舞台裏へ。

 無我が舞台に現れると、夕菜が続いて姿を見せる。

「――法名 無我vs舞川 夕菜。始め」

 試合が始まると、無我は総真に向かって声を上げた。

「神威には許可したんだ、俺はなしってのは聞けないぜ?」

「! ――おい、無我?」

 無我は斬糸を生成すると、それを赤く光り輝かせた。――さらに、無我の全身は青い光に包まれる。

 無我が、EXPERTスキルであるAモードとBモードを同時に発動させたのだ。

「! ――法名もAモードを使えるの?」 無我の正体を知らない真壱にとっては、驚愕の光景でしかなかった。

 が、神威がそれを否定する。

「いや、あれはAモードなんかじゃない。ABモード、EXPERTの本気の戦闘態勢……」

 幻斗は無我の様子を黙って見ていた。――いや、それはなにかあった場合すぐにでも舞台に乱入できる態勢にも見える。

 次の瞬間、無我の姿がその場から消える。

「ちょ、冗談でしょ? こんな時に――」 この三ヶ月、無我の戦い方を嫌というほど味わってきた夕菜にとって、次に無我がどういう攻撃を仕掛けてくるのかはわかっていた。

 夕菜は無我がテレポーテーションを発動した瞬間、無我がもといた場所に向かって全力で駆け出す。

 それに遅れること、一瞬。夕菜がいた場所を赤い光の斬糸が切り裂く。

 夕菜は追撃に備えて身構えるが、無我の追撃はこなかった。

 そして、無我に目を向けた瞬間、夕菜のその表情が変わる。

 テレポーテーション後の無我の姿は、EXPERTの制服姿に変わっていた。――だが、その肩に書かれているNo.は9ではなく、『2』だった。

「如月、無我……」 夕菜はNo.2のEXPERT姿を目にして、無意識にその名を口にしていた。


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