examinationⅤ.夕菜、美紅vsKiller 炎と光の共闘
――仮想空間内の3−A教室では、総真とNo.72がモニターで各生徒の様子を眺めていた。
「無我には上野がついたか。……無我には役不足だな、相手が上野じゃ。他には……」 モニターを切り替える。
二階渡り廊下の映像が映し出された。
「! ――どうやらアレは、五十嵐と舞川をターゲットにしたようだな」
そこには夕菜がサラマンドラでKillerの衣を剥いだところが映っていた。
「けど、二人を見るかぎり、今のノーマルモードのままじゃ簡単にやられちゃうと思うよ?」 No.72が総真にそう話し始めた。
「……そうだな。No.72、Killerのレベルを少しだけ上げることはできるのか?」
「うーん、少しだけってのは無理かな? まだあのJOKERは使い慣れてないからね。一段階だけ強さを上げるとすると――凪ちゃんとのトレーニングで使っていた、凪ちゃんのトーレスモードくらいかな?」
「――ま、仕方がないか。簡単にアレが倒されるのもまずいからな」
「いいの? トレースモードの強さはEXPERT能力を使わない凪ちゃんに近い強さなんだよ? 倒せない強さにしたら、この試験の意味が――」
「……かまわん。やってくれ」 総真が、No.72にKillerのレベルアップを指示した。
衣の剥がれたKillerの異様な姿に夕菜の手が止まっていた。
「気を抜かないで、夕菜ちゃんっ」
Killerが夕菜に鎌を振りかぶる。気を抜いていて反応に遅れた夕菜だったが、美紅の光の玉の一つがKillerに突撃してKillerの鎌を弾き飛ばした。
[Killer、8%ダメージ(残り88%)]
(え? いまのあの光の玉の動き……、まさか美紅、あのまわりに浮いている玉全てを自在に操れるっていうの?)
「夕菜ちゃん、攻めるよ。ダメージの表示が出るってことは、Killerは――倒せる」
Killerを倒せる……しかし、そう思えたのは一瞬でしかなかった。――Killerが風のエレメンタルフォースを発動させる。
それは、さっきまでの動きとはまるで違う動きだった。目の前の夕菜を蹴り飛ばし、すぐに振り返る。鎌で美紅に斬りかかるが、美紅はプログレスエレメントで応戦する。Killerはそれを真空の輪を放って破壊していく。
Killerの鎌と美紅の杖がぶつかりあう。その背後から夕菜がKillerに斬りかかる。
Killerはその状態から竜巻を発生させた。Killerを中心に竜巻が発生し、夕菜と美紅を吹き飛ばした。二人はそれぞれの方向の壁に激突する。
[夕菜、TOTAL12%ダメージ(残り88%)]
[美紅、9%ダメージ(残り91%)]
「な、なに? どういうこと? こいつ、急に動きが変わった?」 Killerの急変に、夕菜は驚きの表情を隠せない。
「どうやら簡単にはいかないみたいね、夕菜ちゃん」
美紅は再度プログレスエレメントを展開した。夕菜もサラマンドラに火をともす。
だがKillerは二人に構える隙を与えてはくれなかった。サラマンドラを身構える前にKillerは夕菜に襲い掛かる。
「くっ。――なら、『紅蓮纏』、発動っ」 夕菜が紅蓮纏を発動させ、身体を炎上させる。
Killerの一太刀目を紅蓮纏の炎を爆発させ、弾き返す。そしてそのまま、紅蓮纏の炎をサラマンドラに集中させ、サラマンドラの出力を上げる。夕菜を包む紅蓮纏の炎は消えたが、サラマンドラは一気に強化された。
夕菜が反撃に移ろうとした、その時だった。
Killerはその手の鎌を放棄し、すぐさま夕菜の後方に移動する。背後を取られた夕菜も、すぐに反応してKillerの方に振り返ろうとするが、間に合わない。Killerの手刀が夕菜の頸部を切り裂いた。
[夕菜、21%ダメージ(残り67%)]
頸部――首筋を軽く斬られた夕菜だったが、その直後、夕菜のサラマンドラの炎が消え、握り手のみとなったサラマンドラが廊下に転がった。
「夕菜ちゃん!?」 美紅には、なにが起きたのかがわからない。
いや、わからないのは美紅だけではなかった。夕菜自身、何が起こったのかわからないでいた。
(なんでよ? なんで急に身体が動かなくなるのよ?) 身体が動かなくなった夕菜は、なすすべなくその場に倒れこんだ。
Killerが鎌を再度生成し、夕菜に対して振りかぶる。夕菜の身体が動かなくなったことなど、お構いなしだ。
――光の玉がKillerを取り囲んだ。美紅のプログレスエレメント、その数――8。
「――これで決まらなかったら、もう勝ち目はない。これで、終わって!」
光の玉が一斉にKillerを襲う。Killerは爆煙に包まれる。そして美紅はその爆煙に向けて杖を構えた。
「『バニシング・レイ』」 杖をKillerに向けたまま、美紅がそう声を上げた。
『バニシング・レイ』の掛け声とともに、天井から光が巨大な柱のような光線となりKillerに降り注いだ。攻撃を回避された形跡はない。その証拠に――
[Killer、TOTAL82%ダメージ(残り6%)] Killerのライフが大幅に消失されたことを示すテロップが現れる。
「か、勝った。これでKillerはもう、動くことさえも――」 Killerのライフが20%を大きく下回ったことを確認し、勝利を確信した美紅だったが――
晴れゆく煙の中から、鎌を構えたKillerが美紅に向かって煙の中から飛び出してきた。
「!? なんで? ライフが20%を切ったらもう動けないんじゃなかったの?」
美紅にはKiller動きに反応するだけの力は残っていない。プログレスエレメントとバニシング・レイでほとんどのフォースを使い果たしているのだから。
Killerの鎌が容赦なく美紅に襲い掛かる。――その攻撃で、美紅の左腕が宙に舞った。
[美紅、24%ダメージ(残り67%)]
そしてKillerの二撃目は、左腕を失った美紅の、今度は首を狙った鎌による横薙ぎだった。美紅に攻撃を防ぐ手立てはない。
「『紅蓮薙』」
倒れた夕菜の背中に、巨大な炎の片翼が生成されていた。Killerの背後から炎の翼がKillerを薙ぎ払うかのように襲い掛かる。倒れて動けない夕菜だったが、フォースの発動は可能だったようだ。
炎の翼はKillerの身体を包み込んだ。そして、Killerの身体が消滅する。
[Killer、6%ダメージ(残り0%)]
――昇降口。
風の荒ぶる中心には幻斗の姿があった。幻斗のカタールは真っ白な刃となってその姿を現した。
「――風の上位フォースウェポン『シルフィード』か」 神威が幻斗の武器をそう呼んだ。
だが、幻斗が武器を展開しているにもかかわらず、神威は自分の武器を出そうとはしない。
「武器は出さないのかい、天才くん?」
風はまだ幻斗を中心に荒れ狂う。神威が武器を出さないからといって、幻斗は手を抜くつもりはないらしい。
「……わかっていないな、キミは。フォースウェポンが全てではないということに」 どうやら神威は武器を生成せずに幻斗とやりあうつもりらしい。
「そうかい。――けど、丸腰だからって俺の方は手を抜くつもりはないぜ、天才くん?」
幻斗にはわかっていた。神威が武器を出さないのは、慢心でも何でもないということを。
何故なら、神威はすでに丸腰のままで何人もの受験生を脱落させているのだから。
――屋上からは激しく開閉を繰り返す昇降口の扉が見えている。
「――レビテーションで降りれば、すぐだが……」
無我が昇降口の方に降りようかと考えていると、校庭の様子が目に入った。
そこでは、多数いた校庭の受験者たちが、一人を残して消え去っていたのだ。
[真壱 遥、残りライフ59%]
「……へぇ。あれだけの人数相手に一人勝ちか。――あの弓、ありゃ夕菜と同じエレメンタルフォースの上位フォースウェポンだな」
遥の手には、水色の弓が握られていた。その弓を見て、無我は何かを決意する。
「ようやくあの人数を撃退したところを……悪いな、真壱。次は――」 無我は屋上から校庭側に飛び降りた。
遥のそばに、無我が降り立つ。
「――俺が相手だ」 無我は遥に対し、斬糸を身構えた。




