examinationⅣ.無我vs伊賀 条件発動型フォース
伊賀の放った煙玉は、完全に伊賀の姿を隠してしまった。
(ちぃ、うっとうしい技を。――如月を使うか? いや、それは無理だな。この空間内で大勢がフォースを展開している以上、如月は暴発する可能性がある)
煙の中、伊賀は無我は次々と斬りつけていく。恐らく、自分だけは視界を失わない、特殊な煙玉を使用しているのだろう。
[無我、TOTALダメージ11%(残り87%)]
(どちらにしろ、この煙の中にいても仕方ないか) 無我はレビテーションを発動させ上方へ。
煙の上に脱出すると、その煙に向かって無我は霹靂を放った。
落雷の如く落ちた霹靂の衝撃は白煙を吹き飛ばす。――が、そこに伊賀の姿はなかった。
伊賀は屋上の階段口の建物を足場にして、宙に浮く無我に斬りかかってきた。
伊賀の刀は無我に届かなかった。伊賀は着地と同時に無我に手裏剣を五枚投げ放った。
(? まさか、こいつ――) 考え事をしているせいで、無我は手裏剣を回避しなかった。一枚がふくらはぎに刺さる。
[無我、6%ダメージ(残り81%)]
刺さった手裏剣を抜いて投げ捨てる。そして、屋上に着地する。
「手裏剣程度、なんともないってか? ずいぶんと余裕だな?」 着地した無我に対し、伊賀がそう言う。
「――お前、レビテーションはどうした?」 無我は、先ほど伊賀が追撃にレビテーションを使わなかったことを指摘する。
「自分が使えるからって自慢か? たかが浮遊能力じゃねぇか、なくても害はない」
「……てめえは駄目だな。戦闘能力はまぁBクラステットレベルとそれなりだが、その程度の力を得るために他の能力をおろそかにしてるようじゃなぁ」
「! ――レビテーションが使えるからって図に乗んなよ? なら、そのご自慢の能力を使えなくしてやるよ」 伊賀は四枚の手裏剣を無我に向かって投げつけた。
「またコレか。能がないんだよっ」 無我は斬糸を鞭のように操り、いともたやすく手裏剣を叩き落す。
無我の足元に四枚の手裏剣が刺さった。
「どうした? やはり所詮はこの程度か?」 無我と伊賀の実力差はもう、明らかだった。
だが、伊賀は勝負を捨てた目をしていない。伊賀は無我に対して語り始める。
「――この仮想空間が昼の学校を模しているのはラッキーだったよ。そしてお前が、手裏剣を弾き飛ばさずに叩き落してくれたこともな」
(昼の学校? 昼……!) 手裏剣の刺さっている場所を見たとき、無我は伊賀の意図に気付いた。
手裏剣は無我の影に重なるように刺さっていた。
「たしか、忍者にはそんなような技があったな。相手の影を踏んで動きを止める技が。大方、それを飛び道具でも可能にしたってとこだろ?」
「法名無我。はたしてお前はいつまでそんな余裕でいられるかな? 『影縫い(かげぬい)』、発動」
伊賀の影縫いが発動され、無我の影に刺さっている手裏剣の部位、両腕両足が動かせなくなる。
「動かせねぇだろ? なんのトリックもない、条件発動型のフォースだ。発動の条件が揃った以上、お前がどれだけ凄い能力をもっていようと、もう動くことさえ出来まい。――後は俺の的になって散れ」 伊賀はその手に刀を生成する。
「――なぁ、お前に最後の選択をくれてやる。心して答えろよ?」 無我は完全に動きを封じられながらも、そんなことを口にした。
「選択? ――命乞いか? 聞く耳もたねぇな、これでてめえは終いだっ」 刀を手に、伊賀は無我に向かって走り出した。
「そうか。なら、最悪の選択の方でいいんだな? ――ご自慢の技を破って、死の恐怖とともに退場を願うと言うな!」
「出来るモンならやってみろっ」 伊賀が無我に迫ってくる。
無我は唾を吐くかのように、口からフォースで出来た小さな光の玉を吐き捨てた。――しかしそれは伊賀の髪をかすめて伊賀の後方へと飛んでいっただけだった。
「はははは、奥の手の不発か? くだらん最後になったな、法名無我っ!」 伊賀が大きく刀を振りかぶった。
[伊賀、79%ダメージ(残り13%)]
その直後、伊賀のライフカウンターが一気に減っていく。
「――『鎌鼬』」
無我の放った三日月状の斬糸、鎌鼬が伊賀の胴体を貫いて仮想空間の空に消えていったのだ。
「バカ、な。なぜ、動け、る」 上半身と下半身に分かれた伊賀がその場に倒れこむ。
「条件発動のフォースは強力だが、その条件がひとつでも成立しなくなれば無効化されるって欠点もある。――俺はその条件と思われる影を消しただけだ」
「! ――そうか、あの、吐き捨てた、光の、玉か……」
「――さて、選択肢は死の恐怖とともに退場だったな? もう、動くことさえ出来ないだろうが、俺の与えた選択肢を無下にしたんだ。……悪いな」
霹靂の直撃。伊賀のライフは0%となり、仮想空間から姿を消した。
「校庭の真壱の方はどうなったかな?」 無我は校庭の様子を見るため、柵に向かって歩き出した。
柵から校庭を眺めようとした時だった。すさまじいフォースを感じるとともに、無我の目に、凄い勢いで開閉を繰り返す昇降口のガラス戸が目に入ってきた。
「なんだ、このフォースは? ――昇降口が暴れてやがる……、このフォースは嵐のフォース? ――! まさか、あそこに凪がいるのか?」
――昇降口。
無我と伊賀が戦っていたころ、昇降口でも、幻斗と神威が戦っていた。
神威に幻斗のカタールが接触すると、氷の破片を散らし攻撃をはじかれる。そんな成立しない攻防を続けていた二人だったが、突如、幻斗は攻撃の手を止めた。
「――やっぱ、天才くん相手に能力の出し惜しみは出来ないか」
「やはり、手を抜いて戦っていたか」
「やはり、ねぇ。――攻撃自体は手を抜いていないんだがねぇ。いくぜ、天才くん」 幻斗がフォースを練り始めると、幻斗のカタールが光輝き始めた。
そして、幻斗を中心に激しい風のフォースが吹き荒れる。――昇降口の扉さえ激しく暴れ狂わすそれは、まさに嵐のフォースと言うべきほどのフォースだった。
――EXPERT本部の仮想空間で凪が見せた、あの時のフォースのように。
渡り廊下から、Killerと思われる黒い衣装を身体全体に纏った人物がゆっくりと夕菜と美紅に近づいてくる。――その両手で、背丈ほどの大きさの鎌を持って。
「Killer……、なの?」 夕菜がそう思うのも無理はない。それほどに異様な風貌なのだから。
「少なくとも、受験者には見えないよ、夕菜ちゃん」
黒い衣装の人物は、歩きながら鎌を片手に持ち替える。
「来るよっ、夕菜ちゃん」
「散って、美紅」
夕菜と美紅は左右それぞれの方向に散る。先ほどまで二人が固まっていた空間を、Killerの鎌が切り裂いた。
「Killer確定ね。――ねぇ美紅? 私、変かな? こんな状況なのにホッとしてる」
「変じゃないよ、夕菜ちゃん。私もね、気が楽になってるんだ。――正直、かなうかどうかわからない相手なのに、夕菜ちゃんと戦うよりはずっと楽」
Killerを挟み込むようなカタチで夕菜と美紅が身構える。
「美紅、Killerを――倒すよ」
「うん。――夕菜ちゃん、能力の出し惜しみは無しだからね。最初から全力でいくよ」
「わかってる。見せてあげるよ、美紅。あの思い出すのもおぞましい地獄の日々の成果を」
夕菜のまわりを炎が包み込む。そして夕菜は自分のフォースウェポンであるフランベルクを生成する。――が、その刃はいままでの炎の刃ではなかった。炎の竜が天に昇るかのように現れ、その竜が夕菜の剣となった。
「『サラマンドラ』、――これがフランベルクに代わる、私の最強武器」
「……すごいよ、夕菜ちゃん。たった三ヶ月でこんな武器を手にしてたなんて。――じゃあ、私もいくよ」
美紅が杖を生成、そして杖を回しながら身構えた。――しかし、その杖は以前に見せたフォースロッドとなんら変わりがないように見えるが?
「――『プログレスエレメント』、発動」
美紅がプログレスエレメントをコールすると、美紅のまわりに五つの光の玉が現れる。それらは、美紅のまわりを浮遊しながら美紅の指令を待っていた。
「!? ――何、あの光の玉は?」
夕菜が美紅の新能力に目を奪われていると――
「夕菜ちゃんっ、そっちに行ったよっ!」
どうやらKillerは先に夕菜をターゲットに選んだようだ。大鎌の横薙ぎが夕菜を襲う。
「わっ」 とっさにしゃがんで攻撃を回避する。鎌は夕菜の髪をかすめた。
夕菜はすぐに反撃に移った。サラマンドラがKillerの衣を切り裂いた。――サラマンドラに斬られたKillerの衣が炎上し、Killerにダメージを与える。
[Killer、4%ダメージ(残り96%)]
衣の中から、ピエロのような風貌の人物が姿を現した。
「な、なんなの、コイツ?」
さらに異様な風貌の人物の出現より、夕菜の攻撃の手が止まってしまっていた。




