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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
examination”C”
31/42

examinationⅢ.忘れられし覇者

 無我は3−A教室のすぐ近く、屋上につながる階段の前に転送されていた。

 無我は一度、階段の先の屋上に目を向けるが、屋上には向かわず、3−A教室へと歩いていく。

 3−A教室の前に来ると、無我は引き戸に手を掛ける。――開かない。

「やっぱりここには入れないか。――じゃ、とりあえずは屋上だな」 無我は来た道を引き返し、屋上に向かった。


 ――一階、昇降口。

 周囲を警戒しながら移動する神威の姿がそこにあった。

「そんなに誰とも遭遇したくないのかねぇ? ――天才くん?」 下駄箱で待ち伏せていたのは幻斗だった。

「――キミも、ああなりたいのか?」 神威が自分が歩いてきた廊下の方に視線を向ける。

 神威の視線の先には、校舎一階廊下で倒れている数人の受験者がいた。――そしてそれは、神威のスタート地点と思われる保健室付近からこの昇降口まで、道しるべになっているかのように、廊下の分かれ道や扉の開いた教室の前で倒れている。

「……校舎一階は最悪だな。しかし、ここまで脇目もふらずにまっすぐ来るとはな。誰か想い人でも、天才くん?」 幻斗はわかっていてそう聞いた。

「――法名はどこにいる?」 神威の答えは予想通りだった。

「相変わらずそれしかないな、お前は。――だが、この試験のルールじゃ、無我がどこ飛ばされたかなんてわからねぇな」

「なら、僕は法名を捜し出すまでだ。――邪魔はしないでもらおうか」

「そいつは出来ないな、天才くん。……こうやって遭遇エンカウントしたんだ、楽しもうぜ、天才くん」 両腕にカタールを生成する。

「――やはりキミとはウマが合わないな」 神威は武器を生成せず、幻斗に対して身構えた。


 ――二階、渡り廊下付近。

 渡り廊下の先に夕菜の姿を見つける。――夕菜を見つけたのは、美紅だった。

「……こんなカタチで夕菜ちゃんと戦いたくなかったなぁ」

「美紅……」 夕菜は美紅と対峙し、複雑な表情を浮かべる。

「……構えて、夕菜ちゃん」 一方、美紅は自分のフォースウェポンである杖を生成し、身構える。

「ちょ、ちょっと待って、美紅。私はアンタと戦うつもりなんて――」

「でも、戦わなくちゃいけない。そういうルールだから」

「だからって……。出来るわけないじゃない、私が美紅を失格にしちゃうのかも知れないんだよ?」

「……私は目的のためなら夕菜ちゃんを落とす覚悟はあるよ。――さあ、夕菜ちゃんも構えて」

 だが、夕菜は武器を生成しない。美紅の目をまっすぐ見つめ、美紅に向かってこう言った。

「嘘をついてるね、美紅。アンタも私と同じ、出来ることなら戦いたくないって考えてる。武器にフォースを込めないのがその証拠。アンタの武器、フォースを込めなければ本来の能力は発揮できないはずでしょ?」

 夕菜の言葉を聞き、美紅は生成した杖を消してしまった。

「……ふぅ、弱ったな。本当、戦いにくいな、夕菜ちゃんとは。――!」

 夕菜の背後から近づいてくる何者かの姿を目にし、美紅の表情が固まった。そして、こう言葉を続けた。

「……どうやらタイムアウトみたい、夕菜ちゃん」

「え?」 美紅の反応と、タイムアウトと言う美紅の言葉を聞いて、夕菜は美紅の視線の先の方へ振り返る。

 夕菜が振り返ると、そこには黒い衣装を身に纏とい、大鎌を構えた、あきらかに受験者とは違う風貌の人物がゆっくりと近づいてきていた。

「Killer……、なの?」

 夕菜は察する。美紅と戦闘を始めなかったため、Killerの標的にされてしまったことを。


 ――屋上。

 無我は音をたてて、屋上の重い扉を開けた。――神威とは違い、無我は遭遇を気にするつもりはないらしい。

「? ――校庭が騒がしいな」 校庭から聞こえる数人の声を聞き、無我は屋上の柵に向かって歩き出す。

 そこから見えたのは四人の受験者の混戦だった。――いや、よくみると三対一の戦いになっている。その中心にいる人物は、遥だった。

「さすがだな。――これはもう勝負が見えている、どうみても真壱が勝つな」 それほどまでに、三人の受験者と遥の間には戦力の差があった。

 校庭に矢の雨が降り注いだ。無我はそれを見ることなく、屋上の出入り口へと歩き出した。

 ――屋上を去ろうとした無我の足元に金属の何かがささった。……手裏剣だ。

「! ――そうか、屋上に一人いたのか」 無我は手裏剣の飛んできた方向へ振り返る。

「まさか、俺の晴れ舞台を台無しにしてくれた法名無我が現れてくれるとはな」

 給水塔から屋上に無我に攻撃を仕掛けた人物が飛び降りてきた。――制服姿の受験者、Killerではない。だが、無我に対して敵意をむきだしている。

「……誰だ、お前は?」 その人物に、無我は面識がなかった。

「ふん。――まぁ当然だわな、てめえが台無しにした舞台のことなんて、気にはしねぇはな!」

「台無し? ――さっきからお前は何の事を言ってる?」

「俺の名は『上野うえの 伊賀いが』、てめえが台無しにしてくれたBoutの、優勝クラス2−Bで大将を任されていた男だよ」

「……はぁ? 俺がBoutを台無しにしただぁ? ――なにを言ってやがる、俺のせいで台無しになったのはA組のBoutだけだろ? 優勝したてめえになんの害がある?」

「ふざけんなっ! てめえはあの後Boutがどうなったかなんて知りもしねえだろうが? ――てめえが寝ぼけてマシントラブルを引き起こした後、氷室神威がBoutを辞退したんだ。あの天才面した氷室神威を完膚なきまでに叩きのめして、俺の舞台が幕を閉じる予定だったのによぉ!」

「おいおい。だったらお前の相手は俺じゃなく神威だろうがっ」

「てめえが先に俺の前に現れたんだろうがっ」

(ラチがあかないな。……仕方ない、少し煽ってみるか)「――てめえじゃ神威に負けてるよ。俺のおかげで優勝出来たんだ、その地位に甘んじてろ」

 無我の挑発に伊賀は――

「っだと、てめえ言わせておけば――」 簡単に乗っかった。

(単純な奴だ。こんな安い挑発に乗ってくるとはな)「――事実を言ってやったまでだ。てめえは俺どころか神威――いや、A、Dのメンバーの誰かと戦ってたら優勝なんてなかったんじゃねぇか?」

「なめんなっ!」 伊賀は手裏剣のフォースを投げつけてきた。

 その攻撃にあわせて無我が動く。手裏剣を回避するのと同時に、伊賀との距離を詰める。

「ただ刃物を投げるだけ倒せる相手が、こんな場所に居るとでも思っているのか?」 無我は伊賀の目の前に居た。

 無我の拳が伊賀の頬をとらえる。無我が腕を振りきると、伊賀は柵のある場所まで飛ばされる。そして、屋上の柵に背中を叩きつけた。

[伊賀、8%ダメージ(残り92%)] ダメージ表示のテロップが仮想空間に投影される。

「8%? ――こりゃ、素手では無理か」 無我の攻撃は予想を大きく下回るダメージだった。

「……法名無我。大事おおごとを言うだけはあるか」 伊賀は立ち上がり、頬を拭う。

「正直、俺は”C”には乗り気じゃなかったんだけどな、てめえに勝ちを譲って退場するのは気にくわんな。――いいぜ、少し本気になってやるぜ」 無我は右手に三本の斬糸を作り出した。

「法名無我。それがてめえの武器ってわけか」

「パッと出の脇役には過ぎた待遇だろ?」

「ほざけっ」

 伊賀は三枚単位で連続して手裏剣を投げてきた。無我がそれを回避すると、無我が避けた場所に向かってもう一度手裏剣を三枚投げつける。無我を休ませないつもりだろうが――

 いつの間にか無我は伊賀の背後をとっていた。

「数を増やしても同じ事だ。――これしか能がないなら、お前はとっとと退場しやがれ。『旋風つむじかぜ』」 無我の斬糸の竜巻が伊賀を包み込んだ。

 斬糸の竜巻に伊賀の身体が切り裂かれていく。だが――

(ダメージのテロップが出ない? ――! まさか)

 今度は伊賀が無我の背後から襲い掛かってくる。脇差わきざしを手に、伊賀が無我に斬りかかってくる。

 無我は少し反応が遅れたが、上体をそらして伊賀の攻撃を回避する。――が、脇差が無我の頬をかすめ、無我の頬から血がたれる。

[無我、2%ダメージ(残り98%)]

「空蝉からのショートソード――いや、その形状は脇差ってとこか。――そういえば、てめえの伊賀って名は忍者の発祥といわれている異国の地名だったな? 名前にちなんだ能力を習得したってことか」

「俺の武器は手裏剣だけじゃないんだよ。――これが俺の武器だ」 右手に刀、左手には逆手に持った脇差がある。

「攻守型の二刀流か。しかも、守りの脇差は攻撃にも切り替え可能ってとこか」

「――プラス、忍術フォースさ」 伊賀の、脇差を持った手から、球状の何かが投げ放たれた。

 それは空中で爆発する。――白煙が屋上全体を包み込む。

「煙玉!? ――くっ」 伊賀の煙玉に、無我は完全に視界を奪われてしまった。


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