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Debug 2.クウカンボウソウ

 ――EXPERT本部、仮想空間室。

「――さーて、設定は……OK、変更されてないね」

 雫が装置の設定を確認する。

「じゃ、無我、装置の準備をして?」 確認が終わると、無我に声をかける。

「は? なんで俺が」

「決まってんじゃない、まずはアンタとやるからよ」

「……おい、雫。本気で言ってんのか?」

「本気も本気だよ、無我。――でもね、私のルールは一味ちがうよ。まずは攻撃力の固定。――早い話が、どんだけ強い相手でも一発攻撃を受けたら負けってルールにしてあるの。次に武器の制限。私のルールでは条件を満たした武器以外は使用できない。つまり、あんたの斬糸も条件が合わないと使用不可ってこと」

「で、その条件は?」 無我は条件を確認する。

「戦いの前に一枚、五十音のカードを引くの。そこに書かれた文字が最初につく武器以外は使えない、それだけ。――ちなみに、武器の生成は一回だけって制限があるから。……最初は制限はなかったんだけどね、タケルがむちゃくちゃ武器出してゲームにならなかったことがあってね」

「……はぁ。まあいいか、暇つぶしには」 無我はヘルメット型の装置をかぶり、バイザーを下ろす。

「幻斗と夕菜も装置をつけてね。ここ、モニターがないから中に入らないと試合を見れないの」 そういって雫は夕菜と幻斗にも仮想空間に入るためのヘルメット型の装置を投げ渡す。

「――使い方は学校のと同じ?」 そういいながら夕菜もヘルメット装置を装着する。

「そうなんじゃない? 私、学校のやつ使ったことないから」

「やれやれ、困ったもんだ雨宮も。――ま、せっかくだから俺も参戦してみっかな?」 幻斗が装置を手に持ちながら、そんなようなことを口にした。

「幻斗が? アンタはやめといた方がいいんじゃないの?」

「えらい自信だな、雨宮? なんなら先に俺とやるか?」 幻斗も装置を身につけた。

「後、後。アンタとはいつでも出来るからね。――無我とやる機会はめったにないんよ」 最後に雫が装置を身につけ、全員が仮想空間に入った。


 ――仮想空間内。

 仮想空間内の背景が試合用の背景である闘技場風景に変わる。

「さあ、無我。カードをイメージして」 雫が無我に指示を出す。

「おいおい、俺のフォースで出していいのか? そんなコトすれば俺が勝手にカードを偽造するかもしれないぜ?」

「ここじゃ無理だね。カードをイメージすれば、どんなカードであれ、ランダムでひらがな一文字が出るようになってるから。――ちなみに、『を』と『ん』は入ってないよ。あと、武器は一般的な名称でしか出ないから。オリジナルの武器名で出そうたってそうはいかないよ」

 無我がフォースでカードを作り出す。そして、自分で出したカードを見てみる。

「『り』か。なぁ、雫。武器は一回しか出せないとか言ってたが――」

「ちょ、ちょっと、なにカードを口に出してんのよ、無我? カードは相手に知られない方が有利なんだよ?」

「そうなのか? まあいいさ。で、武器の事だが、武器はいつ出してもいいのか?」

「まぁ、最初に出せってルールはないよ。ただ、いい武器が出せそうにないからって素手で攻撃しても無駄だからね。武器以外はダメージならないよう設定してあるから」

「了解。じゃあ、はじめるか」

「うん。――夕菜、合図をお願いね」

「じゃあいくよ。――始めっ」 夕菜が試合開始を宣言した。


(――さて。私のカードは『も』。すぐに思いつくだけでもいくつか武器がある。無我は『り』。……『り』って何よ?)

「どうした、雫? 動かないのか?」

「わかってるわよっ、ちょっと待ってなさい」

 二人は動こうとしない。はたから観戦している幻斗と夕菜が試合の分析を始める。

「――意外だな、雨宮の性格上、先制攻撃に入ると思ったんだが。……無我が武器を展開しないのを警戒しているのか?」

「無我の武器、『り』が頭文字の武器よね? ……『り』って、なんかある?」

「ない事はないんだ。トンファーの一種に李公拐りこうかいという武器があるし、握り手部分に鎖とかを装着できる輪っかをつけたリングダガーってダガーも存在する。――が、どっちにしてもトンファーやダガーの代用品くらいにしかならんがな」

「でも、どっちにしたって近距離の武器よね? 距離を取って戦える武器を出せば、雫が有利になるね?」

「そうだな、雨宮のカードが悪くないかぎりはな」

 と、雫が武器の生成を始めた。

「――いくよ、無我っ」

 現れた雫の武器は、鎖で刺付き鉄球を繋いでいる打撃武器、『モーニングスター』だ。

[*:モーニングスターとは、一般的に刺付き鉄球を使った武器全般のことを言いますが、今回は鎖で鉄球を繋ぐ『ボール&チェイン』と呼ばれているタイプのことをさしています。――ま、ほとんどの人にとっては関係のないことですが、物知りの方からのツッコミ防止のための補足説明だと思ってください]

「モーニングスター! 雨宮のカードは『も』か」

「しかも、あれなら雫は距離を取って攻撃できる。――桐生、これって、雫の勝ちじゃない?」

 雫はモーニングスターを振り回し、勢いをつける。そして、振りまわしながらの跳躍。

「もらったぁっ」 雫のモーニングスターが振り下ろされる。

 ――だが、その時に無我の武器が目に入ってしまった。

 無我の身体の大きさを遥かに凌駕する巨大なライフル。それを身体全体で支えながら、銃口を飛びかかる雫に向ける。

「な、何、アレ!?」

 銃口の周りを大量の電磁波が渦巻いている。放たれるは、目をも開けていられぬまばゆい光。――それは雫に命中し、雫をさらに上方へと打ち上げた。

「――そんなの、アリ?」 雫が床に叩き付けられた。

「超電磁投射砲――通称『リニアレールガン』だ。俺の勝ちだな」

[*:さてさて。リニアレールガンという武器には諸説あり、今回無我が使ったタイプの武器は電気伝導体レールを駆使して、電磁波を直接撃ち放つタイプの武器なんで、正確には『サーマルガン』とも言えるんですよね? ま、通称として『リニアレールガン』ってことなので]


 互いの武器が消え、仮想空間が何もない空間に戻った。

「――無我っ! なんなのよ、さっきの? あんなのでアンタが勝ちなわけないでしょうが!」 さっそく雫のものいい(イチャモン?)が始まる。

「はぁ。――雫。お前、タケルのときもそういったんじゃねぇのか? だから武器生成に制限をつけたんだろ?」

「雨宮、反則ってのは誰かが一度でもやって初めて出来るものだ。――つまりは、最初の一回はまだ反則にならねぇんだよ」

「くぅ。――いいよいいよ、今度から手に持てないような武器は禁止にしてやるからっ」

「――で、どうします、雫さん? 次は俺とやりますか? また新しい反則ができるかもよ?」 幻斗のわざとらしい『さん』付け呼びだ。

「そんなこと言われて誰がやるっ!? ――夕菜、あんたとやるよ?」 夕菜さんと同じで挑発に乗りやすいですねぇ。

「え? わ、私が相手?」

「そ。――じゃあ、空間を切り替えるから。言っとくけど、さっき無我がやった手に持ちきれない武器を出すのは反則だからね。まだルールに反映されてないんだから、出した地点で負けにするからね」

「夕菜さぁん。新しい反則あみ出してぇ」 ついでに夕菜も挑発する幻斗だった。

「そんなのできるわけないでしょっ、桐生!」

「コールは無我にお願いするね。じゃ、今、背景をリングに切替える――」

 雫が背景を切り替えようとしたその時だった。仮想空間全体にノイズが走り、背景が乱れ始める。

「な、なんだコレは? ――おい、雫っ」

「私に言われたってわからないわよっ!? 私はただ、普通に背景を切替えただけなんだから」

「雫っ、強制終了だ」 無我は雫にこの空間を強制的に閉じることを指示するが――

「もう、やってるっ! けど、受け付けないのよ」

「雫、終了を受け付けないってどういうこと? まさか、私たちここから出られなくなっちゃったの?」 夕菜が不安を口にする。

「……無我、私だけならここから出れるよ? 元の身体に戻ればいいだけだから」

[*:雫が言う『元の身体』とは、本部中継プログラムに戻るという意味]

「いや、この状態でプログラムの身体のお前に戻るのは危険だ。――もしこれが何らかのバグだとしたら、お前の身体がバグに感染する恐れがある」

「……じゃあ、無我。緊急通信でEXPERT全員に連絡するね?」

「ああ、そうしてくれ」

《こちらNo.71。緊急事態――》 と、雫は途中でテレパシーを止めてしまった。

「おい、雫? なんでテレ――緊急通信を止める?」 無我はテレパシーと言いかけたが、夕菜の手前、発言を変更した。

「手応えがないの。まるで誰も聞いていないみたいに」

 再度、空間にノイズが走り、空間の光景を乱す。

 空間のノイズで空間に穴が開き、夕菜がその穴に飲み込まれそうになっていた。

「! ――夕菜っ」

 雫はとっさに夕菜の手を引き、無我のいる方へと夕菜を投げる。だが、そのせいで雫は空間のノイズで出来た穴の方に飲み込まれていく。

「――無我っ、私は元の身体に戻って救援を呼んでくるから。それまで夕菜と幻斗をお願い」

「わかった。雫、気をつけろよ」

 雫の身体が消える。空間の穴に飲み込まれる寸前に、プログラム体に戻ってこの空間を離脱したのだろう。

 ――雫が消えた後、空間の乱れはさらに激しくなる。

「まずいぞ、無我。もうこの空間自体がもちそうにない」 幻斗に、さっきまでふざけていた余裕はもう残っていない。

「ねぇ、私たちどうなるの、無我?」

「――くっ。ダメだ、もう、空間が破裂するっ」 無我がなすすべなしに歯を食いしばる。

 仮想空間内が白く輝いた。そして、激しい衝撃が三人を吹き飛ばす。

「夕菜っ、幻斗ぉぉぉぉぉ――」

 無我が二人に手を伸ばすが、その手は届かない。


 三人は、真っ白に変わり行く仮想空間の光に飲み込まれ、この空間から姿を消してしまった。


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