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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
Episode 3.Assault
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BATTLE 2.苦戦(Struggle)

「石人形相手の弱いものイジメ、楽しかったか?」

 幻斗とゴーレムとの交戦中に、バルロが空から襲いかかってきた。

 バルロの蹴りが幻斗に決まる。幻斗は蹴り飛ばされ、そして勢いよく公園の街灯に背中から衝突した。

「――っつう」

「ほう、耐えたか。――だが」 バルロの追撃。幻斗向かって高速で飛んでくる。

 幻斗はカタールの刃をバルロに向けて狙いを定めた。

「――『グングニル』」 刃がバルロ向かって伸びていく。

 しかしそこにはバルロの姿がなかった。

「そんな攻撃が当たるかよっ」 バルロが左方から攻撃を仕掛けてくる。

「! しまった」 カタールを慌てて戻すが、その後、回避行動をとるには間に合わない。

 バルロの攻撃が幻斗に命中する直前――、バルロが突然後方に退いた。

 その直後、バルロのいた位置に火球が飛んでくる。

「桐生、大丈夫?」

「気をつけて夕菜ちゃん、あのテット無傷だよ」

 公園の図書館に来ていた、夕菜と美紅が幻斗の助けに入る。

「舞川、五十嵐……。とりあえず礼は言う。だが――」

「二匹増えたか。だが、どうということはないな」 バルロが不敵な笑みを浮かべる。

「気をつけろ、舞川。あいつ、マジやべぇぞ?」

「みたいね。――けど、同等のテットを無我一人で相手をしているんだから、三人でかかれば――」 夕菜は空中で交戦している無我の方に目を向ける。

(無我のレベルで考えるなよ……) 幻斗は心の中でそう突っ込んだ。

「来るよ、夕菜ちゃん」 美紅が杖を生成し身構える。

「いい、桐生? 合図をしたら、美紅と一斉にいくからね」 夕菜もクレイモアを作り出した。


 空中では無我とムジュラの、成立しない攻撃の応酬が続いていた。

「あちらはお仲間が来られたようですね?」

「! ――夕菜と五十嵐か。まずいな」

《無我、今あんたのところに羽蛇がいったからっ》 突然、雫からの緊急通信が入る。

《ルフィルか。――了解》

 無我はすぐさまにテレパシーの相手をルフィルに切り替える。

《ルフィルっ。ここには一般人がいる、EXPERTスキルは禁止だ、レビテーションで来い》

《わかりました、マスター。すぐにそちらに行きます》

(――持ちこたえてくれよ、幻斗、夕菜、五十嵐。あと少しだ)


「どうした? 三匹おってもその程度か?」 バルロがあざ笑う。

 バルロはほぼ無傷。が、夕菜、美紅、幻斗の三人はすでにボロボロに傷ついていた。

「こいつ、なんて強さなの?」 夕菜は息を切らせながら、クレイモアを握り締める。

「私たちの攻撃が、全く当たらないなんて……」 美紅も、杖に再びフォースを込める。

「ほら、いくぜ?」 バルロが夕菜に向かってくる。

 バルロの鋭い爪による斬撃。夕菜はクレイモアで爪を受けとめるが、防御の薄くなった腹部に蹴りをいれられる。

 バルロの後方から幻斗がカタールで斬りかかる。が、バルロの後方回し蹴りが幻斗に命中、幻斗が体勢を崩す。そこにバルロの肘が叩き込まれ、幻斗は地面に叩きつけられる。

 美紅がフォースロッドを放つが、すぐに回避され、バルロが一気に間合いを詰めてきた。顎を蹴り上げられて美紅が蹴り飛ばされる。

「くくく。弱ぇな、おい?」

 バルロが高笑う最中、突然、羽の音が聞こえてきた。

 夕菜とバルロの間に、その羽音の主が割り込んだ。――ルフィルだ。

「なんだ? まさか、お前程度が俺の相手になろうってんじゃないだろうな?」

《――僕の声が聞こえるかい?》

 だが、テレパシーはバルロに届かない。

「言葉も発せない下級テットが邪魔をするなっ」

《僕の声、聞こえないんだね。どうやら下級はキミの方のようだね》

「先に死んどけや、クズが」 バルロの爪による斬撃がルフィルを襲う。

 ルフィルが羽ばたくと、真空の輪が発生しバルロに襲いかかる。

「なっ!」 バルロの動きが一瞬止まる。

 その隙を突いて、ルフィルの尻尾がバルロの顔面を強打する。ルフィルは攻撃の手を止めない。さらに羽根で攻撃、乾いた音があたりに響く。

「――てんめぇっ」 屈辱的な打撃を受け、バルロが怒りの表情を浮かべる。

「ぶっ殺す」 今のバルロの目に映っているのはルフィルだけだった。

 ――だから、首に刃をつきつけられるまでもう一人の気配に気付かなかった。

「俺を無視するなんて、いい度胸だな、おい?」 つきつけている武器は『ハルバード』と呼ばれる槍と斧の合成武器のフォースだ。そして、黒い服の肩口には『20』というNo.。

「エ、EXPERT!?」 突如現れたEXPERTに、夕菜が思わず声を上げる。

 EXPERT No.20のハルバードがバルロの首を完全に捉えている。

 草薙 タケル。EXPERT No.20、総真とは元学友である。

「――で、お前は何やってんだ、無我? お前ならその程度のテットてこずる程じゃないだろうが?」 タケルは空中でムジュラと睨みあっている無我に声をかける。

「余計な事しゃべんな、タケル。今の俺の姿でわかるだろ?」 

「はいはい。――で、おまえさんどうする?」 バルロの首につきつけているハルバードに力を込める。ハルバードが赤く光り出した。

「てめぇ……」 バルロはタケルを睨みつけるが、この状態ではそれ以上何も出来ない。

「――バルロさん、退きますよ」 ムジュラがバルロに向かってそういうと、杖を消し、無我との臨戦体勢を解除した。

「ムジュラ!? このまま逃げ帰れっていうのか?」 バルロは納得がいかないようだ。

「バルロさん。その黒服、あなたが退かなければ首を落としてくれますよ?」

「ちぃ、――だとよ?」 バルロがタケルに向かってそう言った。

「ならとっとと消えろ」 それを聞き、タケルはハルバードをバルロの首から離した。

「――甘いなっ」 ハルバードが離された瞬間、バルロがタケルに攻撃を仕掛けようとする。が――

「やめときなさい」 ムジュラが間に割って入った。

「邪魔をするな、ムジュラ」

「いいから退きますよ」 ムジュラが高速で飛び去って行く。

「――これで済んだと思うなよっ」 バルロもその場から去って行った。

「ふぅ」 タケルが一息をついてハルバードを消した。

 そこに、無我が降りてくる。

「大丈夫か、お前ら?」 無我が夕菜、美紅、幻斗の三人に声をかける。

「助かった、の?」 夕菜は助かったことに実感がわかないようだ。

「ま、タケル――EXPERTが来てくれたからな」

《マスター。一足先に僕が来てたんだけど?》

《そうすねるな。事がスムーズにいったのはお前の手柄だ》

「そういえば、法名くん。あなた、EXPERTの人をご存知のようでしたが?」

 美紅が、無我とタケルの関係を問いかけてくる。それに答えたのはタケルだった。

「――総真って奴、知ってるか?」

「え? それってたしか、風見先生の事ですよね?」 美紅は総真のことを尋ねられ、すぐにそう答えた。

「そ。その総真の知り合いって言えば納得できるかな?」

「……たしか、無我と風見先生って昔から付き合いがあるって言ってたよね? ――つまり、風見先生同様、無我と昔からの知り合いってこと?」

 夕菜がそう口にしたことにより、どうやらこの話はそういうことで納得してくれたようだ。

《よくもまあ、即興でそんな言い訳ができるわな、タケル》

《それがお前の望みだろ、無我?》

「じゃあ、後の事はタケルにまかせていいか?」

 無我は事をタケルに押し付けてこの場を去ろうとするが――

「おい、待て。お前はどこにいく気だ、無我?」

 案の定、タケルに呼び止められた。

「俺は雫に呼び出しくらってんだよ」

「ケガ人の治療は手伝ってくれないのか?」

 タケルが無我に治療の手伝いを要求する。

「タケル。そこの二人を治療してやってくれ。幻斗は俺がやっとく」

「だったら、無我。三人ともお前でやってくれ。俺は巻き込まれた人達の治療をやらんとな」

「ちっ、めんどくせぇ」

「なに、無我? アンタ、レビテーションだけじゃなくて『ヒールフォース』まで使えんの?」

「そんなもん、そこのルフィルにだって出来るわ」

《? マスター、僕には出来ないけど?》

《今覚えろ、見せてやる》

 無我が幻斗の身体に触れると、癒しの光が発生する。すると、幻斗が受けた傷が徐々に消えていく。

「おまえらはルフィルにやってもらえ。俺はもう行く」

「ちょ、無我? あんたはどこ行くのよ?」 早々にこの場を去りたそうにしている無我に夕菜が問いかけてくる。

「……他のEXPERTが来ると面倒なんだよ」(――これ以上ややこしくされてたまるかよ)

「残って事情とかを説明しなくていいんですか?」 さらに美紅が問いかけてくる。

「あのなぁ。残って何を説明する気だ? 俺はただ、テットの気配に駆けつけてきただけなのに」 無我は面倒くさそうにそう返した。

「君達は早く引き上げた方がいいよ? 無我の言うとおり、検証とかが始まるとけっこう面倒くさくなるから」

「だとよ」 無我はタケルの言うとおりにしとけと言わんばかりにそう言った。

 ルフィルによる夕菜と美紅のの治療が終わったようだ。

「じゃあ、行こうか美紅」

「その方がいいみたいね。では、私たちはこれで失礼します」 夕菜と美紅が公園を後にした。

「――さて、……無我?」

 夕菜と美紅がいなくなると、タケルが無我に話しかけてくる。

「嫌な予感がしやがる」 無我は話の内容に予想がついているようだ。

「悪いな、無我。けっこう人が出払っているんだ。協力してくれ」

「やれやれ。やるのは治療だけだぞ? ――このままの姿で問題はないな?」

「さすが、無我。話が早いな」

「悪いな幻斗。先に帰ってくれや。それと、雫には行けなくなったって伝えとけ」

「すまないね、幻斗くん」

「いえ。仕方ないことですから。――あっ。そのかわり、雨宮には弁解しといてくださいよ」

「げっ。……俺、あの娘は苦手なんだよなぁ」


 ムジュラとバルロが住処すみかに帰ってきた。そこにいたのは女王蟻じょうおうありの姿をしたテットだった。

「それであんた等は逃げ帰ってきたわけだ」 女王蟻のテットが笑いながらムジュラとバルロにそう言った。

「だまれっ『グラムス』! ムジュラが邪魔さえしなけりゃなぁ」 バルロが女王蟻テットをグラムスと呼んだ。

「アタイをその名で呼ぶんじゃないよ、バルロっ!」

「……バルロさん、あのまま攻撃していたらあなたは死んでましたよ? わからなかったのですか? あの黒服の男は隙など見せてませんでしたよ?」

「ムジュラ。お前は俺に、このまま負けっぱなしでいろっていうのか?」

「では、バルロさんにお聞きします。別の服を着ていた四人――いえ、私とやりあっていた彼以外の三人ですね、あの方たちなら何人いても余裕ですか?」

「数はウゼェな。それに、ムジュラ。お前の作った石人形、簡単に破壊されたぞ?」

「おやおや。ムジュラのゴーレムが歯が立たないとはねぇ。それも例の黒服の仕業かい?」

「いえ、別の服の――弱い方の一人にですよ。能力はグラムスさんの上級傀儡くぐつと同等程度ですか」

「ムジュラ、お前はさっきからいったいなにを言おうとしてる? 回りくどい言い方は――」

「では簡潔に言いましょう、バルロさん。――彼等はおそらくあの黒服の見習いといったところでしょう。あの黒服に対する切り札になります。――だから彼等見習いの本拠地を襲撃しましょう」

「おやおや。本気で言っているのかい、ムジュラ? たった四人に敗退しているくせにさぁ」

「グラムス。そもそも、てめぇがはなから傀儡をよこしてりゃ――」

「まあまあ。――彼等が本拠地にしている『ガッコウ』とかいう場所、あの場所は無人になる時があるんですよ。――七日に一度、ね」


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