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examination(エクザミネーション)”C”  作者: 以龍 渚
Episode 3.Assault
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BATTLE 1.遭遇(Encount)

 ――四月九日(土)。午前七時、舞川家リビング。

「ねぇお兄ちゃん、明日って空いてる?」

 新しい学校の制服を身に纏った日向が、無我に対して突然そう切り出してきた。

「急になんだ、日向?」

「だって、フィルちゃん今日に帰ってくるんでしょ? お兄ちゃんの部屋、いつまでたっても殺風景だしさ、フィルちゃん連れて買い物でも行かない?」

「俺は別にあのままでも――」

「ダメっ、もう少し住みやすくするの」

「あのなぁ……」

 リビングに、制服姿の夕菜が姿を現す。

「なに言ってるの、無我。アンタは明日空いてないでしょうが」 どこから話を聞いていたかは知らないが、入ってくるなり夕菜はそう言った。

「今日はちゃんと起きれたみたいね、ダメ姉」

「誰がダメ姉だ、日向っ」 日向に対して声を荒げる夕菜。

「で、お兄ちゃん明日空いてないの?」 ――が、日向は夕菜を無視。

「無視すんなっ。――あのね、無我は明日、学校の清掃に駆り出されてんの。私を巻き込んでね」

「なんでお兄ちゃんまで巻き込むのよ、ダメ姉?」

「巻き込まれたのは私!」

「お兄ちゃん。その掃除って何時までなの?」

「まぁ、昼前には終わるだろ?」

「じゃあ、明日の午後に買い物決定。いいよね、お兄ちゃん?」

「ねぇ、日向。アンタ、私と無我とで態度がずいぶんと違ってない?」

「なに当たり前のことを言ってんだか、ダメ姉が。お兄ちゃんをダメ姉となんか比べないでよ」

「……結局、俺の意思とは関係なしに買い物は決定かいな」


 正午を前にして本日の授業は全て終了した。

「おーい、無我。帰んべ」

 三回生になった時にB組にクラスがわかれた幻斗が、無我を呼びにA組にやってくる。

「ちょっと桐生。アンタ、なに勝手によそ様のクラスに上がりこんでんのよ?」 すぐ後ろの席から、夕菜が話に割り込んでくる。

「堅いこというなや、夕菜さん。元クラスメイトだろ?」

「で、幻斗。何の用だ? わざわざお前が教室まで来たってことは、何かしら俺に用があってのことなんだろ?」

「なに、ちと伝言を預かっててな。――雨宮からの言葉、そのまま伝えるぜ」

「雫からの伝言だと? ――なんか嫌な予感がするな」

「『とっとと顔見せに来んかいっ、無我っ』、だとよ」

「……だろうな。あいつ、たった四日でしびれを切らしやがったか」

「なんか雨宮、施設からは出れない理由があるらしいぜ。――つーわけで、お前を連行しに来たわけだ」

「しゃーねーな、じゃ、久々に元我が家にいきますか」 無我が席を立つ。

 無我と幻斗が教室を出て行った。その直後、夕菜の席に美紅がやってくる。

「ねぇ、夕菜ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど?」

「ん? なに、美紅?」

「たしかこのエリアって図書館、あったよね?」

「うん。たしか公園のところに」

「付き合ってもらえないかな? ちょっと調べたいことがあるの」

「調べたいことって?」

「私のフォース――無属性のフォースについてね。……夕菜ちゃんも調べてみたら? エレメンタルフォースについて、なにかわかるかもよ?」


 校門を出て、EXPERT本部に向かおうとした時、無我が急に足を止める。

 足を止めた無我の視線を追い、幻斗が無我に声をかけてくる。

「――テット、だな?」

「! 幻斗、お前も感じたか?」

「いや。お前が急に立ち止まったからな、お前の視線を追わせてもらった。場所は――公園の方だな」

「行くのか、幻斗? 実戦になるぞ?」

「なに、俺はやばくなったら逃げるさ」

「そうか。――行くか、幻斗」

 二人は公園の方に走り出した。


 無我と幻斗が公園に駆けつけた時、公園では一般の人々が石人形ゴーレムに襲われていた。

《雫っ、テットトラブルだ。――場所は》 無我は本部の中継プログラムである雫にテレパシーを入れる。

《ま、待って。いま空いている人はいないの。無我がどうにかして》

「――ちぃ。幻斗っ、とりあえず公園にいる人が逃げ出す時間を稼ぐぞ」

「あの石人形を止めればいいんだな、無我?」 幻斗が右腕に篭手を生成する。その篭手からは刃が伸び、カタールへと変化する。

「西側はまかせたぞ、幻斗」 無我が東側のゴーレムの群れに向かって行った。

 幻斗のカタールがムチのようにしなった。ゴーレムの頭部を破壊する。

(Cランク程度のテットのこいつらなら、幻斗でもなんとかなるだろ? 問題は――)

 東側のコーレムたちは、無我とすれ違っただけで粉々に砕け散った。――無我の斬糸攻撃だ。

「――出てこいよ? いるんだろ、親玉が」 無我が空に向かって声を上げる。

「親玉ですか。あまり好ましくない呼ばれ方ですね」

 砕け散ったゴーレムの残骸と無我を見下ろすように、空中に姿を現したのは、ゴーレムを作り出した本人と見える、召喚術師のテット『コンジャラー』だった。

 無我がレビテーションを発動させる。高速でコンジャラーとの間合いを詰めて斬糸を振りかぶる。

「『旋風つむじかぜ』」 斬糸の竜巻がコンジャラーを飲み込んだ。

 が、砕けたのは岩石だった。岩の残骸が下へと落ちて行く。

「! 空蝉うつせみか」

「後ろですよっ」 コンジャラーが無我に対し、手持ちの杖を振り下ろす。

 無我は襲いかかる杖をてのひらで受けとめ、コンジャラーの横っ腹に回し蹴りを放つ。コンジャラーは杖を捨て、後方へ回避。無我の手にあるコンジャラーの杖が光の粒となって消えていく。

「やりますねぇ、あなた」 コンジャラーが杖を再生成した。

「――『鎌鼬かまいたち』っ」 距離をおいて安心していたコンジャラーに、無我は三日月状の斬糸が撃ち放つ。

「! ――飛び道具がありましたか」 杖を回し、鎌鼬を防御する。

「ちぃ。消されたか」

「では、こちらも飛び道具を出させてもらいましょうか」 コンジャラーのまわりに岩石が浮遊する。

「岩を召喚しやがったか」

 コンジャラーのまわりの岩が一斉に飛来してくる。

「『木枯こがらし』」 無我の掌から、針のような斬糸が多数放たれた。

 その針斬糸がコンジャラーの岩石を全て破壊していく。

「それで終わりか?」

「……やりますねぇ、あなた」

 と、コンジャラーの背後から、黒い大きな翼を羽ばたかせながら、別のテットが姿を現した。

「よう。随分とてこずっているようだな、ムジュラ?」 現れたテットは、コンジャラーのことを『ムジュラ』と呼んだ。

 背中に黒い翼を生やし、鬼のような面構えをしたテット。俗に『バルログ』と呼ばれているテットだ。

(! バルログ? ……仲間か?)

「バルロさん、今はあなたの助けは必要としていないですよ?」 どうやらバルログは『バルロ』という名前らしい。

「そーかい? じゃ、俺はあそこで石人形相手にいい気になっている奴をいただくか」

 バルロが攻撃対象を幻斗に決めたようだ。

「! ――させるかよっ」 無我はそれを止めようと、バルロに向かっていく。

「おっと。あなたの相手は私ですよ」 バルロに気を取られた無我に、ムジュラの杖での一撃が命中する。

「ぐっ」 無我が下方へ飛ばされる。

 レビテーションの出力を上げ、体勢を立て直す。

「焦りが出ていますね? ――わかりますよ、あそこの彼とあなたでは実力が圧倒的に違いますからね。――彼、死にますよ」


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