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モノには言い方ってものがある【61】

昨日更新できなかった分、今日は2回更新です。


 街のとある路地裏で。


 見知らぬ現地人――おっちゃんが、指の関節をパキリパキリと鳴らしながら怖い顔で俺に詰め寄ってきていた。

 苛立たしげに片頬をひきつらせながら、


『セディスの事件の時に俺が何と言ったか、まさか忘れたわけじゃないよな?』


 逃げ道を失い、俺は壁に背を当てる。


 ま、待ってくれ。これには深い理由が……。


 片手を突き出し、俺はおっちゃんを止めようとした。

 冷や汗をだらだらと流しながら口早に言い訳を連ねていく。


 色々あったんだ。成り行きというかなんというか、その、つまり、あのドラゴンは


『深い理由だと? たとえばどんな理由だ?』


 い、いや、だから、これはつまり……その……


『あのドラゴンにはどうやって乗った? ドラゴンっていうのはな、この世界の住人ですら厳しい訓練を積まないと普通は乗れないもんなんだ。それなのになぜ乗れた? どうやって乗った?』


 い、いや、だからその……


『使ったんだよな?』


 えっと……


『使ったんだよな? クトゥルクの力を』


 いや、だから、つまりそれは


『セディスの事件の時、俺はお前に何と言った? 次にクトゥルクの力を勝手に使ったら容赦なくぶん殴ると、そう言っておいたはずだよな?』

 おっちゃんが拳を構えてくる。


 俺は慌てて首と両手を激しく横に振った。

 使ってない。使ってないから、絶対。


『絶対? ほぉ。絶対使っていないと言い切るのか?』


 つ、使ってない。


『だったら全力で俺にわかるように言い訳してみろ。なぜ、お前の眼が金の竜眼クトゥルクに変わっているのかをな』


 反射的に。

 俺は自分の目を両手で覆った。


 ……。

 無意識とはいえ、人は罪悪感を持った時、自然とそれを隠してしまうものだ。

 そう。子供の頃につまみ食いをしようとして親に見つかった時とか。


『自覚あり、か』


 ハッと。

 俺は誤魔化すように両手を目から離してぶんぶんと振った。


 ち、違う、誤解だ。俺、そんなつもりで──い、今のは目に虫が、か、かゆかったんだ。べ、別に自覚があったとかそういう


 おっちゃんが鼻で笑ってくる。

『それで惚けているつもりか?』


 嘘なんてついてない。本当だよ。そういうつもりなんて一切……えっと……。


 おっちゃんの強気な態度は変わらない。というか、必死に言い訳する俺を見て笑っている。

 俺はここでようやく言い訳もクソもできないことに気付いた。

 軽く頬を掻いて。

 全ての罪を認めるかのように、俺は反省の色を込めておっちゃんの機嫌をうかがいながらぽそりと尋ねる。


 もしかして俺の目、なんか変になってる?


 おっちゃんが急に俺の覆面をはがしてくる。そして何度も俺の額を指で小突きながら、

『この額に浮かぶ契約の陣も、何もしていないとシラを切るってのか? あぁ?』


 え!? 額!?

 俺は慌てて額を両手で隠した。


 その手を退けて、おっちゃんが責め立ててくる。

『正直に言え。お前、俺の知らないところで何と契約した?』


 え?


『誰がその証をお前の額に刻んだのかと聞いているんだ』


 こ、これは急に体が金縛りになって──


『契約っつうのはな、双方の合意の下に結ばれるものだ。ということはつまり、お前も相手の契約に合意したということだ』


 不可抗力だったんだ! カルロスのドラゴンがいきなり魔法を使ってきたんだよ!


 おっちゃんの顔がさらに険しくなる。

『不可抗力だっただと?』


 俺はここぞとばかりに言い訳を連ねる。


 そうなんだ。聞いてくれ、おっちゃん。カルロスのドラゴンと目が合って、そしたら急に体が金縛りになって抵抗できなかったんだ。そしたらなんか変なことになって──ってか、そんなに言うんだったら魔法をかけられた時の対処法くらい教えてくれよ。


『だから、やられるがままにやられたってのか? お前どんだけ世の中嘗めてんだ。泥棒に金見せたら盗られましたくらいに世の中嘗めすぎだろうが、このクソ坊主が!』


 痛ッ!


 額を思いっきりおっちゃんに指で弾かれて、俺はあまりの痛さに額に手を当てて涙目でその場にうずくまった。

 手加減無用に痛すぎる。今のは絶対八つ当たりだ。そんなに腹立ててんなら逃げ方の指示とか魔法の防御とかもっと具体的に


『うるせぇ! 魔法ってのはな、気合いでどうにか防げるもんなんだ』


 防げるかぁーッ! 気合いで防げるなら世の中の魔法使いが全員泣くぞ!


『まぁともあれ』

 言って、話を変えるようにおっちゃんが俺の頭に覆面を被せてきた。

 ぽんぽんと頭を叩いてくる。

『お前が無事で何よりだ。そのまま誘拐されなかったのが不思議なくらいだな』


 ……。


『魔法の防御やら何やらは今説明したところでお前を混乱させるだけだ。だから時機を見て、ゆっくりとお前に話そうと思っている。あの時みたいにお前を混乱させたくないからな』


 ……。

 もしかしておっちゃん、あの時俺が言ったこと……ずっと気にしていたのか?


 おっちゃんは肩を竦める。

『まさか』


 だよな。


『だよなってなんだ、お前』

 おっちゃんが疲れたようにため息を吐いてくる。

『とりあえず、お前の中にあるクトゥルクは封印しておいた。まぁ俺自身もいくつか反省すべき点はある。右も左も分からんお前をこの世界で放し飼いにしていたんだからな』


 待て。それ遠まわしに俺を飼い犬扱いしてないか?


『悔しかったらこの世界の常識を覚えてみろ。そしてあのドラゴンには今後一切、二度と近づくな』


 なんで近づいたらダメなんだ? あのドラゴンはそんなに悪いドラゴンじゃなかったぞ。


『お前なぁ。本当に向こうの世界に帰れなくなってもいいのか?』


 あ。

 それで俺は思い出した。

 ぽんと手を打つ。


 そういえばおっちゃん。


『なんだ?』


 俺、いつ向こうの世界に戻れるんだ?


『ログアウトの気配は?』


 ない。ってか、どんなのかもいまいちよくわからない。


 おっちゃんが呆れるように顔に手を当て再度ため息を吐く。

『お前に魚釣りは無理だ』


 いや、釣り絶対関係ないだろ。


 鼻で笑って言ってくる。

『別にお前がこの世界に永遠に居たいっていうんなら、俺はそれでいいんだけどな』


 はぁ!? ふざけんな。一秒たりとも居たくねぇよ、こんな世界。


『だったら向こうの世界に帰りたいという気持ちを忘れるな。常に心のどこかに持ち続けていろ。そうしないとログアウトのタイミングになっても気付かずにそのまま一生帰れなくなるぞ』


 だから、ログアウトのタイミングってなんなんだよ。魚を釣るとか言われても、やったことないからわかんねぇよ。


 おっちゃんが人差し指をぴっと立てて提案してくる。

『ならばこういう例えはどうだ? お前は今大きなグラウンドに居る。お前はバッターボックスに立ち、バッドを構えている。お前の目前に立ちはだかるのは手腕のピッチャーだ。

 そのピッチャーがボールを投げてきた! 絶好のストレート! その時お前はバッドを振り──それを爽快に打つ感覚だ』


 うわッ! なんで早くそれ言ってくれなかったんだよ! その例えの方がすげーわかりやすいじゃねぇか!



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