オリロアンで待つ【59】
昨日更新できなかった分、今日2話更新です。
一時はパニックに陥りかけていた街も、闇の退いた今――平和な空の下で平穏を取り戻し、安堵の息を吐いていた。
結界に守られし大地。
それが弱き者たちが生き残る唯一の方法。
※
勇者たちに守られ帰還したアデルは、兄王であるガミルと久しぶりの再会を果たした。
涙の再会といっていいだろう。
無言で、二人は互いの無事を喜びあった。
王都より迎えに来た白の騎士団とともに、兄王ガミルは街を旅立ち、王都へ戻ろうとしていた。
「共に国を築かぬか? アデル」
アデルは笑う。
「我輩に王都は似合わぬ。アカギの騒動もある故、我輩の帰りを快く思わぬ者たちもおろう。だから、我輩は旅に出ようと思う。ミリアと二人で」
アデルの隣にミリアが寄り添う。
ガミルは二人を心配した。
「何を言う、アデル。快く思わぬ者など城に居るものか。過去のことなど、もう終わったことだ。これからは──」
兄の言葉を手で制し、アデルは言葉を続ける。
「これは父も母も望んでいたことなのだ。生前、二人からはこう言われておった。『お前は世界を見よ。そして兄の手助けをしてやれ』と。弟の最後のわがままだと思って、聞いてもらえぬか?」
ガミルは微笑する。そしてアデルに手を差し出した。
「そうか。お前がそう決めたのなら仕方あるまい。しかし一度は墓参りに王都へ戻ってこい。旅立つのはそれからでも遅くはないだろう?」
差し出したガミルの手を、アデルはしっかりと握った。
「そうだな。そういう旅立ちも悪くはない」
◆
穏やかに続く平和な青い空。
小猿は人ごみ離れた路地隅に座り、その青い空をいつまでも眺めていた。
過去を思い馳せるように、その手に赤い布きれを握り締めて。
誰にでもなくぽつりと呟く。
「【白き神よ、俺たちの屍を越えていけ】、か……。我が息子──ルグナードの礎は果たされたのであろうか」
『だからこそ空が青いんだろう?』
路地裏から聞こえてきた覚えある声に、小猿は振り向く。
路地裏の影から姿を現したのは一人の男の子――たしか名をティムといったか──だった。
口を開くティムの声に以前の声は聞かれない。その代わり、馴染みある者の声が聞こえてくる。
『この国の結界は壊れやしない。それが、ルグナードが最期まで守り通し、築こうとした礎だ』
小猿は寂しげに空を見上げる。
「ルグナードだけではない。白き神の礎となった同志は多い。その屍を越え、白き神は決戦の地で何を見た? なぜ十四年もの間、消息を絶つ必要があった?」
小猿は背後に居るティムへと再び視線を戻す。
「それを知るのは唯一、最期まで白き神の傍にいたお前だけじゃ」
ティムは視線を落とし、過去を思い返すように微笑した。
『そうだな。たしかに最期までアイツの傍に居たのは俺だけだ。だが──』
笑みを消し、ティムは言葉を続ける。
『それを話すことは……まだできない』
「そうか」
呟いて。小猿は声を落とす。
「白騎士が──いや、白の騎士団がお前たちの行方を血眼で捜しておる」
『黒王も、な』
「行方をくらますのは構わんが、お前たちの行動はちと目立ちすぎる」
『わざと目立つようにしてんだ。こっちのことは気にすんな』
「本当に、クトゥルクは異世界人Kなのか?」
『さぁな』
小猿は鼻で笑う。
「惚けおって、この若造が。このまま白の騎士団へは戻らぬつもりか?」
『無論だ。アイツを白騎士の味方につける気は更々ない。俺は俺の信念を通させてもらう』
「白き神を利用してでもか?」
『そうだとしたら?』
「誰一人として味方の居ないこの世界で、お前に白き神が守れるとは到底思えぬな」
『それでも守ってみせる。たとえ──かつての同志を敵に回したとしてもな』
小猿の目尻がぴくりと跳ねる。
「まさかお前さん、白騎士と戦う気でおるのではないだろうな?」
『必要があれば戦うことも辞さない。俺は元々黒騎士だった男だ。裏切ることには慣れている。それに、俺の敵はただ一人と決めている。予言師巫女――シヴィラ。そいつだけは地獄の底に叩き落とさなければ気が済まない』
「やめておけ。シヴィラには誰も勝てぬ。運命は誰にも覆せぬのじゃ。たとえ白き神であろうと」
『俺が負けを認めるのは手を尽くした後だ。結果がどうあれ、それまでは俺のやりたいようにさせてもらう』
告げて。
ティムはそこから踵を返した。
小猿が声を投げてくる。
「お前さんがどういう信念を持っていようと構わんが、ワシ等【白の騎士団】は必ずお前さんから白き神を奪い、帝都の神殿へと連れ戻す。
多少手荒いことになったとしても必ず。それだけは覚えておくが良い」




