異形【54】
「そんな……馬鹿な! 本当に【運命の子】が現れただと!」
竜人騎士の戦き呟く声に、アデル達はその方へと目を向ける。
大穴の開いた壁の向こうに見える、炎に包まれた荒野――その上空に、たしかにその姿はあった。
複数のドラゴンを使役し、戦場を意のままに駆る白き衣をまとった人物。姿は遠く、顔までは確認することができない。
ミリアは呆然と呟く。
「白騎士……。あのドラゴンはカルロスの──まさかカルロスが【運命の子】だったなんて」
アデルは竜人騎士に言う。
「これでもまだ、お前たちは戦おうと申すのか?」
竜人騎士に焦りの色が浮かぶ。焦りながらも、竜人騎士の目から戦意は消えていなかった。
しだいに怒りを沸々と込み上がらせ、竜人騎士は歯がみし言う。
「白騎士にこの計画を潰されたとあっては祖先や黒王様に顔向けできん。それこそ黒騎士の恥だ。こんなところで負けるなど……!
我が竜騎軍の誇りにかけてでもこの国を手に入れてやる!」
竜人騎士は首元から角笛のペンダントを取り出すと、それを口にくわえ、思い切り吹き鳴らした。
音なき音が支配する。
――強欲なる破滅の無音。
途端に、竜騎軍たちの体に異変が生じ始めた。
喉の奥から低く、取り憑かれたかのような唸り声をあげる。
肌はヒビ割れ、亀裂が走り。両手には鋭い鉤爪が生えてくる。頭頂や顔、四肢から丸く大きなコブみたいなものが次々と膨れて盛り上がった。布を絞り引き裂くような音を立てながら肉を突き破り、そこから新たに蛇のウロコのような固い皮膚が飛び出てくる。口は大きく裂けて、ワニのような口先と鋭い牙に生え変わっていく。体躯が異様なまでに縦に長く伸びていき、巨大な岩蛇の姿を垣間見せる。
異形。彼らは変貌しようとしていた。
遺伝に残された本来の竜と獣の狭間──土竜の姿に。
しだいに巨大化していく彼らに、塔が限界を迎える。
「くっ……! 竜騎軍!」
天井から降りそそぐ粉塵や欠片に腕で顔を覆いながら、アデルは苛立たしくうめく。
「本能を呼び覚ましてでもこの国を欲するか」
「アデル様」
「アデル様」
傍らにいた勇者たちがアデルを外へと避難を促す。
「今のうちに、アデル様」
ミリアの言葉に「うむ」と頷いて、アデルはミリアや勇者たちとともに崩壊しようとする塔から急いで逃げ出した。




