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逃げてんじゃねぇよ!【49】


 逃げた街角で。


 俺は背後に気をとられていたこともあり、壁の向こうから急ぎ現れたそいつと出会い頭にぶつかってしまった。


 痛ぇ……。


 地面から身を起こして俺はそいつへと目をやる。

 そいつも同じようにして身を起こして俺を見てきた。

 互いにしばし目を合わせ。

 そして見覚えある人物に、俺は指を突きつけて叫んだ。

 

 あー! お前はあの時の卑怯勇むぐッ!


 慌ててそいつが俺の口を塞いでくる。

 長い金髪を振り乱して、二枚目顔の青年――カルロスは焦るように周囲を見回し、口早に言ってきた。


「頼む、見逃してくれないか? 王様がまさかこんな──ここは平和を約束された国だぞ。それなのに授与式でいきなり討伐任務なんて。しかも初っ端に竜騎軍の討伐を命じてくるなんて思わなかったんだ」


 塞がれた口を叩き払い、俺は眉をひそめ尋ねる。

 見逃す?


「王様はきっと僕の勇者としての力を試そうとしているんだ。冗談じゃない。楽して勇者になれるって聞いていたのに。とにかく、僕は在るべき国に戻らせてもらう。勇者の称号さえ手に入れればこんな国なんかに用はない。こんな事態になるんだったら裏金使ってまで参加しなかったのに」


 俺は片手でカルロスの肩を激しく掴んだ。

 お前って、ほんとどこまでも腐っている野郎だな。それでも勇者か?


 カルロスは何かに閃くようにして懐を探り出す。

「そうだ。君に金をやろう」

 札束を取り出し、無理やり俺に押し付けてくる。

「これはお前の金だ。好きに使っていい。万国共通の通貨だ。家が買えるほどの価値だぞ。ほら、受け取れよ」


 いらねぇよ。こんなゲーム・マネー。

 俺はぺしりと叩き払った。


 カルロスが驚いた顔で言ってくる。

「げ、げーむまねー? な、何言っているんだい? 君の言っている意味がまるで分からないよ。これはその【げーむまねー】というものなんかじゃない。公認のラスカルド国の通貨だ。本物だぞ? それをお前にやると言っているんだ。金貨よりも価値のある金なんだ。わかっているのか?」


 もらっても邪魔になるからいらない。


 カルロスの顔にさらに衝撃が走る。

「い、いらないって。まさか君……ラスカルド国の存在を知らないのか?」


 ラスカルド国?


「ち、地図を見たことあるかい? 西の大きいの。あれが僕の国だ。ラスカルド国はクトゥルクの加護を受けた国だぞ。ラスカルド国を知らないなんて、ハッキリ言って頭おかしいレベルじゃ済まされないから」


 そんなことはどうだっていいだろ。とにかく戻れよ。


「戻れって……?」


 闘技場に決まってんだろ。あんだけ俺の前で威張っておいてその程度かよ。


「なッ!? 相手は竜騎軍――黒騎士だぞ! 誰だってあんな戦闘狂と殺り合いたくないはずだ。それなのに、いきなり実戦なんて」


 勇者なんだろ? お前自分でクトゥルクに選ばれた勇者だって俺に言っていたじゃねぇか。あれは嘘なのかよ。


「嘘なんかじゃない。だけど、勇者だって一人の人間だ。戦いたくない、だが称号は欲しい。それはみんな思っている。君だってそうだろう?」


 俺は……。

 目を伏せて言葉を詰まらせる。

 その脳裏で思い出す、竜騎兵と戦った時のこと。

 一度目は戦い方を知らずに戦慄を覚えた時。

 二度目はおっちゃんと一緒に突入したことで偶然戦い方のコツを得た時。

 成功したあの一瞬、俺の中で何かが掴めたような高揚めいたものを感じた。

 コツさえ掴めば俺もちゃんと戦えるんだって。

 俺は改めてカルロスと目を合わせ、そしてさきほどの問いかけに答える。


 もし俺に戦えるだけの勇気と力があるなら、俺は戦いたいと思う。


「なんだコイツ、頭狂っているのか? 相手は竜騎軍だぞ。冗談じゃない」

 吐き捨てて。

 カルロスは俺の手を振り払い、その場から逃げ出した。


 俺は慌ててその後を追い、カルロスの肩を掴んで引き止める。

 逃げてんじゃねぇよ!


「離せ、無礼者! 僕に触れるな!」


 だったら!


 言って、俺はカルロスの肩から手を離し、すぐに今度は彼の胸服を両手で掴んで引き寄せた。


 恐る恐る声を震わせ、カルロスは俺に問う。

「だ、だったら……なんだい?」


 俺はハッキリと言ってやった。


 お前のドラゴンを貸せ。俺が代わりに乗ってやる。


「い、いいけど……乗り慣れてないと落ちて死ぬよ? マジで」



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