精霊と王【48】
※今日だけ二回更新です。
荒野の大地。
その光と闇を分かつ境界線となる場所に、それは建っていた。
人里離れた荒野に建つ塔だ。
数年前までは見張り塔として使われていたのだが、平和の続く今ではこの先の危険を意味する目印として存在するだけになっている。
無人の建物は風化が早い。たまに補強の手を加えて改修はしているのだが、結界の境界線とあってか補修人を含め、民人はそこに寄り付こうとしなかった。
人の気配のない暗闇の塔の中を、ミリアは虚空に白き明かりを点して歩いていた。
精霊の力を借りて点した魔法の明かりである。
道を照らす為でもあったが、この光は身を守る魔除けの為でもあった。
ここは光と闇の分かつ場所に建った塔の中。
闇には当然、魔物が潜んでいる。
いつなんどき、どのような形で襲ってくるか分からない。
魔物は光を嫌う。
それでもけして、明かりに頼って油断してはならない。
大切な水筒を胸に抱いて、ミリアは慎重に道を進み続ける。
そして。
ミリアは見つけた。
ある一つの牢の部屋で頼りなく光る白き明かりを。
周囲に細心の注意を払った後、ミリアはその明かりの傍へと駆け出した。
古びた牢のその部屋の中で、今にも消えかけそうな明かりに包まれながら項垂れて助けを待つ五人の勇者と、怪我を負った一人の見知った人物を目にする。
ミリアは牢越しに声をかける。
「アデル様、どうしてここに! それにその怪我――」
彼女の声を聞いて、アデルは怪我を負った身を無理に起こして牢に張り付く。
「気にするでない。竜騎軍に見つかり捕まってしまったのだ。それより──」
「待っていてください、アデル様。すぐに怪我の治癒を」
ミリアは急いで水筒を手にとった。
その手をアデルが掴み、引きとめる。
声を落とし、
「今は一刻を争う事態だ。ミリアよ、我輩の話を聞くがよい」
「アデル様……」
「事の全てを兄がきっと止めてくれる。それを我輩はケイに託したのだ。我輩はこの程度で済んだがケイの身が心配だ。お前はすぐにここを離れ、ケイを──」
唐突に、暗闇から声がかかる。
「やはり来たか。精霊」
ミリアは声のする闇へと鋭く警戒し、牢から少し離れるようにして立った。
手に魔法陣を生み出して攻撃の構えを取る。
闇から姿を現す竜騎軍――その指揮階級騎士を先頭にしてぞろぞろと竜騎兵が顔を見せる。
「古の契約により、王の傍には必ず精霊が寄り添うと云う。
精霊巫女ミリアよ。王位を失ったその者を、いまだ王と慕い、真の王と認めるのか?」
「竜騎軍……!」
ミリアはぎりりと奥歯を噛み締めた。
「考えたものだ。結界契約を王命でも解けぬよう封印氷凍するとはな。すぐにあれを解除しろ、精霊巫女。それともここでその者たちと共に魔物のエサとなるか?」
竜騎軍の背後から無数の魔物が姿を見せる。
ミリアは怯むことなく竜人騎士を睨み据えて言い放つ。
「それが精霊巫女に対する物の頼み方ですか? 牢の中にいる全ての者達を解放しなさい、竜騎軍。それともここで私と戦いますか?」
「ミリア! 何を言うて──」
言いかけたアデルに、ミリアは首を横に振る。
「アデル様。私はここでアデル様を救う道となります。この命を賭してでも」
「ミリア!」
「決めたのです。アカギに裏切られたあの日、私の味方をしてくださったのはアデル様だけでした。王位を失ってでも私を信じてくださった恩義は一生忘れません。その恩義を今、ここで返したいと思います。
この方法でしかアデル様を助けられない私を、どうかお許しください」
竜人騎士が腰の剣をすらりと抜く。
「死して解く道を選ぶか。愚かなり、精霊巫女よ。その恩義を汲んでここで華やかに散らしてやろう」




