トラブル【46】
闘技場から大きな歓声が沸きあがる。
勇者カルロスを迎える歓声だった。
おっちゃん!
『あぁわかっている。俺と一緒に来い』
わかった。
俺はおっちゃんとともに駆け出そうとした。
――その時。
「おいらの話を聞いてください!」
円形闘技場から響く声。アナウンス──というものがこの世界に存在するかはわからないが──のようなもので声を遠くまで響かせている。
この声、ティム!
俺は思わずその場に立ち止まった。
おっちゃんも足を止める。
闘技場から起こるざわめき。
おっちゃんが苛立たしく頭を掻いた。
『なんてことだ、こんな時にあのガキ! 早く止めないと大変なことになる!』
行こう、おっちゃん!
※
俺はおっちゃんとともに、闘技場内の入場口へと向かい走っていた。
最初の入場と違って今は入場口に警備員の姿はない。
おっちゃんがいきなり足を止める。
俺も立ち止まり尋ねる。
どうした? おっちゃん。
『覚悟を決めろよ』
え?
『竜騎軍の兵士どもがあの奥で待ち伏せてやがる』
ど、どこに?
俺は懸命に目を細めて入場口の奥の様子を見やる。
見る限りでは誰も居ないようだが。
『敵を目で見つけようとするな。相手を誰だと思っている? 黒騎士だぞ』
言って、おっちゃんは懐から警棒を取り出した。
それを俺に手渡してくる。言葉とともに、
『戦闘は避けられない。人殺しはしたくないだろ? お前はこれで戦え』
受け取って。
俺は動揺ある声を震わせ、おっちゃんに言った。
た、戦えって……。俺、まだ一度も戦闘なんて──
『ビビるな。所詮雑魚だ、肝を据えろ。戦い方はお前の体が知っている。クトゥルクを発動しそうになっても死ぬ気で自制しながら突き進め。ここを戦場に変えたくなければな』
……。
俺はごくりと唾を飲みこんだ。
警棒を片手に強く握り締める。
おっちゃんが手の平に魔法陣を発動させると、声を落として俺に告げる。
『お前に手を貸す余裕はない。事を穏便に済ませる為にも相手に攻撃を見舞う時は一撃で仕留めろ。わかったな?』
わ、わかった。
『強行突入する』
俺はおっちゃんの後に続くようにして一気に闘技場へ向けて駆け出した。




