竜騎軍の狙い【45】
竜騎軍が俺たちの前から去り。
俺は昨夜の事をおっちゃんに説明した。
竜騎軍に襲われたあの夜のこと。アデルさんのこと。そして結界を破壊する計画が練られていることを。
竜人兵士こと──おっちゃんは、呆れるようにため息を吐いて顔に手を当てる。
『お前、なぜそれを早く俺に言わなかった?』
……。
俺は無言で目を伏せる。
おっちゃんに話していたら何かが変わっていただろうか。
『さっきの取引だ。条件が違ってくるだろ』
……条件?
俺は顔を上げて問い返した。
『人質を受け取りました。俺もこの体を竜騎軍に返しました。――で? 何のメリットがある? このままだと全部竜騎軍の有利に事が運ぶ』
竜騎軍の有利に?
おっちゃんが頷く。
『そうだ。人質の安全を条件につけたが、これだと全て無意味になる。竜騎軍は人質を生かすつもりなど更々ない。勇者が帰って来た時に人質を解放すると言っていたが、それはつまり誰も生きていないとわかっているからそう言ったんだ』
誰も生きていないって──?
そこまで言って、俺はハッと何かに気付いた。
もしかして結界が壊れるから、か?
おっちゃんが俺に人差し指を突きつけてくる。
『その通りだ』
手を払い、俺は言う。
行こう、おっちゃん。王様のところに。王様に会ってこのことを報告――
『待て』
俺の言葉を手で制し、おっちゃんは真剣な顔で顎に手を当て考え始める。
『人質が竜騎軍の手にある限り下手に動くわけにはいかない。この国の結界を壊す契約魔紋書を許可できるのはこの国の王だけだ。この計画を王に話せば、たしかに事は止められる。――止められるが人質が殺される。どうにかこの二つを同時に止めることはできないだろうか』
俺はあの夜のことを思い出し、おっちゃんに告げる。
そういえばおっちゃん。あの夜、アデルさんは竜騎軍にこう言ったんだ。王様が結界を壊すはずがないと。でも竜騎軍はこう言い返していた。――王様には事前に情報を入れた、と。たとえこの祭りで優勝する勇者が金の力で仕立て上げられただけの、ただの道化勇者だったとしても勇者さえ国に居れば結界は必要なくなるって
パチンと。
急におっちゃんが閃いたように指を鳴らす。
『それだ!』
え?
『たとえカルロスが道化勇者だったとしても、ライバルを蹴散らして一人で優勝すれば勇者は勇者だ。王は一縷の望みに賭け、カルロスを勇者と認めて竜騎軍の討伐を命じるだろう。もしそれでその勇者が逃げ出したとしたら、どうなると思う? その時点で王と竜騎軍の権力は完全に逆転する。勇者が逃げ出せば』
逃げ出せば?
『本当にアデルという奴がお前に、アデルという名とともに竜騎軍の計画を王に伝えろと言ったんだな?』
う、うん。
『ならば騒ぎ立てず、王にだけ、このことを伝える必要がある』
騒ぎ立てず? 王様にだけ?
『そうだ。もしかしたら何らかの形で結界が守られる方法があるのかもしれない。お前は王に会ってこの計画を伝えろ。俺が囮になり、そのままカルロスの体を乗っ取る』
カルロスの体を?
『要は勇者が逃げ出さずに竜騎軍と戦う姿勢を見せればいい。それしか俺たちにできることはない。
とすれば、タイミング的にも、場所も、チャンスも、たった一つ──たった一度しかない』
言って、おっちゃんは闘技場へと視線を向けた。
俺も視線を追って闘技場へと目を向ける。
闘技場……勇者の帰還……。
『非常に危険な賭けだがな』
賭けよう、おっちゃん。
『待て』
おっちゃんは人差し指を立てる。
『だが一つだけ、どうしても腑に落ちないことがある』
腑に落ちないこと?
『この国の結界を壊すには、契約魔紋書といって──王が直接、結界を司る精霊に結界を解くよう命じなければならない』
つまり、何が言いたいんだよ。
『……あの王の傍に精霊がいたか?』
知らないよ。
『俺が見た限りではあの王の傍に精霊は居なかった。だとすれば、王はいったいどうやって結界の解除を命じようと?』
言葉半ばで。
俺たちの上空を大きな影が覆い、通り過ぎていく。
――勇者カルロスの帰還だった。
俺はおっちゃんに言う。
行こう、おっちゃん。とにかく時間がない。
『そうだな。たしかに、考えている暇は無いようだ』
俺とおっちゃんは闘技場に向けて走り出した。




