持ちかけられた取引【44】
ティムを追って街のあちこちを捜し回った。
でも結局俺は、ティムを見失ってしまう。
人混みに紛れたのか、それとも角を曲がってしまったのか。どこを捜してもティムの姿は見当たらなかった。
途方に暮れた俺は足を止め、膝に手をつく。
頭を垂れて疲労のため息を一つ。
最低だな、俺も。これでおっちゃんのこと、何も言えなくなる。
【俺だってな、昨夜はずっとお前のことを捜したんだぞ。交信が取れなかったせいで捜すアテもなったし、街中をウロウロするしかなかった。まぁ最終的に、ここで待ってりゃぁお前が来るかなと思って待っていたんだ】
【そのおかげで、俺はとんでもない目にあった】
何気ない偶然。
竜人に追われて詰め所に駆け込もうとした時だって、俺が一方的に勘違いしただけだった。誤解だと分かった時も俺は全部おっちゃんのせいにした。
【全ては偶然だと言えば、お前は信じるのか?】
最初はおっちゃんのことを最低な大人だと思っていたけど、もしかしたら俺は、おっちゃんのことを色々と誤解しているのかもしれない。
俺がこの世界に来ることも、クトゥルクを使う状況に陥ることも。
百パーセントとは言い切れないが、でも何割かは、騙されていると思い込む俺の一方的な誤解だとも考えられる。
『だったらこれがどういうことなのか手短に説明しろ』
背後から聞こえてきた声に俺は振り向く。
そこには肩で息を切らした竜人兵士――おっちゃんの姿があった。
おっちゃんの表情が鋭くなる。俺より向こうの前方へと視線を向けて、言葉を続ける。
『――なるべく事を穏便に済ませる為にもな』
視線で示されて、俺はその方向へと目を向ける。
俺の前方に一人の竜人騎士と数人の竜人兵士の姿。
目を見開き、俺は思わず竜人騎士に指を向けて叫ぶ。
お、お前はあの時の!
竜人騎士が感嘆の声を漏らす。
「ほぉ。やはりあの時の者か。生きていたなら答えは一つ。――問おう。竜人二人を殺したのはお前か? それとも」
竜人騎士の視線がおっちゃんへと向く。
それを合図に後ろに連れた竜人兵士たちが一斉に腰の剣に手をかける。
同時におっちゃんも懐に手を入れて何かを取り出そうとする。おそらく拳銃だ。
周囲の人たちが気配を察して離れていく。
竜人騎士は兵士たちの行動を手で制した。
命令に従い、兵士たちが各々の武器から手を引く。
おっちゃんも懐から手を離した。
俺は内心でおっちゃんに言う。
ってか今、拳銃取り出そうとしていただろ!
答えず。おっちゃんは真剣な表情のまま俺の隣に歩いてきた。俺の腕を掴んで庇うように背後へと引っ張り込む。
引っ張られるがままに俺はわけわからず戸惑いながらおっちゃんの背後へと移動した。
竜人騎士の目が険しくなる。
おっちゃんが頭の中で俺に言ってくる。
『何があってこんなことになった?』
え?
『相手が誰だかわかっているのか?』
俺は首を横に振る。
いや、全然。ってか、この人が何者なのか俺もいまいち──
言葉半ばでおっちゃんが呆れるように内心でため息を吐く。
『やはりお前を彼らの傍に置いておくべきではなかったか。まさか指揮階級に目をつけられる事態になるとは』
もしかしてやばい相手なのか?
『やばいもクソもない。お前は一切手を出すな。相手は竜騎軍――黒騎士だ』
はぁ!?
『お前の存在がバレれば大変なことになる。絶対にクトゥルクを使うなよ。どんなことがあっても力を抑え込め。こんな接近だと誤魔化しきかねぇからな』
わ、わかった。
『お前が無事でいたのが不思議なくらいだ。誰かに助けてもらったのか?』
アデルさんが助けてくれたんだ。
『そのアデルって奴はどうした?』
それが……。
俺は視線で竜人騎士のことを訴えた。
竜人騎士が微笑し、言ってくる。
「取引といこうじゃないか」
え?
『ん? 取引だと?』
「そうだ。こちらには人質がいる。もし昨夜のことで騒ぎを起こすというのならば、こちらにも考えがある」
人質って、アデルさんのことか!
「事が終わるまでお前たちが荒立てず大人しくするのであれば、あの者は自由の身にしてやろう」
『――その保障は?』
おっちゃんがそう尋ねると、竜人騎士は微笑した。
「闘技場で勇者の帰還と共に。そこで約束を守ろう」
そしてそのままおっちゃんへと指を向ける。
「我が同志の体を返してもらう条件も含めてだ」




