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大人は誰も守ってくれないと言うけれど、それは嘘だと俺は思う【43】


 昼のにぎやかな街中を、俺と竜人兵士は肩を並べて歩いていた。


 竜人兵士――おっちゃんが、ぽつりと尋ねてくる。

『腹、減らねぇか?』


 ……別に。


 帰れない苛立ちと整理のつかない気持ちでいるせいか、自分でも冷たいと思えるほどの返事をしてしまう。


『そっか……』


 ……。


 お互い冗談が言えなくなるほどに、俺たちは会話ができなくなっていた。

 このまま街を一周してしまうのではないだろうか。

 俺は無言のまま歩き続ける。

 本当にただ歩くだけ。

 目的もなく、会話もない。

 俺も会話を切り出さないし、おっちゃんも切り出してこない。

 なんとも嫌なわだかまりの残る散歩だった。

 無言で歩きながら、俺は反省もかねて思い直す。


 まぁたしかに今までを通して、からかわれたり嘘つかれたりもしたけれど、おっちゃんは別に本気で俺を騙そうとして色々やっているとは思えない。本当に根は良い人だ。俺が危ない目に遭っている時は全力で助けに来てくれるし、必死で守ってくれる。ダメなものはちゃんと「ダメだ、やるな」と言ってくれる。

 ……そうだよ。全部が全部おっちゃんのせいなんかじゃない。俺にだって色々と非を認めなければならないことはたくさんある。クトゥルクの力だって、おっちゃんは使わせないようにしてくれているのに俺が反発して使ってしまうからなんだ。綾原の時だって、北の砦の時だって、おっちゃんはちゃんと俺を止めてくれていた。それなのに俺は……。


『そう自分を責めるな』


 ──って、筒抜けかよ!


『まぁ、あれだ。お前の言葉が勝手にこう、俺の中に受信してしまうんだ』


 どこの電波塔だ、俺は!


『なんつーか、その……交信中であることを言い出しにくかったことだけは伝えておく』


 伝えてくんな! もういいよ! やっぱり最低な大人だ、おっちゃんなんて!


 咳払いして、おっちゃんは会話を切り出してきた。

『その……あれだ。まだ出来ないのか?』


 え?


『ログアウトだ。俺もさっきから強制ログアウトさせてやっているがピンともスンとも反応がない』


 念じればいいのか?


『いや、とにかく感覚で覚えろとしか言いようが無い。慣れてくれば自然と出来るんだが、なんだ、こう、なんつーんだ? 言葉で教えてやれるようなモンじゃないんだ』


 感覚か?


『感覚だ』


 たとえばどんな?


『魚を釣る感じだ』


 魚?


 おっちゃんが空気竿を構える。

『今、お前の目の前には川があるとしよう。大きな川だ。そこに魚がぴちゃんと跳ねる。魚がたくさんいる証拠だ。そこに釣り糸を垂らし、じっとタイミングを待つ。そして魚が食いついてきたと思ったら一気にこう、素早くピッと』


 いや、わかんねぇよ。ってか何の話だよ、それ。


 汗のない額を拭っておっちゃんが爽やかに言ってくる。

『どうだ?』


 どうだじゃねぇよ。何自信に満ち溢れた顔してんだ。


『これで魚が釣れる』


 釣り方とかどうでもいいよ。俺が知りたいのはログアウトの仕方だ。


『ログアウトはそんなやり方だ。これでお前も一人前のログアウターになれる』


 ログアウターってなんだよ。初めて聞いたよ、それ。


 くしゃりと、おっちゃんが俺の頭を乱雑にかき乱して撫でた。

 その後ぽんぽんと無言で俺の頭を軽く叩く。


 ――ふと。


 前方から見覚えのある少年と鉢合わせ、俺は足を止めた。


 お前……


 ティムだった。

 その顔は裏切られたような悲愴な表情をしていた。

 信じられないとばかりに声を震わせ、今にも泣き出しそうな声で言う。


「なんだよ……そういうことだったのか。信じていたおいらが馬鹿だった」


 俺は事情が飲み込めずに疑問符を浮かべておっちゃんと顔を見合わせる。

 ――ん!?

 ちょっと、待て! 俺の隣に居るのは竜人兵士じゃねぇか!

 ようやくそこで俺はティムが誤解していることに気付いた。


【今回のレースはイカサマです。竜騎軍が裏で手を貸していたんです。さきほどあの人たちが優勝するよう仕掛けてきたと言っていました】


 後悔したがもう遅い。きっと何を言っても信じてもらえないだろう。


「最低だ! みんな大ッ嫌いだ!」

 泣きながら、ティムは背を向けて走っていった。


 俺は内心でおっちゃんに口早に告げる。

 おっちゃんはここに居てくれ。俺、ティムに説明してくる。


『説明って何をどう──おい!』


 言葉を皆まで聞かず、俺はおっちゃんをそこに残してティムの後を追いかけた。



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