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仕掛けられた罠【40】


「なに!? カルロス以外の勇者たちの姿が見当たらぬだと!」


 街は深夜。ほとんどの住民が寝静まった頃である。

 月の明かりに照らされた薄暗い街中。

 睡眠不足だった俺はつい民家の壁に身を預けて座り、うつらうつらと眠りにつこうとしていた。――が、アデルさんの声でハッと目を覚ます。

 いつの間にかミリアが戻ってきており、アデルさんに何かを報告した後だった。


 アデルさんがミリアに確認する。

「では、他の勇者たちはいったいどこに?」


 ミリアは首を横に振る。

「わかりません」

 ふと。

 俺の存在に気付いたのか、ミリアが俺に視線を移してくる。呆れるようにため息を吐いて、

「よくこんなところで眠れますね」


 別に。寝てねぇし。

 俺は重い腰を上げて立ち上がった。


 ん? ってか、ミリアって今まで一体どこに?


 キッと鋭い目つきでミリアが俺を睨んでくる。

「勘違いしないでください」


 え? 何が?


「たとえあなたがアカギとは無関係だったとしても、私はまだあなたを完全に信用したわけではありませんから」


 あの……アカギって?


「あなたには関係ないことです」

 ツンとそっぽを向いてミリアは俺を無視するようにアデルさんとの会話を再開する。

「アデル様」

「うむ」

 アデルさんが頷く。

「ミリアよ。お前は急いで他の勇者たちの行方を捜すのだ」

「わかりました」

 ミリアはアデルさんに一礼してその場を去っていった。



 遠く去り行くミリアの姿を見送ってから。

 俺は不思議に首を傾げた。アデルさんに問う。


 もしかして徒歩で勇者を捜しに?


 アデルさんが俺の言葉を手で制す。

「ミリアのことは気にするな。それより我輩とお前さんでやるべきことがある」


 やるべきこと?


「うむ。まずは竜騎軍を見つけ──」


「誰を探している?」

 声は別の方から聞こえてきた。


 目を向ければそこに、鎧を着た一人の竜人騎士と三人の竜人がいた。

 四人の姿は月明かりで確認できる。

 あの三人はたしか、アデルさんがしばき倒した竜人三人組――と、プラス一人。

 なるほど。つまりアデルさんへの仕返しに来たわけか。三人の前に立つ竜人騎士はそいつらの兄貴的存在なんだろう。

 アデルさんの表情が鋭くなる。


「やはり来たか、竜騎軍指揮……」


 竜人騎士はアデルさんに久しそうに語りかけてくる。

「まだ生きていたのか、元主君よ。つくづくしぶとい御仁だ。あの時大人しく死んでいれば良かったものを」


 死んでいれば?


 アデルさんが俺を守るようにして背に庇い、拳を構える。

「この宝拳ほうけんが、汚い悪党を前に敗れるはずがない。正義は必ず勝つ。そう決まっておるのだ」


 竜人騎士が鼻で笑う。

「正義、か。――世迷い事を。

 弱い者が死に、強き者だけが生き残る。それがこの世の運命さだめなり。お前の兄はすでに竜騎軍を前に降伏した。後はお前が死ぬだけだ」


「我輩は負けん。貴様等をこの正義の拳で裁くまでは」


 竜人騎士の手が動く。腰に携えた剣にゆっくりと手をかけ、

「兄のように大人しく頭を垂れていれば生かしてやったものを。正義だ平和だのと戯言を抜かし、竜騎軍を敵に回すということがいかに哀れで愚かなことか、死をもって知るが良い。死んだ王と王妃のようにな」

 すらりと剣を抜き放つ。


 アデルさんが憎々しげに歯を噛み締めた。

「受けた恩恵を忘れ、平和を望む父と母に刃を向けたこと一生忘れん。父と母の仇、今ここでとらせてもらう」


「無駄だ。人間どもの力など所詮知れている。戦場を生き抜いた我らが祖先の、誇り高きこの竜族の血を前に一生勝てぬのだ。戦場は再び甦る。ときは来た。我らは祖先の誇りを取り戻す。勇者の帰還とともに結界は消滅し、この国は我が竜騎軍のものとなる」


「この国の結界は解かせん! 兄とて王家代々伝わる大切な結界であることはわかっているはずだ! 兄がこの国の結界を解くはずがない!」


「それはどうだろう。王の耳には事前に情報を入れておいたからな。クトゥルクに選ばれし勇者が現れると。それを聞いた王はとても喜んでおいでだった。きっと【運命の子】と呼ばれし伝説の勇者の再来を望んだのであろう。勇者さえ国に居れば結界など必要なくなるからな」


「なにを馬鹿な! そんな話を兄が信じるはずが──」


「天空の白狼竜が現れた今、いつなんどき【運命の子】を名乗る勇者が現れても不思議ではない。誰もが疑いもせず勇者の話に耳を傾けてくる。たとえこの祭りで優勝する勇者が金の力で仕立て上げられただけの、ただの道化勇者だったとしてもな」


「貴様ッ!」


「この国の結界は時機壊れる。――いや、ガミル王が結界を解いてくださる。準備は万全だ。もう誰にも止められまい。勇者が帰還した時がこの国の結界の最後だ」


 アデルさんが俺を突き飛ばてくる。

「お前さんはここから逃げろ。そしてこのことを兄に──ガミル王に伝えるのだ!」


 俺は両手をわななかせた。

 伝えるって、何をどこから!? しかも俺みたいな庶民の言うことなんて


「いいから行け! 我輩の名を言えばわかる! 今聞いたことをありのまま兄に伝えるのだ!」


 竜人騎士は三人の竜人に視線を送る。

「お前等はあの覆面ガキを殺れ」

 それを合図にするかのように、三人の竜人が喧嘩腰に入る。ふんぞるようにして俺を睨み、各々指の関節を鳴らしたり、腕を回したりして戦う準備を始める。


 戦闘。

 クトゥルク無しの戦闘なんて俺に出来るはずがない。

 武器も無い。魔法も知らない。この世界の戦い方なんて俺は知らない。

 人間ならまだしも相手は竜人。どんな戦い方をしてくるのか、どんな攻撃が有効なのかも何もわからない。ましてや魔法や刃物、火を使ってきたら迎え撃つ手立てがない。

 せめておっちゃんが傍にいてくれていたら……。

 俺は怯えるようにその場から数歩後退した。


 すると二人の竜人の姿が俺の視界からかき消える。

 悪寒を感じて振り向けば、回り込むのようにして竜人の姿があった。


「おっと、何逃げようとしてんだ。竜騎軍を敵に回して逃げられると思うなよ」

「お前の相手は俺たちだ」

「弱そう奴だな、お前。一瞬で片付きそうだぜ」


 三人は嘲笑にも似た笑いを浮かべ俺に近づいてきていた。

 俺が弱いと確信しているからだろう。

 そんな時だった。


鉄拳アイゼンフィスト!」


 どす黒い拳を固めたアデルさんが、竜人一人をぶっ飛ばす。

 残された二人が、一瞬何が起こったかわからないといった顔で呆然とする。


 アデルさんが俺に言う。

「今のうちに行け! ここで殺されたら何も残らん! 逃げ延びてこのことを兄に伝えて結界の解除を阻止するのだ!」


 アデルさんの声が俺の心を強く圧した。

 言われるがままに俺は無我夢中でその場から駆け出した。



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