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厄介事は避けていても降りかかる【39】


 ――お断りします。


「なぜだ?」


 俺、厄介事に関わりたくないんです。いえ、関わるわけにはいかないんです。


 人通りの少ない夜の街中を。

 俺は無理やりアデルさんに腕を引っ張られ歩いていた。


「関わるわけにはいかないだと? お前さん、見た感じ首を突っ込んではいけないほど重き運命を背負っているようには見えんのだが?」


 だからってあえて巻き込まないでください。


「お前さんの中に眠る正義の血が騒がぬのか?」


 無いですから、そんなの。普通の血が流れています。


「なぜそう消極的なのだ? お前さんには勇者になる素質がある。我輩にはわかるのだ。お前さんの内に眠る強き心が。その心を解き放たなければ立派な勇者にはなれぬぞ」


 別に俺、勇者を目指しているわけでもないんで。


「なぜやってもいないうちから物事を諦めるのだ? お前さんは我輩が見込んだ者だ。お前さんならきっとやれる」


 やれるやれない以前に、俺は何事にも関わりたくないんです。


「ならば問おう。もしこの件が、この国の命運に関わることだと言えばお前さんはどうする?」


 この国の命運に関わる?


「そうだ。竜騎軍はけしてカルロスを優勝させる為だけに動いているのではない。竜騎軍の狙いは別にある」


 狙い?


 俺の言葉を制するように、アデルさんは手をかざしてきた。声を落として告げる。

「我輩は今からお前さんに重要な任務を託そうと思っておる」

 

 え、任――


 アデルさんは人差し指を口に当て、俺に黙るよう示した。


 ……。

 俺は言う通りに口を閉じる。


 きょろきょろと、アデルさんは辺りをうかがうように周囲を見回した。

 声を潜めて会話を続ける。

「良いか。これから話すことはこの国にとって、とても重要なことだ。我輩はお前さんを信頼し、事を託したい」


 そんな大事なことを俺に託さないでください。


「馬鹿者、何を言う。我輩はお前さんを信用しておるのだぞ」


 だからってなんで俺なんですか? 勇者なら他にも──


「お前さんだから話すのだ。今までに何十人と勇者をこの目で見てきたが、ティムといい、お前さんといい、こんなにも真っ直ぐな瞳を持つ若者を我輩は見たことがない」


 真っ直ぐな瞳? 俺が?


「そうだ。暗殺者を尾行するお前さんのその正義の心を見て、我輩は何かこう、心に惹かれるものを感じたのだ。きっとこの者は将来、立派な勇者になってくれるに違いないと」


 誤解です。あれは──


 アデルさんが俺の言葉を手で制す。

「無理に隠そうとせずとも良い。我輩には見える。お前さんに中で光り輝く正義の心が」


 いや、あの


「いいから聞け」


 ……はい。


「――竜騎軍はこの国の結界を壊そうとしておる」


 結界を!?


「しっ! 声を落とせ」


 俺は声を落として怪訝に尋ねる。

 いったい何の為に?


「竜騎軍は前々から平和すぎるこの国に不満を抱いておった。強すぎる結界があるが故に魔物の侵入もなく、腕を試せる相手がおらずに周囲からは飾りの武力だと罵られ、平和を望む国王を恨んでおったのだ」


 なんでそんなに竜騎軍に詳しいんですか?


「彼らの近い場所に居た、とだけ今は告げておこう。本来なら我輩も竜騎軍には関わってはならぬ身。見つかれば殺されてしまうのだ」


 殺されるって……アデルさん、何したんですか?


「竜騎軍の秘密を知る者だ。このことを兄に知らせる必要がある。お前さん、ちと我輩に協力してくれぬか?」


 協力?


「そうだ。なに、そんなに難しいことではない。お前さんはただ兄にこのことを伝えてくれれば良い」


 ってか、アデルさんのお兄さんなんて会ったことも見たこともないんですが。


「今はまだ話せん。だがすぐに分かる。とにかくお前さんは我輩に協力するのだ」


 ……。なんかよく分からないですけど、分かりました。

 俺はしぶしぶ了承するしかなかった。



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