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あ。お前、あの時の──【36】


「なんだと、このクソガキ!」


 何の乱闘騒ぎだと思えるほど大声で、竜人の男たちが吠え出した。

 同時!

 俺たちの席の近くに十歳ほどの少年が一人、突き飛ばされて床に転がってきた。

 体格の良い三人の竜人の男が指を鳴らしながら俺たちの席のそばへと歩み寄ってくる。

 とんだとばっちりだった。


 十歳ほどの少年はすぐに身を起こして竜人の男たちに言い返す。

「何が竜騎軍だ! お前たちのやったことは最低だ! 勇者を馬鹿にするな!」


「いい度胸じゃねぇか」

 一人の竜人の男が少年の胸倉を掴んで持ち上げる。


 ――って、ティムじゃねぇか!


 はっ!

 ギロリ、と。竜人の男たちの目が一斉に俺へと集中した。

 思わず声に出てしまったことに俺は「しまった」と口を押さえる。

 後悔したがすでに遅し。

 これでは関係者だと認めてしまったようなものだ。


「なんだ? てめぇ。コイツの知り合いか?」

 一人の竜人が俺の胸倉を掴む。

「おら立てよ、ガキ。お前もまとめて始末してやる」


 スッと。

 俺の胸倉を掴む竜人の手をアデルさんが掴む。

「お前たちの相手は我輩がやろう」

 言って、アデルさんは俺の胸倉から竜人の手を引き離した。


 竜人が笑う。

「おっさんが相手してくれるってのか。いいだろう、表に出ろ。軽く運動してやるぜ」


 鼻で笑い返して、アデルさんは竜人を睨む。

「竜騎軍ともあろう者が子供相手に腹を立てるとは、ずいぶんとお前たちの名は地に堕ちたものだな」


「なに?」

「おい、貴様。我らが竜騎軍と知っての暴言か? 覚悟は出来てんだろうな」


「アデル様」

 席を立とうとするミリアをアデルさんが手で制す。

「良い、ミリア。お前の力を借りるほどでもない。ここにいろ」


 ……。

 その後、竜騎軍を名乗る竜人たちとともにアデルさんは外へと出て行ってしまった。


 戦い。

 その言葉に俺の中でクトゥルクの力が込み上げてくる。

 無言で席を立ち、俺はアデルさんの後をついていこうとしたのだが──。


『お前まで行く必要はない』

 頭の中でおっちゃんが俺を呼び止めた。


 けど、おっちゃん。


『無闇にクトゥルクを使うな。アデルという男のことなら大丈夫だ。お前が行っても無駄足なだけだ』


 どうしてわかる?


『直感だ』


 そんなのアテになるかよ。相手は三人だぞ。どんな卑怯な手を使ってくるか──


『だから何だ? お前が行ってクトゥルクでも使うつもりか? 相手は雑魚三人だ。奴らの言葉を聞いただろう? 己の力ではなく竜騎軍という名にすがっている。問題ない』


 けど!


『余計な騒ぎを起こすな。元の世界に帰れなくなってもいいのか?』


 ……わかった。


 俺は仕方なく椅子に腰を下ろした。


「行かないんですか?」


 え?


 ミリアに声をかけられ、俺は問い返す。


「席を立たれたので、てっきり……」


 あーうん。行こうと思ったんだけど、アデルさんなら大丈夫だろうと考え直したんだ。


「……」


 俺は視線を、床に座りこんだままのティムへと落とす。


 ティムがぐっと拳を握り締めていく。

「――許せない、あいつ等!」

 うめくようにそう呟いて、ティムは駆け出した。


 あ、おい!


 店の外へと飛び出して行くティムに、俺は反射的に席を立って後を追いかけた。



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