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名乗ればいいんですか?【35】


『ケイと名乗っておけ』


 いいのか? おっちゃん。


『よし、じゃぁこういう名はどうだ? マクシム・ヴァヴァダクト・エレクトロニクス。どうだ? カッコいいだろう? 今からお前の名はマクシム・ヴァヴァダクト・エレクトロニクスだ』


 ケイと名乗ることにするよ、おっちゃん。


『反抗的だな』


 そんなクソ長い名前を覚えている自信がない。それに……

 俺はそこで言葉を切って落胆のため息を吐いた。


『オイ、「それに」ってなんだ? そこで止めるな。気になるだろ。言えよ最後まで』


 あれから空は夕刻となり、街中のとある一角にある食事亭へとアデルさんに誘われた俺は、彼らと一緒に食事をすることになった。もちろんアデルさんの好意によるおごりで。


『流すな、コラ』


 三人が輪となり向き合うような形のテーブルに座って食事を待ちながら、俺はミリアに自分の名を教える。


「――ケイ? それがあなたの名前ですか」

 ミリアが小首を傾げて俺に尋ねてきた。


 そう。それが俺の名だ。


 ミリアがぽつりと呟く。

「意外と普通の名前ですね」


 おっちゃんが頭の中で笑ってくる。

『ほらな! だから言っただろ。さっきの名は撤回しろ。そして言い直すんだ。マクシム・ヴァヴァダクト・エレクトロニクスと!』


 俺は静かにおっちゃんの声を遮断した。


 ミリアが真面目な顔して俺に尋ねてくる。

「ではケイ。あなたに問います。あなたはどこで生まれ、どこでどのように育って──」


「ミリアよ」

 アデルさんがミリアの言葉を手で制す。

「我輩は思うのだ。出身も育ちも、ケイがどこの何者であろうと関係ないと。我輩はケイを勇者として育てようと決めたのだ。それでよいではないか」

「しかし、アデル様」

「お前の心配はわかる。だがな、人には語れぬ人生というものがある。歩みとは人それぞれなのだ。それが分からぬというのなら、お前は立派な勇者にはなれぬぞ。ミリア」

「……はい、アデル様」

 ミリアはしゅんと顔を俯ける。


 えっと。

 俺は気まずく頬をかいた。


 内心で思う。

 別に語れないほど辛い人生を送ってきたわけではない。ただ、どこの何者だと問われても「異世界人です」としか答えられないし――というか、逆にアデルさん達がどこの何者なのか質問しにくくなってきたなぁ。何者なんだろう、この人たち。

 まぁ勇者を名乗っているほどだから良い人であることに間違いはないんだろうけど。


「ケイよ」


 ――え、あ、はい。


「ミリアは我輩を心配して言っているだけなのだ。悪く思わないでやってくれ」


 はい。全く気にしてないです。


 やがて、頼んでいた食事がテーブルに運ばれてくる。

 飲み慣れてきた気がするマズイ木の実の水を始め、この世界でしか食べられない不思議な食べ物がずらりとテーブルを彩った。


 ……。

 一瞬目を疑いたくなる料理を前にして、俺は言葉を失う。


「さぁ、遠慮せずに食べるが良い」

「いただきます」


 え?


 食べ始めはすぐだった。

 間髪置かずに二人とも食欲旺盛にがっつき始める。

 すごい勢いだ。

 俺も雰囲気に飲まれるようにして遠慮なく食べ物に手を伸ばした。


 無難にまずは鳥の姿焼き。

 一口かじる。


 ……。


 味はまずくはない。まずくはないのだが……。

 できれば原型のわからない【鳥の唐揚げ】にしてもらいたいものだ。

 俺はそっと鳥の姿焼きを皿に戻した。

 次いで、どす黒い色をした豆料理へと手を伸ばす。

 なんだか口に入れるのを遠慮したいような食欲をそそらない色である。

 仕方なしに一口分ほど手で掴んで口に運び。

 あ。

 なんか意外にも、見た目と違って味はなかなかおいしい。

 俺は豆料理を引き寄せてマイペースに食べ始めた。


 ふと後ろから話し声が聞こえてくる。


 俺はちらりとさりげなく後ろの様子に目をやった。

 そこには青いウロコ顔の女性と男性がひそひそと話している。


「本当なの? それ」

「らしいぜ。兄弟王子で確執があったって噂だし、それに王も王妃も、王権や黒騎士のゴタゴタで早死にしちまったらしいからな。この国もこの国で色々あるんだろう」

「噂だと本当は弟であるアデル王がこの国を継ぐはずだったらしいんでしょ?」

「最初はな。だが竜騎軍に暗殺されて死んだとも聞いたが、どこかで生きているとも聞いたな」

「アデル王と言えば、気に入らない民を魔物に喰わせてそれを余興にして楽しんでいたって話よ。とんでもない暴君だわ。そんな人が王様になった日にはこの国が魔物まみれで大変なことになっていたでしょうね」

「兄であるガミル王が継いでくれただけでもまだマシってとこだな」

「竜騎軍が臣下として仕えてくれているようだし、安泰は安泰ね」

「しかし竜騎軍とて過去の功績。強き者だけが生き残るこの世界で、過去の功績だけで侵略軍に勝てるかどうか。戦争ともなれば竜騎軍だけでは──」


 ……戦争、か。

 俺はため息を吐く。

 ゲームの世界とはいえ、聞こえてくるのは戦いの話ばかり。本当に嫌気がさす。やっぱり俺、この世界を好きになれそうもない。


 ……。

 ん?

 俺はふと何かにひっかかった。

 そういや、さっきアデル王と聞こえた気がしたが、目の前にいるアデルさんとは違う人なんだろうか。


 俺はちらりとアデルさんを見る。

 風貌といい汚い食べ方といい、とても王族とは思えない。

 それに世の中、そんな偶然があるわけない。

 王族と同じ名前の人だっているはずだ。

 でも今までの態度といい話し方といい、なんとなくアデルさんが王様のような、そんな気もするんだが。

 いやまさか護衛も武器も無しにこんな街中を堂々と




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