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これで入れよ【26】


 入場口に溢れる長蛇の列に並び、俺とおっちゃんは順番を待っていた。


 けっこう人が多いんだな。


『世界中からわざわざこの祭りを見に集るほどだからな』


 世界中から?


『そうだ』


 ドラゴン騎手って珍しいのか?


『騎手も珍しいといえば珍しいが、要はドラゴンをバトルさせられるだけの広大な土地と環境と国民の許容だな。この国は最もそれが適している。それに──』


 ドラゴンって世界中にいるんじゃないのか?


『居るには居る。だが、ドラゴンってのは元々討伐の対象とされる猛獣であり魔獣だ。中には人間を喰らう危険なドラゴンも存在する。そんなもんが国に入ってくるってだけでも民の怒りを買って暴動が起きるくらいだからな。それをバトル・レースとして開催できるのはこの国だけだ。

 ドラゴンは気分屋で性格も荒いし、一度暴れられたら手がつけられない。まぁ、ある程度卵から人工飼育していけば手懐けるようにはなるらしいが……。ただ、一頭育てるだけでもエサ代やら世話代やら被害金やら何やらで大貴族が破綻するほども莫大な金が必要になってくる』


 そんなに大変なのか?


『軍騎にしても五頭見るのがせいぜいだ。今ではドラゴン騎士階級を所有する貴族が貴重な存在になってきているが』


 へぇ……。


『だからこそ軍騎でドラゴンを使う時は指揮官エリートが乗る。つまり、それが勇者だ』


 勇者って金持ちがなるものなのか?


『だいたいそうだが、そうとも限らん』


 ふーん……。


『どうした、急に。興味がなくなったか?』


 俺、戦争の話は嫌いだから。ゲームでやる分にはカッコイイけどな。


 微笑して。おっちゃんが俺の頭をフードの上からくしゃりと撫でた。

『そうだな』


 なぁおっちゃん。


『ん? なんだ?』


 スタートには間に合うのか? これ、相当列が長いんだけど。入るまでに陽が暮れるんじゃないのか?


 おっちゃんがぐいっと俺の頭を前に押す。

『よく見ろ。まだ誰も入れていないだろ』


 入るまでに時間掛かり過ぎだろ。


『王様が見に来る祭りだからな。場内にはドラゴンもいるし、警備の体制がまだ上手くいってないんだろう』


 王様が見に来るのか?


『当然だろう。誰が勇者に職与えると思ってんだ?』


 王様だろ?


『だろ? って、お前あっさりと王様って言葉を口にするが、王様がどんなものかわかっているのか?』


 え?


 問われ、俺は目を瞬かせて首を傾げた。お手上げする。


 さぁ……。俺、この世界の王様ってまだ見たことないし。それに、貴族とか王様とか言われてもこう、中世とか昔の人ってイメージがして、いまいちピンとこないんだよなぁ。


『そうか。ちなみにどんなイメージを抱いている?』


 ゲームの中の王様っぽいイメージしか俺には思い浮かばない。


『豪奢な室内に赤いマントと金の冠、白ひげで温厚な小太りのお爺さんってか?』


 あーそうそう、そんな感じ。


『ふーん』


 いや、「ふーん」って……どっちなんだよ。イメージのまんまなのか? それとも


『その夢、大事にしろよ』


 夢じゃねぇよ。なんで大事にしなければならないんだ? 意味わかんねぇよ。


『――お? 見ろ。前が歩き出したぞ』


 急に話を逸らすなよ。


 愚痴りながらも俺は列の先頭へと目を向けた。

 一度進み出した人の波は意外にも早く、入場口へと吸い込まれるようにしてぞくぞくと入っていく。

 俺もおっちゃんもその波についていくようにして歩き出した。



 しばらく進めば入場口が見えてきて。

 入場口ではチケットを回収する係員の人が──


 って、回収されるのかよ! このチケット!


『ペナント買え、ペナント』


 もちろんそれ、おっちゃんが買ってくれるんだよな?

 俺は空っぽのポケットに手を入れて言った。


『いや、買わない』


 ……。

 俺は静かに拳を固める。


『そう怒るな。とりあえずチケットは入場口で大人しく係員に手渡すんだ。地面に寝転がって駄々こねるんじゃないぞ。ペナントはいつか買ってやるからな。おっちゃんとの約束だ』


 幼稚園児か、俺は。もういい。自分で金集めてどうにか買う。


『そうか。がんばれよ』


 ……。

 俺は無言でおっちゃんの足に蹴りを入れた。

 すぐにおっちゃんが蹴り返してくる。

 俺はまた蹴り返した。


 なにすんだよ。


『お前が先に仕掛けたんだろうが』


 うるせぇ。全部おっちゃんが悪いんだからな。


『俺のせいにするな』


 あ、クソ。汚ねぇぞ――痛ッ! ってか、仕返ししてくんな。やり返してくるとかマジありえねー!


『へっへーんだ。当たってません、残念でした』


 マジ腹立つ!


 しばらくおっちゃんと蹴り合っている間にどんどんと順番を追い越されていき、気付けば俺たちの周囲から人がいなくなっていた。

 俺たちはすぐに蹴り合いを止め、人の波を追いかけるようにして入場口へと急いで走っていった。



 ※


 入場口で俺とおっちゃんは順番を待っていた。

 順番が来て、近くにいた係員がチケットを尋ねてくる。

 俺もおっちゃんも一緒になって係員にチケットを手渡した。


 ――そんな時だった。


「このガキ! 偽造チケットか!」

「つまみ出せ!」


 十歳ほどの庶民の格好した少年が係員に突き飛ばされて路上に倒れる。

 倒れた少年はすぐに起き上がって、係員にすがりつく。


「おいら、どうしてもこれを見たくて遠くウルセイラ村から──」

「そんなに見たければ正規のチケットで入るんだな」

「お願いです! おいら、どうしても」

「帰れ。これ以上騒ぐようなら警邏隊を呼ぶぞ」

「お願いです! どうしても会いたい人がいるんです! あの人に会ってあの時助けてもらったお礼を言いたいんです! 一目だけでいいですから勇者に会わせてください!」

「ダメだ、帰れ。例外は認められない。正規のチケットを買うんだ」

「どうかお願いです! 一目だけでも会わせてください!」


 ……。

 一息置いて、俺は係員にさきほど手渡した俺の分のチケットを返してもらった。

 その足で、少年のところへと歩いていき、チケットを差し出す。


 これで入れよ。


「え?」

 少年は驚いた目で俺を見てきた。


「これを……おいらにくださるのですか?」


 俺は微笑して少年の手にチケットを握らせる。

 会いたい人がいるんだろ? だったらこれで会いに行けよ。


 内心で付け加える。

 おっちゃんの分のチケットだけど。


『オイ』

 おっちゃんが俺の頭の中で言い返してくる。

『なんで俺のチケットなんだ?』


 俺は「やれやれ」とお手上げして首を横に振った。

 内心で告げる。

 大人げないな、おっちゃん。こういう時は子供優先で行こうや。


『そういう問題じゃないだろ。俺無しに一人で入るとか何考えてんだ?』


 ここに来るまでずっと話を聞かされてきたからおっちゃんの言いたい事はだいたいわかったよ。要するに俺が、クトゥルクを使わなければいい話だろう?


『端折らず全く筋違いの要約をしてきたことに俺は驚きだ』


 大丈夫。黒騎士には絶対気をつけるから。


『フラグを立てるな、フラグを。捕まる未来しか見えてねぇぞ。そもそも俺と離れてトラブルもなく無事で居たことがあったか?』


 ……えっと。

 俺は懸命に記憶の引き出しを開けまくった。


『素直に認めろ』


 いや、そんなはずはない。

 首を横に振って俺は記憶の中を探し続ける。


 ふいに横から。


「お前たちはこんなに小さな子供からも金を取るのか?」


 どこからか野太い声が聞こえてきて、俺もおっちゃんもその方向へと注目する。

 人混みを掻き分けて係員の前に進み出たのは、山賊の頭領のような風貌をした一人の男性だった。



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