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勇者祭り【24】


 すっげぇぇぇぇぇーッ!


 それはまるで大空を舞う航空ショーであるかのように。

 疾風を連れて、街の屋根スレスレを滑空していく大型翼竜ドラゴンを見て、俺は興奮に拳を握りしめて叫んだ。


 本物だ! 本物のドラゴンだ!


 恐竜に翼が生えた感じの、まさにゲームに出てくるイメージそのままの勇ましいドラゴンの姿だった。

 その迫力は模型でも3Dでも生み出せないような、まさに実感のこもるリアルさ。

 体長二十メートルほどはあろうか。

 太陽を覆い隠さんばかりの大きな影と、肌を叩くような風を連れて。

 クジラのような大きさをしたそのドラゴンは、低空飛行で俺たちの頭上を滑空した後、再び大空へと羽ばたいていく。

 その姿を目で追うようにして、俺はフードを取って大空を見上げた。

 澄み切った青天に強い日差し。

 あまりの眩しさに思わず手を翳して影を作る。

 手の隙間から見える竜の影が、俺の記憶に強く残った。


 あーぁ。父さんの3Dスマートカメラスマカメ持ってきたかったなぁ。


 俺の隣でおっちゃんが馬鹿にしたように鼻で笑う。

『そりゃ残念だったな』


 残念ってことは、持ち込めるのか? 向こうの世界の物がこっちの世界に。


『さてどうだろうな。試したことは無いが』


 よし。今度試そう。


『プッ』


 オイ、おっちゃん。今笑ったか?


『気のせいだ。そんなことより前を見ろ。もう一頭来るぞ』


 すると前方から一頭のドラゴンが疾風を連れて俺の頭上を過ぎ去っていった。

 興奮冷めやらぬ声で俺はそれを目で追い、また叫ぶ。


 おおおおッ! ブルー・ドラゴンじゃねぇーか!


 青だけじゃない。何十頭とカラフルな色をしたドラゴンが次々と俺の頭上を飛び去っていく。

 風で乱れた頭髪をそのままに、俺の目はキラキラと輝かせた。

 暑さで浮かぶ額の汗さえも今では心地よい。

 興奮を抑えきれずに俺はおっちゃんの胸倉を掴んで空へと指を向け、叫ぶ。


 おっちゃん、人だ! ドラゴンに人が乗っている!


 低いテンションでおっちゃんが頷く。

『あぁそうだな』


 なぁおっちゃん! 俺、あれに乗りたい!


『ガキか、お前は』


 ガキでもなんでもいい! 俺、絶対あれに乗りたい! 乗るまで向こうの世界に帰りたくない!


『帰りたくないを今ここで言うか?』


 言う! 俺はあれに乗りたいんだ!


『お前には無理だ』


 なんでだよ!


 おっちゃんが頬を引きつらせてドン引く。

『なんでって……。お前は何をそんなに興奮しているんだ? あんなモンただの雑魚ドラゴンだろうが。お前の使い魔の方がよっぽど──』


 違う。あれ、ただの犬。


『犬じゃない白狼竜ドラゴンだ』


 俺は認めない。あれは絶対、犬の分類だ。


『お前は最強と雑魚の区別もつかんのか? 何をそこまで興奮する必要がある? いいか、この世界で最強のドラゴンといったら白狼竜だ。白狼竜はこの世で最も強いドラゴンの象徴的存在なんだぞ』


 俺のイメージする最強のドラゴンはあんな犬っコロなんかじゃない。もっとこう、でっかくて、恐竜みたいにゴツゴツしたティラノサウルスみたいな姿で、火をガーって吐いて、ダンジョンに住んでいて、宝もいっぱい隠し持っていて


『あんなトカゲみたいな雑魚ドラゴンのどこがいい?』


 見た目がカッコイイ。


『それだけか?』


 それだけだ。


『実戦向きじゃない』


 実戦なんてどうでもいい。ファンタジーゲームといったら恐竜型のドラゴンが定番だ。


 おっちゃんが苦い顔で笑う。

『お前、あれだな。性能よりも見た目重視な──』


 なぁおっちゃん。俺、あれに乗りたい。


『無理だっつってんだろ。諦めろ』


 一生のお願いだ。頼むよ、おっちゃん。ドラゴンの乗り方教えてくれ。


『駄目だ』


 あれに乗るのが俺の夢なんだよ。


『夢は大切に持つものだ』


 頼むよ、おっちゃん。


『言っておくがドラゴンは素人が遊びで乗るものじゃない』


 じゃぁ何なんだよ。


『ドラゴンに乗るというのはとても危険で命がけだ。お前の世界で例えるなら、安全ベルトの無い絶叫遊具ジェットコースターに乗るようなものだ。ドラゴン騎手ライダーにとって特に危険なのは降下と上昇。その速度は時速三百キロを超えることもある。ドラゴンを上手く操れなければ即死亡。玄人ですら落ちて死亡した例も多々聞く。落竜すれば頭から地面に叩きつけられて生存率はゼロだ。長年相当な訓練を積んで乗らないと──』


 おっちゃんが最後とどめの一言で刺す。

『……お前、落ちて死ぬぞ』


 打ち砕くなよ! 今ので木っ端微塵に粉砕したよ、俺の大事な夢!


『それが現実だ』


 最低だよ、おっちゃん! 最低な大人だ!


 フッと俺の言葉を鼻で笑ってから、おっちゃんは言葉を続ける。

『まぁそれを覚悟で乗るのが勇者だからな。だからこそ、この祭りは盛り上がれる』


 色んな意味でレベル高ぇーだろ、勇者。


『そんなに高くはないさ。参加する勇者は今回の祭りだけでも何十人といる。何より重要視されるのは最も優れた勇者としての才能だ』


 勇者としての……才能?

 俺は首を傾げた。


 おっちゃんが頷く。

『そうだ。勇者祭りとは言わば勇者の選抜試験のようなものだ。レースで問われるのは勇者としての知力、戦略、戦闘レベル、そしてそれに見合うだけの扇動力。優勝する者はどれが欠けてもいけない。

 優秀な勇者には王様から声をかけてもらえる。そこからが勇者としての職務になるわけだ。勇者になればこの先、村や街を襲う新米黒騎士どもや獰猛な魔物どもを相手に軍を率いて戦っていかなければならない。自軍を統率する能力に加え、最低限の被害、そしてより多く命を守り、どんな死線をも大軍を進めて戦っていけるような勢いが無ければ当然無理な職業だ。その為には最低でも覇気のあるドラゴンを駆使し、兵士を指揮できるほどの実力がなければ話にならん』


 どこのハイパー勇者だよ。職業の域を超えてるだろ、それ。仲間が軍隊ってなんだよ。


『そのぐらいの数でやらないとすぐに叩き潰される』


 叩き潰される?


『そうだ。黒騎士も強いが、特に厄介なのが奴らの引き連れてくる魔物の数だ。その数は相当な大軍だ。魔物は一度群れると土地を真っ黒に埋め尽くすほどの莫大な数で襲ってくる。どんなに精鋭な少数隊を組んだって大規模に攻められたら打つ手がなくなる』


 まるで戦争みたいだな。


『みたいじゃなく戦争だ。勇者が出陣した時点でその戦いは戦争になる』

 おっちゃんがさりげなく俺の頭にフードを被せてきた。

『お前にとっての勇者とはなんだ?』


 被されたフードをちょいと上げて、俺はおっちゃんに問い返す。

 え?


『この世界の勇者がどんなものか、それをお前は見定める必要がある』


 俺が勇者を見定める?


『戦争が嫌いなんだろう? だったら勇者がどんなものか、どういう時にどう対処し、どう動けば戦争は防げるのか。そしてどうすればクトゥルクを使わずに済むのか。それを目で見て体で覚えろ』


 だから俺をこの祭りに呼んだのか?


『そういうことだ』


 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 この祭りって……殺し合いじゃないよな?


『お前はライバルを殺しまくって最終的に生き残った奴を勇者と呼びたいか?』


 呼びたくない。


『それが普通だ』


 普通……?


『環境は違えど、この世界も向こうの世界も共通して考えることはみんな同じだ。誰だって戦争は嫌いで戦いたくはない。だが戦わなければならないんだ』


 俺は安堵するように胸を撫で下ろした。

 そうだよな。それが普通なんだよな。


 無言で。

 おっちゃんが無骨な手で俺の頭をくしゃりとした。

 そして空を見上げる。


『どうやらドラゴンが引き上げたようだな。下見所パドックは終わりか。

 ──と、なると。そろそろ闘技場に行ってみるか? 入場を受け付けている頃だろう』


 うん、行く。


『よし、じゃぁ早速レッツらゴーだ。行くぞ、坊主』

 言って。おっちゃんが俺の背を軽く押した。



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