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おっちゃんは授業中だろうと話しかけてくる【17】


 二時間目の授業を堂々と遅刻してきた俺は、静かなる教室を後ろから入室した。


 授業をしていた先生の声が一瞬止まり、クラスのみんなからの注目が集う。

 事前に母さんが遅刻の連絡を入れていたこともあり、視線はすぐに散って何事なく授業は再開された。


 何を言うこともなく俺は、フラフラする体を引き摺るようにして自分の席へと座った。

 そのまま呆然と虚空を見つめて鈍い思考を回転させる。

 ……。

 頭が上手く働かない。

 次なる行動が思いつかない。

 体もだるいし、節々が痛いし、それに頭の中がセメントで固められたかのように重い。熱も全くといっていいほど下がった気がしないし、むしろだんだんと悪化していっているようにも思える。

 こんなことなら無理に出てこなければ良かった。今更ながら家を出てきてしまったことを後悔する。

 素直に家で休んでおけば良かったのかもしれない。

 

 先生が教科書から目を離して声を投げる。

「次の問題を──坂下」

「はい」

「解いてみろ」


 坂下がガタリと席を立つ音で、俺はようやく思い出したかのようにのろのろと鞄から筆記用具やノートを取り出し、机上に置いた。

 後ろの席に居たダチの福田が、俺の背中をシャーペンで突いてヒソヒソと話しかけてくる。


「なぁ。なんでお前、今日遅刻なんだ? エロ本でも見て夜更かししたのか?」


 ……。


「おーい。聞いてるか?」


 ……あぁ。聞こえている。


「お前、マジ体調悪くねぇか? 大丈夫か?」


 回らない思考で俺はぽつりと答える。

 風邪……引いた。


「ぶッ! お前馬鹿だろ。風邪なら休めよ。明らかに体調悪そうじゃねぇか」


 微熱だったから来た。


「微熱レベルじゃねぇだろ、それ。保健室行けよ。顔色悪いって」


 大丈夫。風邪薬飲んできたから。


「風邪薬って……いや、まぁお前が大丈夫なら別にいいけど。

 ――なぁ、朝倉のこと何か聞いてないか?」


 ん? なんで?


「アイツ今日学校休みらしいぜ」


 言われて俺は、ようやく隣の無人の席に目を向けた。


 ……ほんとだ。珍しいこともあるもんだな。


「だろ?」


 何かあったのか?


「今日は休むって学校に連絡があったらしいんだ。けど上田が言うには──」


「コラ、そこ! さっきからうるさいぞ! 私語は休み時間にやれ」

 先生に叱られ。


「あとでな」


 あぁ。


 気だるい声で返して、俺は福田との会話を切った。


 ……。


 先生が俺の名を呼んでくる。

 それに返事をして。


 先生が言葉を続けてくる。

「お前まだ体調が悪いんじゃないのか? 具合悪いんだったら保健室に──」

 

 大丈夫です。


 みんなの視線が集ったこともあり、恥ずかしかった俺は無理に平然を装い、素っ気無い返事をした。


 本音を言えば、全然大丈夫ではなかった。

 熱のせいか頭がボぅーっとして回らないし、起きているのもつらい。

 今すぐにでも机上にうつ伏せたい気分をなんとか堪える。

 でも正直、もう限界かもしれない。

 この授業が終わったら保健室に行こう。そして家に帰ろう。

 俺は心の底からそう決心した。


 そんな時だった。

 唐突に頭の中でおっちゃんの声が聞こえてくる。

 なんだかすごく心配に焦った声だった。


『――しろ! 聞こえるか! 聞こえていたら返事しろ!』


 俺は内心で静かに答えを返す。

 ……聞こえている。


『無事か!?』


 無事っつーか……まぁ無事。


『お前今どこにいる? まさか黒騎士に拉致られたんじゃないだろうな!』


 違う。今、学校。


『学校? ってことはそっちの世界に戻ったんだな?』


 なんかよくわからないけど勝手にログアウトできた。


『勝手にログアウトだと? どうやって──いや、待て。まさかお前今、ものすごく体調悪いんじゃないのか?』


 ……すごく悪い。最悪なくらいに。


『最悪ってどんな感じだ? 頭が重いとか、吐き気がするとか、耳鳴りがするとか、体に違和感があるとか』


 風邪、引いた。


『喉は? 咳は? 熱だけか?』


 熱だけ……かな。起きているのが辛い。


『他には? 変な超常現象とか起きなかったか?』


 ……。あ、そういや朝に一回だけあった。


『やっぱりそういうことか。手遅れになる前に急いでこっちの世界に戻って来い。それは風邪じゃない。そっちの世界でお前の体がクトゥルクの力を拒絶しているんだ。そのままだとクトゥルクがそっちの世界で暴走するぞ』


 もうやだよ、俺。あの世界ってクーラー無いし水マズイし、クソ暑いだけだし。ここの生活の方が幸せだってことに気付いたんだ。


『わがまま言っている場合か! とにかく今からこっちの世界に戻す』


 今、授業中なんだけど。


『知るか!』


「先生!」

 勇気を出して一人の女子が手を挙げる。

 二つ隣の席に座る女子だった。

 授業が中断し、みんながその女子に注目する。

 俺も朦朧もうろうとした意識の中で、おぼろげに霞む視界で彼女を見つめる。


「先生、あの……やっぱり保健室に連れて行ってあげた方がいいと思います」


 彼女が俺に指を向けてきたのを最後に。

 限界を迎えた俺は事切れるようにして机上に崩れ、そのまま意識を失った。



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