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風邪引いたかもしんない【16】


 ――あれから。

 俺はいつの間にか、勉強机の上で眠り込んでいたようだ。

 目を覚ました時には陽の光が差し込んでいて、朝であることが窓の様子からうかがえる。

 頭がやけにだる重い。

 朝を迎えたにも関わらず、すっきりとした目覚めにはならなかった。

 机にうつ伏せたまま俺は力なくうめく。


 すげー寒い。頭が重い。節々が痛い。体が起こせない。


 なんだろう。なんというか、寝ている間に文鎮でも頭の中に詰め込まれたと思えるほども、頭を起こすのが辛すぎた。

 体に力が入らない。

 気のせいか、胸やけして少し気分が悪いようにも思う。


 このクソ寒い中を机でうっかり寝とか俺は馬鹿だ。絶対これ、風邪引いたかもしんない。母さんになんて言おう……。


 夜遅くまで宿題をしていました、なんて言い訳は通用しない。なぜなら宿題は空白のままだからだ。

 では何をしていたのか? と問われれば、何も言い返すことはできない。


 はは。どうしよう……。

 変な笑いがこみ上げてきた。


 そんなことはどうだっていい。どちらにせよ、今日を休むわけにはいかない。荒俣が授業で大事なところをやると言っていたし、母さんも夕べ友達と出掛けるとか言っていた。とにかく今日は学校に行かなければ。


 俺は無理やり机から頭を起こした。

 しかしすぐにクラクラとめまいのようなものを感じて、また力なく机にうつ伏せる。

 あっちの世界は暑かったが、こっちの世界だともうすぐ冬だ。

 そんな環境の中を俺は、夏感覚で部屋着一枚のまま──しかも机の上で眠り込んでしまったのだ。


 薬飲んで早めに治るといいな。


 もう一度気合いを入れ直して、俺は再び机から頭を起こした。

 円描くように回る視界を何とか自制し、持ちこたえる。

 痛む腰に手を当てながら熱を帯びた体でフラフラと、限界の体に更にムチを打つようにして俺は椅子から立ち上がり、壁つたいに部屋を出て一階へと下りていった。



 ※



 リビングのソファーで横になりながら。

 音を鳴らす体温計を手に取り、俺はその数値をぼやける頭でジッと見ていた。

 ……。

 見ているだけで数値が頭に入ってこない。

 母さんが傍に来て、俺の手から体温計を取った。


「風邪の引き始めね。微熱は微熱だけど」

 言って、母さんが心配そうな顔をして俺の額に片手を当てる。

「触った感じだと高熱っぽい感じではあるのよね。顔色も良くないし。体温計が壊れているのかしら」


 微熱なら学校行く。


「今日は休みなさい。そんな体調で無理して学校に行って、熱が上がって倒れでもしたら迎えに行くはめになるでしょ」


 平気。微熱って聞いたら元気になれた。


「空元気っていうのよ、そういうの。今日はもう休みなさい。先生には電話入れておくから」


 いや、行く。


 俺は寝ていたソファーから無理やり体を起こした。

 胸中で付け加える。

 部屋で寝ていたら絶対におっちゃんからゲームの世界に連れて行かれそうな予感がするし。

 フラフラする体をなんとか起こしてソファーに座り、ため息を一つ。

 ……。

 体だるい。頭重い。

 しかも頭の回転が鈍すぎて次の行動がすぐに思い付かない。


「体きついんでしょ? 無理して学校に行って倒れでもしたら先生や友達に迷惑かけるだけよ」


 あ、そうだ。制服に着替えないと。


 スローモーションで再生されているかのごとくゆっくりとした動作で俺はソファーから立ち上がった。

 途端にフラリと立ちくらみを起こす。

 母さんが体を支えてくれてソファーへと座らせた。


 ……。


 母さんがため息を吐く。そして心配そうな顔で俺を見つめて言う。

「制服はもういいから、ちょっとここで寝てなさい。風邪薬持ってくるから。喉は痛くない? 咳は?」


 痛くないし、咳もない。熱だけ。


「ご飯は?」


 いらない。学校に行く。


「ダメ。今日は二階で寝てなさい。こんな状態で学校に行けば絶対倒れるに決まっているんだから」


 ――ふいに。


 テレビの電源が入り、朝の番組が流れ出す。

 母さんが驚いて足元を探した。


「リモコン踏んだの?」


 いや。

 俺は首を横に振り、座っていたソファーに視線を落とした。


 ふいに、母さんがリモコンを見つける。

「あら。リモコン、こんなところにあるじゃな──」

 言って、ここから離れた食卓の上にあるリモコンを何気に取りに行こうとしたところで、俺も母さんも異常に気付いた。

 誰もそのリモコンに触れていなかったのである。

 母さんは気味悪そうに腕を軽くさすった後、食卓の上にあるリモコンを手に取った。

 テレビの電源を消す。

「不良品だったかしら。そろそろ新しいテレビを買い換えないといけない頃なのかもね」

 明るくそう呟く母さんの声に、どこか怯えの色が混じっているように聞こえたのは気のせいだろうか。


 すると突然、電話の音が鳴り響いた。


 俺も母さんもその音にビクッと体を震わせる。

 しばらくして。

 それが電話の音であることを認識した後、母さんも俺も胸を撫で下ろした。

 母さんが電話を取りにリビングから出て行く。


「――あら、おはようございます。えぇ」


 電話に出た母さんの声の調子で、それが近所のいつもの人であるとわかり。


 ……。

 今日も電話が長そうだなぁと判断した俺は、無言でソファーから立ち上がった。

 勝手に薬箱から風邪薬を取り出し、それを飲んで。

 二階に行って自室に入り、黙々と制服に着替えてそのまま何事なく家を出た。



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