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SR:B 2.5 【前編】 ―バトル・ドラゴンズ─  作者: 高瀬 悠
【第二章 第三部 序章】 ◆
14/68

運命のクロス・ロード【14】


 フィーリアが視線を向けた時には、すでにカウンターは無人になっていた。

 さきほどまで居たはずの男の姿はそこにはない。


「ログアウト……。どうやら異世界人だったようね」


 呟いて。

 フィーリアは静かに席を立つ。

 カウンターに居た毛むくじゃらの生き物が慌てて肩に飛び乗ってくる。

 毛むくじゃらの生き物を肩に連れ、フィーリアは無言でその場をあとにした。



 ※



 扉を開いてフィーリアは外へと出た。

 外で待つ二人の従者の姿。

 その二人の従者がフィーリアのところへ歩み寄ってくる。

 一人は細身に黒装束。

 もう一人は強靭な体躯に黒の甲冑を着込んだ壮年剣士。


 フィーリアは尋ねる。

「【運命の子】の行方は聞き出せたの?」


 壮年剣士が答える。

「リディアの王都──【オリロアン】に向かったそうだ」


「そう。先手、打たれてしまったわね。でもあの噂はアテにならない」


「だが確かめる必要はある。あの噂が嘘であれ本当であれ、【運命の子】と鬼神が接触すれば白騎士の戦力は一気に盛り返す」


 フィーリアは薄く口端を引いて笑みを浮かべる。

「鬼神が味方になれば、の話でしょう? 記憶を失った鬼神が再び彼らの味方になるとは限らない」


「鬼神の傍には奴がいる。奴が鬼神の守護者である限り、何らかの形で鬼神を白騎士の味方につけようとするはずだ。その前に我々の手元に鬼神を置かなければ、あとで取り返しのつかない事態になる」


「それでも星の巡りは変えられない。変わらないようにするのが私の使命。奴とていつまでも鬼神の傍に居られはしない。


 ──月と太陽が重なりし運命の日に【大天使の審判】は訪れ、鬼神は封じらし【天魔界ヴァルハラの扉】を開く──」


 フィーリアは覆った片目に手を当て、言葉を続ける。


「必ずその予言通りにしてみせるわ。たとえこの身が妖眼アシャの呪いで朽ち果てようとも」


「全ては巫女シヴィラの導きのままに、か」


「……」

 しばしの沈黙を置き。フィーリアは覆った目から手を退けると、正面へと顔を向けた。壮年剣士に問いかける。

「あの竜人はどうしたの?」


陽炎かげろうが裏で始末した」

 と。壮年剣士は黒装束を顎先で示す。


「……」

 黒装束が無言で頷く。


「そう」

 呟いて、フィーリアは一歩踏み出す。

「なら先を急ぎましょう」


 壮年剣士が怪訝に尋ねる。

「家の中にもう一人居るようだったが?」


 フィーリアは足を止めた。

そしてぽつりと答える。


「異世界人が一人。でも消えたわ」

「ログアウトか」

「えぇ」

「ではセガールに命じてその異世界人を始末させよう。その異世界人のコードネームは?」

「……」

「フィーリア?」


 そっと、フィーリアは微笑した。


「名前、聞いておくべきだったかしら?」

「聞いていないのか?」

「たかが子ネズミ一匹。あの場で殺すほどのことでもないと思ったの。それに──」


 そこで言葉を止め、フィーリアは肩にいる毛むくじゃらの生き物に目をやった。

 毛むくじゃらの生き物が楽しそうに小躍りする。

 それを見て、フィーリアはやんわりと微笑んだ。


「なぜかしら。この子がすごく喜んでいるの」

「フィーリア……」


 ふいに。


 黒装束の男が何かの気配を察して、無言で手投剣に手をかける。

 壮年剣士も気付いて柄に手をかけた。


 それは唐突に。

 風のようにして姿を現した一人の竜人騎士が、彼らの前で片膝を落として頭を垂れた。

「ようこそフィーリア黒王、我が国へ。この国に所属する黒騎士──竜騎軍と申します」


 フィーリアが素っ気無い声で言う。

「竜騎軍の指揮階級が私に何用かしら?」


「この国の結界は時機壊れましょう。その時に西にいる魔物の群れを呼び寄せたいのです。黒王の力をお借りできぬかと」


「……」

 フィーリアは肩にいる毛むくじゃらの生き物に目配せした。

 毛むくじゃらの生き物がごそごそと体毛の中から何かを取り出す。

 それは細く小さな角笛のペンダントだった。

 毛むくじゃらの生き物が竜人騎士に向け、それを投げ渡す。


 受け取って。

 竜人騎士は黙して一礼した。

 立ち上がり、背を向けてその場を去ろうとする。


 その背にフィーリアが尋ねた。

「何を考えている? 竜騎軍」


 竜人騎士は背を向けたままで答える。

「この国を我が物としたい。それだけです」



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