超能力はある日突然やってくる【1】
それは清々しい朝の目覚めだった。
冬の訪れが近づいているせいか、少し肌寒い。
無意識に包まった毛布。
ほんのり温かい。
この温もりから出たくない。今ならまだ二度寝が望めそうだ。
このまま寝たら幸せだろうな。もう少し寝ていよう。
あーそういや今何時なんだっけ?
外も明るそうだし、もう朝なんだろうな。
ん……あれ? 今日って日曜だったか?
たしか昨日が日曜で朝からテレビ見て──
だったら今日は……月曜日ではないのか?
俺はちらりと机上の時計に目をやった。
時計の針はしっかりと七時五十分を確実に刻んでいた。
なッ、七時五十分だと!?
一気に眠りが吹っ飛んだ俺はベッドから飛び起きた。
ちょちょ、ちょっと待て。そうだよ、今日は月曜じゃねぇか。落ち着け、俺。なんで目覚ましが鳴らな──って、昨夜はおっちゃんがしゃべりかけてきてそのまま寝たんだったぁぁぁぁッ!
頭を抱えて大絶叫した後、俺は慌ててベッドから飛び出す。
急いで制服に着替え、シャツも頭髪も中途半端に大慌てで鞄を片手に部屋を飛び出し、慌しく階段を下りていく。
足音を聞いて、台所から母さんが爽やかに朝の挨拶してくる。
「あら、おはよう」
なんで起こしてくれなかったんだよ!
母さんは気楽に笑って言ってくる。俺の口調を真似して、
「『俺、もう母さんとは話さねぇから』って言ってきた反抗息子はどこの誰だったかしら?」
朝は別だよ! 今から走っても完全に遅刻じゃねぇか!
「ほら、そこにパン置いといたから。パンだけでも食べないとお腹すくわよ」
急いで俺は食卓の上にあったパンを口にくわえる。
「はい、お弁当」
サンキュー。
「走るのはいいけど、車に気をつけて行きなさいよ」
わかってる!
それだけを言い残して、俺はパンをくわえたまま家を飛び出した。
※
走っている俺の後ろを、一匹の猫がとてとてとついてくる。
ずっと、である。
無視していればどこかに行くだろうと思っていたのに、ついには交通量の多い表通りまでついてきた。
原因はわかっている。
俺がパンをくわえていたからだ。
ちょっとそこらの空き地で目が合っただけなのに。
猫は飼い猫なのか、鈴の首輪をつけていた。
やがて走る速度を少しずつ落とし。
根負けした俺はとうとう足を止めた。
猫が甘えるように俺の足にまとわりついてくる。
俺はため息を吐くと、仕方なく口にしていたパンを手に取った。
少しだけパンをちぎってその場に腰を下ろす。
ほら、食えよ。
猫は嬉しそうに──俺にはそう見えた──与えたパンを口にくわえる。
そんな時だった。
ただでさえ狭い路地に俺が座って道をふさいでいたせいか、背後から走ってきた自転車が急ブレーキをかけてきた。
錆びついた金きり音が鳴り響く。
自転車は寸前で止まってくれたが、そばにいた猫が自転車の音に驚いて車道へと飛び出していってしまった。
俺は慌てて立ち上がる。
ちょ、待て! そっちは車道──
飛び出した猫のことしか頭になかった俺は、反射的に追いかけて車道に飛び出してしまった。
けたたましいクラクションと急ブレーキの音でハッとする。
猫はその音に驚いてすぐにターンして歩道へと引き返す。
あ、やべぇ……。
迫り来る車。
俺の思考はやけに冷静で。
――次の瞬間、気付いた時には。
俺はなぜか校門の前に立っていた。
背後から何事なく友達が声をかけてくる。
「よぉ。なんだよお前、珍しいな。七時五十分に登校なんてやけに早いじゃん。──って、あれ? おーい」
……。
呼びかけられるも俺の思考は完全に止まったまま、話しかけられていることさえ気付かずに呆然とその場に立ちすくんでいた。




