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プロローグ

 カラオケで、友だちが歌う。

 今どきネットで流行っているらしいその曲は、多重人格の少女が同じ男に恋をして、男にたった一人として愛されるために他の人格を受け入れ統合するというストーリーの歌詞だ。曲の中で「多数の人格」として扱われているそれは結局病気でもなんでもなく、少女の妄想のようにしか思えない。むしろそれが多重人格だとして、恋愛沙汰程度で解離性同一性障害が起こるなんてどんなひどい扱いをされたのか、物語上のこととはいえそこを考えると少女に同情してしまいそうだ。どちらにしろ、歌詞の中の彼女は見事障害を克服し、男と結ばれているし、たとえ克服できなかったとしても、究極構わない。彼女達が愛したのは同じ男なのだから。

 「私の場合はそんなに簡単に解決しないのよ」

 「えぇ?何か言ったぁ?」

 呟いた声は、カラオケボックスの騒音にかき消された。


 私の中の住人が、違う男に恋をした。

 私たちははっきりと違う人間なのだから、つまるところ私たちにはどちらかの「消滅」なくては解決はあり得ない。けれどその解決法はいまだわからない。



 「結局、私たちはどうしたらいいのか。問題を先送りにしているだけだね」

 「まあ、生きていくことを止めて考えるわけにはいかないから」

 「寝ているうちに考えられたらいいんだけど」だって私たち、寝ている時間って言ったら十時間以上になる、そんなに寝ている人なんていないよ、と唯は言う。

 「どうしても起きられないものは仕方ないんじゃない?きっと唯や私が日中動いて考えている間、脳は一人分しか動かせないんだよ」

 「じゃあ()、私たちが二人(、、)で、違うことを考えているのはなぜ?」

 「…体を、動かしていないから?その分のエネルギーで私たち二人分の人格を動かしているとか」

 唯はばかにしたように私を見た。たいした知能の差はないのに——大体脳みそは同じものなのに——唯は自分が私より賢いと思っている節がある。

 「まあいいや。また考えといてよ」

 「うん。じゃあ、明日は私の番ね」

 「お休み」

 「お休み」


 そのあと一瞬だけ、私は夢を見る。フィルムを切り貼りしたような、あるいはビデオを早回ししたようなめちゃくちゃな映像が脳裏をよぎって、気がつけば布団の中にいる自分を認識している。

 携帯電話のアラームが鳴っていた。


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