九話
少し長めです。
8/17誤字訂正行いました
ドームのある町から五駅離れた町で、康治と男はラーメン屋に入っていた。
「らっしゃい! うちは北海道で修行した本格『塩バターコーンラーメン』がおすすめだよ!」
「博多とんこつ一つ。」
「醤油ラーメンください。」
「…へい、まいど。」
二人はテンションが急降下した店長を無視して、数個あるテーブル席の内一番奥の席に座る。
「あんた何頼んでんだよ。博多とんこつって…」
「好きなのだから構わんでくれ。それよりも、だ。」
男が言葉を切ったので、とうとう事情を話してくれるのかと康治は身構える。
「お冷の一つも出んのかこの店はぁ!」
「あんた最低だな。」
男は康治の中で、ただの不審者から不審なクレーマーという位置づけに変わった。
店員がそそくさと水を持ってきてくれたので、康治はそれでのどを潤した。
「いい加減に説明してくれないか。」
「お前はさ、大人の汚い欲望とかのために殺されるんだよ。」
康治は男の話している内容のほんの一%も理解出来なかったので、とりあえず黙って詳しい事情説明を待った。
「そういやまだ名乗ってなかったかな? 俺は菅良 賢樹。今はいろいろあってフリーターをしている。」
「それは【している】って言うのか? 」
「基本はニートとは違うからな…俺はニート寄りだが。」
菅良はわざとらしく肩をすくめて見せた。
「さて、あいつらがお前を拉致しようとした原因だがな、それはお前の『SPELL BULLET』が確率変動系能力だったからだ。」
実にいい匂いを放つラーメンが届く。
「ずずz…うぇっとだぬぁあ、わいつりゃのもくつぇきは…ごくん。確か人類を救う、だったかな?」
「今なんて言った?」
「だから、あいつらの目的は人類救済なんだって。」
康治は疑問でいっぱいだった。
「それって良いことじゃないか?」
「いや、だから俺たちの命が懸かってるんだと。あいつらに教えて貰ったから間違いないぞ。」
菅良の雑然とした説明では、康治は状況を掴みあぐねていた。
「俺の『SPELL BULLET』は『LUCK BULLET』って言って、ある程度の幸運を引き起こせるんだ。もちろん出来ないことは出来ないし、いろいろ制限はあるけどな。」
ラーメンが伸びてきたので康治はとりあえず食べ始める。
「んでそれを政府に申告したら、本部まで呼び出されたんよ。そこからは、まあ面倒な説明をされて、俺が『改造された確率変動系SPELL BULLET』である『FATE BULLET』を撃つことで、世界が救われるとかなんとか。ただ、それを撃つと改造元の『SPELL BULLET』の持ち主が死ぬってことも言われた。」
そんなこと話さずに使わせてしまえばよかったのでは、という康治の考えは、思いついた本人にとっても非人道的に思えた。
「二年前のその時、俺は死にたくないから断ったんだ。」
「ほう、それで俺を助けてくれたと?」
断れるなら別に康治も断ればいい話だ。
「その後でいきなり部屋に催眠ガスを撒かれたんだよ。俺は便利な『LUCK BULLET』が有ったから逃げ切れたけど、次に見つかる奴はそうでないかもしれないだろ? だから『LUCK BULLET』の能力で、同類を探してたんだ。なかなか見つからなかったけどな。」
「なるほど、そこで見つかったのが俺だってことか…。ならあんたには感謝しないとな。」
「礼なんていらんよ、だって。」
「まだ助かってないだろ?」
店の外をよく見ると、なにやら怪しげな影が多数見える。
店内のテレビに目を移すと、康治の顔写真と指名手配:福西容疑者の文字が流れていた。
「早くも捕まりそうですね。」
「あいつらは随分大きな権力を持ってるからな。一度目の失敗っつう経験もあるし、このくらいするだろうと思ってたよ。」
店の戸を空け放ち、向けられた拳銃を無視して突っ切る。
「あんたの『LUCK BULLET』の効果が働いてんのか? こいつら全員弾づまり起こしてるぞ。」
「ああ。急ぎで出動した部隊だったから、かかりが良いんだろうな。」
二人は追っ手を振り切って、とりあえず大きめの廃ビルへと逃げ込んだ。
「どうするんだ? これから。」
康治は菅良に何か策があるのだろうと期待して、視線を移す。
そして菅良は康治から視線を逸らした。
「何とかなるだろう。」
「どうにでもなれ、の間違いだろう。」
思わず頭を抱えたくなった康治は、下の階から物音を聞いたような気がして、物陰に隠れる。
やがて階段をのぼる足音が止まり、康治のいる階に一人の男が現れた。
右手で拳銃を構えていて、いつでも打てる状態のようだ。
康治は対抗すべく自分の愛銃を構えようとした。
だがいつもなら腰のホルスターにある拳銃は、気付けば無くなっていた。
康治は、何処かで落としたのだろうかと疑った次の瞬間には別の場所に立っていた。
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「やっと来たかい? いきなり飛ばしたりして悪いけど、落ち着いてそこに座ってくれ。最高の緑茶をいれよう。」
広いと思っていた選手控室より二回りも大きい部屋で康治を待っていたのは、江達だった。
「そろそろ君と一緒にいた菅良君も、ここに来るだろう。」
その言葉を江達が発してから五分が経ったが、菅良が来る気配はない。
「すまない…菅良君は逃げたようだ。残念。」
「とにかく説明してください。」
江達は真剣な顔つきで康治を見つめ、話を始める。
「何か菅良君から聞いているかね?」
「あなたたちが人類を救おうとしていて、確率変動系『SPELL BULLET』があればそれが可能。だけど持ち主が犠牲になるって聞きました。後はあなたたちが手段を択ばないとも。」
江達は何も言わず、真剣に康治の話を聞いていた。
「最後のはともかく、要約すればその通りだ。だが私たちが何故、そんな宗教じみた人類救済なんて言ってるか分かるかい?」
「…分かりませんね。狂ったのではとすら思います。」
「うん。それが当然の反応だ。だが私たちが今の君のように『人類滅亡』を信じなかったせいで、一つの国が滅んでしまったんだよ。」
「どういうことですか? 国が滅んだ?」
江達は少し懐かしいような、そして悲しみに満ちた表情で、語りだした。
「そのころの僕は一人の科学者でね。機械工学を研究していたんだ。」
江達が広げた古い地図には、当時彼がいた研究所の名前が刻まれていた。
「でもここって…」
「そう。今はもう別の施設が建っている。というか今いるこの施設が、元研究所なんだね。」
「ならここは、『BULLET SYSTEM 開発局』ってことですか。」
感想(以下略
どうかよろしくお願いします。