八話
出来立てほやほやです。
どうぞ。
試合開始後、康治はひたすらにトリガーを引き続けた。
込められている弾丸は康治の『SPELL BULLET』である、『RAIN BULLET』。
発射エフェクトの無い弾丸で、その能力は『雨を降らせる』という貧弱なもの。
さらには発動するかしないかすらも運任せ、というのが政府に登録された情報だ。
『BULLET STRUGGLE』に身を投じた康治は、他の選手の『SPELL BULLET』と自分の『RAIN BULLET』
との間に余りにも大きな能力差を感じ、試しに『能力の重ね掛け』が出来ないかを調べた。
調べた、と言っても銃のトリガーを連続で引いただけだが、その行動は思わぬ結果を生んだ。
大嵐。
康治は天変地異が起こるようになってから各地に設けられた避難シェルターの中で、空から地面へと真っ直ぐに落ちる雷が、その辺りで一番高い鉄塔を溶かしているのを見た。
その時にトリガーを引いた回数が三十回である。
そして今回は百回。
ドームが避難シェルターを兼ねているものでなかったなら、皆死んでいたかもしれないほどの大災害だ。
康治はドームが停電するまで『RAIN BULLET』を使用し、停電と共に暮橋へ奇襲した。
暮橋の位置は『KILL BULLET』の発射光を見ていれば分かったので、あとは観客のざわめきに紛れて足音を隠し、後ろから『ATTACK BULLET』を撃ち込んだ。
倒れたか確認することが出来ないので余分に撃ってしまったが、それは康治にとって仕方のないことだろう。
このまま大会運営が康治の勝ちを認めれば、晴れて康治は第一回優勝者となれる。
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モニタールームで江達は『BULLET SYSTEM』についての研究員から、緊急報告を受けていた。
「確認は取れているんだな?」
電話の向こうの相手に、江達が話しかける。
『ええ、最初は機械の不調かと疑ったのですが、どうやら彼が二人目のようです。』
江達は自分がしてきたことが報われた気がして、涙を流しそうになった。
『やっとですね…一人目に逃げられてから二年ですか。』
「ああ、大会を開くと決めた時に無理をして高校部門を作った甲斐があったというものだ。」
一度言葉を切った江達は、気を引き締める。
「彼をそちらに連れて行く。先に準備をしていてくれ。」
『了解しました。』
電話を切った江達はスクリーンに映る康治の姿を一瞬見て、直ぐに部下たちに命令を下した。
「今の決勝戦には不可解な点が多い。そのため勝敗を決める前に、福西選手に事情確認を行う事とする。福西選手を空き部屋に呼んでくれ。」
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康治が観客の視線に耐えられなくなって控室に戻ってくると、大会運営を名乗る男に連れていかれた。
「えっと、これはどういう状況なんですか? 試合の結果とかまだ発表されて無いんですが…」
「あのまま試合結果を発表しても観客から反発がくるのは間違えないですからね。先に確認をしておこう、ということですよ。」
康治は男が怪しい雰囲気を纏っていたので、このまま付いて行ってよいものかと迷っていた。
「でも映像確認でもなんでもして解析すれば良いとおも」
「残念ながら電源が落ちてしまったので映像も残っていません。」
決勝戦の映像が残っていない大会など、そう有るものじゃないだろう。
康治は自分の浅はかな思考が恥ずかしかった。
「まあ一応の確認ですよ…っと道を間違えました、戻りましょう。」
運営の男は、さっきまでは堂々と歩いていたのに、急に焦ったように道を引き返そうとする。
「あんた大会運営じゃないだろう。」
「なぜばれた!?」
康治が適当にかけた鎌がまさかの当たりである。
「近づくなよ。これから警察呼ぶから。」
いまさら凶器など怖くもないので、不審者の前で警察に電話を掛けようとする。
だがすぐにその必要もなくなった。
「そこの不審者、その場から動くな!」
恐らくは本物の大会運営だろう。
思えば監視カメラが有ったから男は引き返そうとしたのかもしない。
康治がここで男を引きとめたことでカメラに映ったのだろう。
「ちっ! お前は付いてこい!ここに居たら殺されるぞ!」
「はぁ?何言ってんだよ、そんなことある訳ないだろ。」
康治は反論したが、男に引っ張られ連れて行かれた。
しかし、どちらにせよこのドームから出ることは出来ないのだ。
外は康治が起こした天変地異で、生身の人どころか装甲車ですら先に進めない。
のだと、康治は思っていたのだが。
裏口から外に出ると、そこには朝見たのと変わらない晴天が広がっていた。
康治が唖然としていると、男がドアの近くに置かれていた大きな袋を台車でドアの前に移動させる。
「せいっ!」
男は重い袋を横から蹴り飛ばし、ドアの前に倒した。
袋の中身はライン引き用の石灰で、ドアの下の隙間に流れ、湿ったことにより、ドアが完全に固定されてしまう。
「よし! 逃げるぞ!!」
康治の良く分からない逃避行が始まった。
思わず自分に「お前はいつまで執筆するつもりなんだ?」と突っ込んでしまいました。
たぶん…いや、きっともうすぐ終わります。
感想は[うんたらかんたら]待ってます。