四話
あれ、こんな話にするつもりなかったんだけどな…まあいいか。
それでは急仕上げの四話です、どうぞ。
一周の試合数が減っていくトーナメント制をとっているためか、二試合目から三試合目の待ち時間は多くない。
康治はさっきの試合が綱渡りであったことを反省し、次は臆病にならず戦おうと心に決めた。
心を落ち着けるほどに手元にある愛銃も手に馴染んできているように感じられ、安心感を増大させる。
これも不思議な成長だと康治は思う。
康治がこのリボルバーを受け取った時、最初に感じたのは大きな異物感だった。
当時の康治は、一応持っていたほうが便利らしいから手に入れたに過ぎず、特に銃器に興味がある訳でもなかったので、その『殺しの道具』というイメージからくる恐怖だけを感じてしまった。
受け取った後で発表された『BULLET STRUGGLE』についても同様で、親友達が楽しげに話している横で愛想笑いを浮かべるのが彼のスタンスだった。
それが変わってきたのは、『BULLET STRUGGLE』が教育課程に組み込まれる話が出た頃からだろう。
『政府は何を狂っているんだろう』と思った康治は、案外好意的に受け入れている同級生たちとの間に溝を感じ始めた。
周囲に合わせてみよう。
そんな消極的発想で『BULLET STRUGGLE』の世界へ飛び込んだ康治は、わずか二週間で競技の虜になった。
プロたちの派手な試合に惹き付けられたというのもあるが、それだけではない。
何よりも康治を惹きこんだのは、この競技は『速さ』を極めただけでも勝てるということだった。
康治はいろいろなスポーツに興味を持っていたが、一つの技能だけで勝ち残れる競技はなかなか見つけられなかった。
だが康治の性格上、複数の技能を磨くのは難しい。
『BULLET STRUGGLE』は康治の求める競技の、『第一解』として受け入れられていった。
少し経った頃には『BULLET STRUGGLE』にもいろいろな技能が求められていることに気付いたのだが、そこは好きこそもののというやつで、徐々にでも身につけていった。
地区大会に出ようと思った時には自分の拳銃に対する異物感は霧散し、安心感が芽生えるように変わっていた。
「高校部門三回戦を開始いたしますので、選手の方はフィールドまで移動をお願いします。」
懐かしい思い出に浸っていると次の試合を告げるアナウンスが流れた。
アナウンスの声が男声から女声になっている。
丁寧な言葉遣いが心地よい。
康治は自分の緊張が少し解けていることに気付いたが、あえて引き締めるようなことはせず戦場へ向かう。
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今までの試合と違い、フィールドの向こう側に立つ相手選手には特徴があった。
鍛え上げられた足と、小さな体格。
所持する銃を康治から見えないように構えていることから、かなりの実力者であることが伺える。
(流石に準決勝ってことか… いやむしろ、ここまでの運が良すぎたんだよな。)
明らかに自分と同じような戦術をとりそうな相手を見て、康治は気付かれないようにアキレス腱を伸ばしていた。
「試合開始五秒前」
お互いにすぐ走り出せるように構えをとる。
「開始」
相手選手はが康治から見て右方向へ走りだす。
その速さは康治と同格かそれ以上だ。
対して康治は相手選手を追うようにして走る。
理由は単純で、動きの速い相手に対して乱戦をするよりも、一方的に攻撃できるこのスタイルの方が消耗を抑えられるからだ。
大抵は先を走る方が向き合う形で追いかけっこが終了する。
その振り返る瞬間に攻撃のチャンスができるわけだが、今回は一味違かった。
相手選手が走る後ろを付いていく康治は、いきなり足を滑らせて転倒する。
時を置かずに飛んでくる攻撃を避けるべく転がる康治だが、避けきれず二発の弾丸を背中と左腕に受けた。
飛び散る閃光と、体内を駆ける痛み。
神経をすり潰したかのようなその痛みは『ATTACK BULLET』によるものだ。
『ATTACK BULLET』は時間を空けて受けた攻撃よりも連続で受けた攻撃の方が、遥かに大きな痛みとなる。
それこそ慣れていなければ一撃でダウンしてしまうほどに。
康治は痛みに耐え、立ち上がる。
滑った足場を見ると、そこだけが不自然に濡れていた。
(劣化弾か! くそ、注意を怠たらなければ避けられた!)
だがここでくさっていても、試合に負けるだけだ。
どれだけ落ち着いて次の手を打てるか、それだけに試合のすべてがかかっている。
奥の手は、まだ使えない。
敵の手の内を探っている余裕もない。
康治の決断は早かった。
康治は相手に対して後ろではなく、横を追従する形で走り出す。
攻撃が足に当たらなかったのは幸いだったが、滑った際に若干痛めたらしく、全力を出しても思ったほどの速さはでない。
しかし追い抜く必要はないのだから、それでも問題ない。
(後で苦情が来なけりゃいいがな…。決勝に出られないとかほんとにないと願いたい。)
これから行う作戦は多少どころか果てしなく、卑怯だ。
だがそんなことは勝利の二の次。
(仕方ない。許してくれるだろう。)
恨まれても平謝り以上のことはしないと頭の片隅で考えながら、作戦を行動に移す。
康治は隣を走る相手選手の顔に向けて、予備弾丸を投げつけた。
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