十二話
8/17誤字訂正行いました
「これは河出の本質を見抜けなかった僕の失態だ。本当にすまなかった。」
河出を捕まえて警察に身柄を預けた江達は、康治に銃を返す。
「解決したのは全て俺のお陰だな。」
康治は感謝こそしているが、その菅良の態度に血管が浮き出ていた。
菅良が自慢げに話すと周りのストレス値が上がるのは、全人類共通なのだろう。
「その一言はいらないが、確かに助かったよ。今までどこに居たんだ?」
「俺はな、お前が捕まってから追っ手を撒いて、江達がいるというこのビルに忍び込んだ。情報収集は全て『LUCK BULLET』任せでな。そんで、たまたま開いていたダクトの穴からあの部屋に侵入した。タイミングとしてはお前らと変わらないな。で、銃を奪取できる時を待って、今に至る。」
あらかじめ『LUCK BULLET』を使っておくあたり、ハプニングには慣れているのだろう。
「それでその銃についてだが…」
「えっと、なんとなく察するに、元に戻せないとかですか?」
江達は驚いたように康治を見て、また真剣な眼差しにもどす。
「君には申し訳ないが、その通りだ。一度『LOOTS』規格に改造した銃を、元に戻す技術は存在しない。この先に確立されるかもしれないが、それまでは待ってもらうことになる。」
「いや、そのことはもう良くてですね…うん。」
康治は一度目を瞑って深く深呼吸をすると、僅かな迷いを振り切って、提案した。
「俺がその引き金を引きましょう。それで万事解決です。」
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自称神が示した人類最後の日は一か月後だ。
今更他の方法を模索する訳にもいかず、『FATE BULLET』での解決以外はあり得ない。
そしてそれを為せる候補はたった二人。
妻子持ち、二十三歳の現在無職である菅良 賢樹。
二年前に自身の確率操作系『SPELL BULLET』によって職を辞め、追っ手から隠れるようにして生活をした。
行き当たりばったりの生活も『LUCK BULLET』の効果で生き抜き、いつか家族の元へ帰ることを望んで、諦めることは絶対にしなかった。
そんな彼は常に自分と同じ境遇の人間を探し、身代わりにするどころかその他人までを救おうとしてきた。
その末に見つかったもう一人の候補が福西 康治だ。
彼は今日一から十までの真実を知って、そして犠牲になることを決めた。
それを決意するのに、そう時間は必要なかった。
彼はもともと全国大会でいろいろな人に迷惑を掛けていて、その償いをしたいと思っていた。
その上で彼にしか出来ないことが舞い込んできたのだから、それから逃げるのは卑怯だと感じたのだ。
康治には血の繋がった家族が居なかった。
物心ついた頃には孤児院にいて、家族と言えばそこでの仲間たちと世話をしてくれたおばさんだけ。
だからこそ康治はこの役目を受けようと決心できたのだ。
もちろん仲間は悲しむだろうし、こんな話をおばさんが聞いたなら殴ってでも康治を止めるだろう。
だが例えそれらの理由が無くとも、目の前にいる一人の恩人を見捨てて、他人任せにして、のうのうと生きるなんてことは康治には出来なかった。
矛盾するようだが、他人を見捨てず助けた菅良を、助けられた康治が恩を返さずにいることが間違っているように感じられるのだ。
それに人類救済というのは康治にとって一種の憧れであり、目標だった。
もはや康治に、トリガーを引かない選択肢はなかった。
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五日後。
康治が最期を迎える場所に選んだのは、少し有名な自然公園だ。
残念ながら天気は悪く、一部海岸では暴風で津波が起こっているほどである。
申し訳程度の屋根の付いた休息所で雨宿りをしている子連れの家族は、吹き込む雨を避けるようにしてベンチに座っている。
せっかくの楽しみは、残念な思いでへと変わろうとしていた。
最期は一人で迎えたかった康治は、あえて場所を誰にも知らせていない。
伝えたのは日時と、少しの我儘だけである。
「この天気じゃ、太陽のもとで終わるってのは無理か…」
構うものかと康治は雨を降らす雲の下へ移動した。
「この銃が雨で駄目になるような物じゃなくてよかった。」
せめて大きな空を見上げて、終わろう。
(全ての人類に幸福が訪れますように。)
銃を空へと構えた康治は、自分が迷ってしまう前にトリガーを引いた。
銃口から放たれた白い光弾は空を覆う雲を払い除け、康治の頭上に日を現した。
「なんだ、消滅なんて言うから痛いもんだと思ったじゃないか。」
足元から消えていく自分の体を見て、康治が思ったことはそれだけだった。
「おいおい。こんなにゆっくり消えていく意味ないだろう? いっそ一瞬で消してくれればいいのに。」
康治はその消滅するまでの時間を永遠にも感じた。
遠くに見えた子連れの家族は、実に良い笑顔を康治に見せてくれた。
(向こうは俺の姿がまだ見えてるのかな…)
徐々に思考が遅くなってきて、康治は完全消滅を覚悟した。
「康治、恩人にも黙って死ぬってのは無いと思わないか?」
気付けば康治の隣に菅良は立っていた。
「なんだ、場所は伝えてなかったはずだろ?」
「俺の『LUCK BULLET』の能力はな、不可能じゃなきゃ可能なんだよ。」
「はは、そうか…」
康治は自分の限界を感じ始めていた。
「お前は、本当にこのまま消えていいのか?」
康治はどう答えるか考えたがどうも思考がうまくいかず、思ったままを口にした。
「消えたい訳じゃない、人を救いたかったんだ。自分が苦しめた人以上に、幸せにしたかった。それだけだよ。」
終わりだ、と康治は思った。それ以上は無理だ。すでに体の八割は消えている。
「お前が消えたくないなら、俺も諦めるわけにはいかないな。」
康治の体が若干、もとに戻った。
「おい、なにしてるんだよ。」
見れば、菅良が必死に銃のトリガーを引いていた。
「『LUCK BULLET』の力をなめるなよ! 消滅を完全に止めることは出来なくともな、一分一秒でも遅らせて見せるからな! 俺が満足するまで絶対に消えさせない!!」
「カッコいいようで自分勝手だな。もう良いんだよ。俺の夢ってのもこっそり叶えたから、満足だって。孤児院にも手紙出しといたからさ。」
菅良はまだ耐えているが、消滅はまた再開する。
「うおおおおおおおおおお!!!! 負けるか!!!」
「そうだ、どうせならさ、あんたが『BULLET STRUGGLE』をやってくれ。江達さんには条件として運営を続けるよう契約させたから…な。それで俺は満足だから。」
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後日、康治の育った孤児院に手紙が届いた。
手紙の書き方なんて良く知らないので、形式的なことは省きます。
康治です。
大会に向かった日から一度も連絡できず、心配させたかと思います。
別紙にて細かな事情説明がされていると思います。
読んだでしょうか?
ほんとに読みましたか?
この先は読まないと伝わりにくい内容ですが大丈夫ですか?
おばさんはいつも面倒な書類を読み飛ばすので心配です。
冗談はさておき、手紙の通り俺は既にこの世に居ません。
また、信じられないかもしれませんが、『完全消滅』であるために死体も有りません。
これは事実です。この手紙を渡した彼らを信じてください。
本当はこの手紙に書かれているような内容を、外部へ流出するのは禁じられているのです。
それなのに手紙をおばさんの元へ届けた彼らを信用してあげてください。
で、ここからは報告とか個人的なことです。
大会の優勝は公式に俺と認めてもらいました。
本当は少し問題があって無効になるところを、無理を通してもらいました。
トロフィーもその内届くと思います。換金しないでください。
飾るか保管の方向でお願いします。
それと、こんなことが有ったからと言って、子供たちに『BULLET STRUGGLE』を禁止しないであげてください。
いやむしろ、勧めてください。
孤児院の子供には、始めるための初期投資をしてくれるように我儘を言っておきました。
抜かりはないです。
俺が言いたいことは、あらかた言いましたね。
最期に、感謝の言葉を。
これまで育ててくれてありがとうございました。
今は自分でも信じられないくらい、感謝の気持ちで一杯です。
いつか恩返しを、と思っていたんですが、世界を救うついでにやっちゃいました。
「全ての人類に幸福が訪れますように」なんて、俺の願いにしては大きすぎましたかね?
きっとすぐにでも、みんなの元にも幸せが来るはずです。
生きて、生き抜いてください。
追伸。
菅良と名乗る不審な男が訪ねてきたら、叩き出してください。悪い奴ではないですが、お願いします。
完結ですね。
カットばり増しでお送りしました。
読んでくださいました皆様、本当にありがとうございました。
ついでと言っては何ですが、この欄の下の方にある評価欄のほうに一ポイントだけでもつけて頂けたなら幸いですなんて、これっぽっちも思ってないです。
読んで頂けただけで感謝です。
本当にそれだけで(ry
ではみなさん、また何処かでお会いできればと思います。




