十一話
出来立て(以下略
8/17誤字訂正行いました
女性研究員の連絡を聞いて、康治と江達はすぐに問題の研究室へ向かった。
「福西君、これは僕の管理ミスだ。本当に申し訳無いと思っている。」
「今更のことで謝られても困ります。これが研究員の暴走だというなら、今は取り返すことが先決でしょう?」
今の康治の言葉には、仕組まれたことなら許さないという意味が隠されている。
「その通りだ。だが万が一のことも考えておいてくれ。」
万が一のこと。つまりは研究員がそのままトリガーを引いて康治が消滅する、という康治にとって最悪の結末である。
「あの部屋ですね?」
研究室に辿りつくとそこでは既にロック解除を諦め、物理的にこじ開けようとする男声研究員達の姿があった。
「研究室の扉には災害時のために、破壊できる機構があるはずだろう?」
江達が周りの研究員たちに尋ねたが皆首を横に振る。
「河出があらかじめ取り替えておいたらしい。たぶん最初から考えられた計画なんだろう。」
江達は一層心を痛めたような顔をして、次に何かを決心したようだ。
「掛けられる時間はもう無い。みんな離れてくれ、僕の砲撃で壊そう。」
さっと一瞬の間に、それまで作業をしていた人たちが江達の後ろへ隠れた。
江達は誰も近づかないのを確認して、自分の拳銃を構える。
トリガーを引いた所までを康治は視認したが、その後は目を瞑ってしまった。
康治が周りの研究員に習って耳を塞いだのは正解だっただろう。
「大会で同じような劣化弾を使っている選手がいましたね。」
「ああ、二回戦の君の対戦相手だったね。彼のよりも僕の弾丸の方が爆風に指向性を持たせられるんだよ?」
『EXPLODE BULLET』というらしい。効果は説明するまでもないだろう。
研究室に入った康治たちを迎えたのは、康治の拳銃に良く似た銃を構える男だった。
(遅かったってことだろう。あれが『ROOTS』規格に改造された俺の銃なのか。)
大きさこそ前と変わらないが、銃身に何か取り付けられている。
「いきなり爆発したから何かと思えば江達か。ったく、この銃が壊れたらどうすんだ。」
「君の勝手で事が進むくらいなら、壊れてくれた方がいっそ良かったよ。」
二人は睨み合い、お互いが本気であることを確認したようだ。
「河出、君はその銃をどうするつもりだ? 君の暴走で救われる世界なんて誰も望んじゃいないんだが。」
「そういや言ってなかったかもな。『FATE BULLET』の使い道は別に世界救済だけじゃねえ。」
河出は自分にだけ都合がいいように、報告を誤魔化していたのだ。
「どういうことだ?」
「こいつはなあ、究極の確率操作が出来るんだ。だから能力を使えば、自分にだけ最高の幸運を与えるくらい楽勝にできる。この訳の分からねぇ研究で潰された俺の人生を、前以上に幸福にできるってことだな。二年前は拉致ろうとして逃げられたが、今度は手に入れて見せたぜ。」
「馬鹿かお前は!その一発に一人の命が懸かってるんだぞ! それに世界はどうするんだ!」
江達はこれまで見せたことのない剣幕で、河出に迫った。
「おっと、近づくな? 今すぐにトリガーを引いちまうぞ。しっかり願いをイメージせんといかんのでな、まだ引きたくはない。世界、世界ねぇ? どうでもいいとは思わないぜ? でも候補はもう一人いるじゃねぇか。なら一発くらい良いだろう。こっちは世界のため、研究に生きてきたんだぜ? 旨みの一つもくれよ。」
河出はそれを当然だと言わんばかりに主張した。
「警告だ、その銃を床に置け。でなければお前を撃つ。」
「逆だな。お前らが全員、武器を捨てろ。そうすれば願い事の一部に入れてやるよ。世界が滅んでも生きていけるかもしれないぜ?」
康治は研究員がざわめき、迷うかと思ったのだが、誰も河出の言葉を信じなかった。
「はぁ… 馬鹿な奴らだな。世界滅亡だって怪しい話なのに。いいよ、俺だけ幸せってのを享受することにしよう。」
河出が引き金にかける指に力を入れ始め、江達も同じく引き金を引こうとする。
この状況で康治が生きる道は残されていたのか、それは分からない。
それでも、この時点で康治は死を覚悟していた。
(次の瞬間には河出か俺か、その両方かが死ぬ訳だ。)
康治はあっさりと訪れた命の終わりに恐怖した。
だが、事実は違う。この時に誰が死ぬことも無かった。
「な、なんでジャムるんだよ!?」
「急仕上げだったから、俺の『LUCK BULLET』の効きが良かったんだろうな。」
河出の右手から康治の銃を奪い取る、菅良の姿が有った。
まだ続きます。(ってもうぎりぎりだなぁ;)
頑張ります(・ω・)




