十話
説明しかない…ごめんなさい。
8/17誤字訂正行いました
「まだ君がどうやってここに来たのか話していなかったね。」
康治は出来ればそこから話してほしかったと思ったが、恐らくは菅良によって江達のペースが崩されていたのだろうと思い、同情した。
「世界にはいろいろな『SPELL BULLET』があって、中には空間転移なんて物もあるんだ。今回は菅良君のときを反省して、持ち主に高いバイト料を払って雇っておいた。彼のは範囲が広くて精度も抜群だから、全国大会一般部門の優勝候補だったりするんだよね。」
康治は見ために合わないほど江達が話好きだったので、少しウンザリしだしていた。
「と、話が逸れちゃったかな。まあここは君の言うとおり、世界中の『BULLET SYSTEM』を用いた製品を開発・製造している、開発局だよ。そしてその前身となったのが僕の働いていた研究所なんだ。」
茶を飲みながら聞いている康治は、この話が『BULLET SYSTEM』の隠されていた誕生について話ではないかと考え始めた。
「あれは特に何がある訳でもない日のことだ。僕はいつも通り研究所に出勤して、数日前から動作テストをしている災害救助用ロボットの元へ行った。仲間はもう来ていたようだったから、小走りでね。でも実験室の前に着いてみると、中が騒がしいことに気付いた。最初は事故が起きたのかと思ったよ。」
康治は黙って江達の話を聞き続ける。
「僕は実験室の中に入った。最初に目に入ったのは、仲間たちの人垣だ。いつもなら皆自分のデスクに座っているのだから、こんなことは無いんだよね。事故なら事故で皆慌ただしく働いている訳で。で、僕はやっとそこで気付いたんだ。実験の様子を見るためのガラスの壁側に、見たことの無い男が立っていることに。」
江達は茶を飲もうとして空になっていることに気付き、新たに緑茶をいれてきた。
茶を啜る音が部屋に響き、江達は一つ息をつくと改めて話を始める。
「そいつは嫌な奴だった。こっちが信じないことを分かっていて、『自分は神だ』って名乗ったんだ。そしてこのまま時間が過ぎれば、七年後には世界が崩壊するとも言った。僕らはそれを信じなかった。これは仲間から聞いた話だけど、あいつは実験を始めようとした時に急に現れたんだって。それだけ良く分からない奴だったから、僕らが話を信じるわけも無かったよね。そこで僕の仲間は警備員に連絡しようとして、右腕を失ったよ。」
康治は江達が微かに震えていることに気付いたが、あえて指摘することはしなかった。
「僕らは急に消えた仲間の右腕を見て、初めて奴が人間でないと思えたよ。残念ながら神ではなく、化け物だと思っただけだけどね。奴は僕らが自分を信じなかったから、『世界崩壊』を信じさせるだけのものを見せてくれた。」
「七年前に国が滅亡… ああ、あの首都が大地震に襲われて崩壊した国ですか?」
「そうだよ。思えばあれが世界崩壊の始まりだったんだろうね。それから世界中で天変地異が起こるようになったんだから。奇跡的というか、各国の努力のおかげというか、あれ以来滅亡した国家というのは無いけど。ともかく、僕らは奴がそれを起こした瞬間を見てしまった。その場の空気は恐怖心で奴の手中に落ちたよ。」
そこまで話した江達は一枚の写真を取り出した。
「これは『BULLET SYSTEM』の原型。奴から世界救済のヒントとして渡された、最初の銃だ。これと一緒に渡された弾丸と合わせて、『LOOTS』って呼んでる。ただこれも曲者でね、そのままのものを使うと使用者は消滅してしまうんだ。しかも、ただ撃てば世界を救える訳じゃなくて、弾丸の効果は人によって変わってしまう。付け加えて奴は、その研究所以外では一切研究・開発・製造を出来ないようにしたと言って、そのまま消えた。」
どこか遠い目をしている江達は、何かを思い出しながら話しているのだろう。
「奴のおかげ、と言うと抵抗はあるんだけど、僕らに説明すると全く同じ時間に、国のお偉方にも説明というか脅迫というかをしてくれてね。国と連携をとることで『BULLET SYSTEM』の研究は驚異的なスピードで進んだ。四年で発表できたのは僥倖だね。銃の複製は奴が置いて行った機械に、使用者の血を入れれば自動で作り出せるから楽だった。僕らがした研究は二種類。『ROOTS』で世界救済を出来る人間の、法則を突き止める。もう一つが、他の効果を持った弾丸を、無理やり世界救済ができるように作り変えること。」
「その研究の末に『BULLET SYSTEM』はできた。『ROOTS』を調べつくし、『BASE BULLET』を作って、変化した能力をデータベースに送らせて管理した。技術にメリットを持たせるために、使用者を殺してしまう銃の特性を、使用者の身を護るよう改変した。スポーツに転用したのは、持つ必要を感じない人にも所持してもらうため。僕らは寝る間も惜しんで実験を重ね、競技用弾を三種類作り出せた。」
「どうにか『発想力』を武器に研究を重ねた僕らは、とうとう確率変動系能力なら作り変えることができる、という答えを得た。ただ、残念ながら改造した銃では駄目なんだ。世界救済には『ROOTS』規格の銃でないといけなかった。『ROOTS』を使った時と若干違うのは、使用者ではなく弾丸の持ち主が消滅する点だけだ。」
「そこに現れたのが菅良君だ。あの時急いでいた僕らは、しっかりと説明できず、彼の協力を得られなかった。」
その言葉に違和感を感じた康治は、菅良から聞いた話を江達にしてみることにした。
「菅良さんからは断ったあとに拉致されそうになった、と聞いたんですが。」
「ん? いや、そのころから最高責任者になってる僕はそんな命令は出してないよ。」
康治は何か話に裏がある気がして、急に自分の拳銃の安否が気になりだす。
「俺の銃は今どこに?」
「安心してくれ、君が同意してくれるまで改造は行わない。今は部下が保管している。」
その時、部屋の扉が開けられた。
「なんだ? ノックも無しに。」
「緊急事態です、河出研究員が銃の改造を強行しました! 現在、研究室に立て籠もっています!」
もう少し続きそうです。
感想は「かくかくしかじか」




