第二話:困惑
ゼノンは精神統一などしていなかった。
周りの目線が気になっていた。
「なに?あのひと・・・」
その格好が怪しい者に見えるらしいので、柱に隠れているがやはり見られる。
その行動がよけいに怪しさを増していたのだ。
「・・・・・・む。」
耐え切れなくなりマント取った。
中の格好は一様戦闘が楽になるように身軽な服。
しかし、これはパーティ着というよりは普段着である。
「ち!はやくしろよ!!二次軍!」
足を床にパタパタと叩き始めた。
「くそ・・・はやくぶっ殺してぇ。・・・そーいやマックスやジェンラ、それにあとの2人はどこに行ったんだ?」
ゼノンは耳元の無線ボタンを押して
「こちらゼノン、マックス!聞こえるか?」
なにも反応はなかった。
「くそ!なんかあったか?!」
『・・・あ〜!こちらマックス!!王子!聞こえます。』
「てめえ!なんでもっと早く応答しねーんだ?!」
『すいません!ちょっくらトイレにいまして、手が離せなかったんですよ〜』
「わかーった!んで、他のメンバーは?」
『たしか・・周りに溶け込むためにダンスしてるとか言ってましたよ。
その方がクスリも混入しやすいとか』
「なるほどな。よし、俺もまざって・・・。」
『あーー!ダメッス!王子には別のことしていただかないと』
「何?」
『あ!!、、い、いや、王子の顔は王女とかにも知られているでしょ?
だから王子は戦闘のために待機していてくださいよ!クスリは俺らが混入しますから!』
「しかし、クスリは俺が持っているんだぞ?取りに来い」
『え?!・・あ、、ああ!!はい!!今行きますから待っててくださいね!!』
ブッ・・
「・・・・なんかあいつ慌ててたな、、。」
ゼノンはビンに入ったクスリを手に取りマックスを待った。
しかし、マックスはなかなか現れない。
「?」
さすがに時間がなくなってきたので、ゼノンは自分で行くことにした。
「王女がいる場所は・・・・。」
階段の踊り場に目をやった。
そこには黒髪の女と緑色の髪の男がいた。
「・・・・王女じゃないな。たしか王女は銀髪でブルーアイだったな。あれは・・・。」
どうみても19歳には見えなかった。
「・・・?どこにいるんだ?」
ゼノンが辺りを見回していると、横からすっと背の高い女が現れた。
「どうぞ、スペシャルワインです。子どもでも飲めますよ?」
「・・俺は子どもじゃない。」
「あら!くすくす・・・。でもおいしいから飲んでね」
そういうと女は去っていき、また別の人に勧めていた。
そのワインは透明で水のように景色が見える。
「光の国の飲み物か。ふん、冷やかし程度に飲んでやるか。」
ゼノンはくいっとワインを口に流し込んだ。
舌触りがなにやらする。
その瞬間
「わ!!!!!」
「!!!!ぶしゃーーーー!!!」
誰かが背中を押してきた。
一気に口からワインが出てきた。
「て、、てめえ、、何しやがる・・・・。」
振り返ってみてみるとそこには150センチくらいの女の子が腹を抱えて笑っている。
「ふははは!全部はいちゃったわね!」
その女の子はふさふさのまつ毛にウェーブのかかった緑色の髪、そしてなんとも可愛らしい服装をしていた。
誰がみてもナイスガールな子であった。ゼノンも例外ではなく。
「ごめんね?だって面白い姿してるんだもん」
「・・・う、、う、うるせぇ。」
ゼノンは照れながらシルクのマントで体を隠した。
「折角だし〜ダンスでもして盛り上がりますか?」
「は?」
「一緒におどります?」
「いや!!結構だ。」
「じゃあ、一緒に外で遊ぼうよ。ここ息苦しいわ。」
「いや、、俺はやることがあるんで。」
「そ、、んじゃ、私も一緒にいていい?」
「いや、、、もっとダメなんだが、、、。」
まさか王女にクスリをもろうなんて所を見せるわけには・・・
「なによ。素直に消えろって言えばいいのに」
「い、いや!そーいう訳では・・・」
「なによ?!」
「えっと、、、。じゃあ、踊るか。」
ゼノンはその女の子を連れ、ダンススペースへ向かった。
「そういえば、、さっきのワインの中、毒草が入ってたわよね?」
「何?」
急な言葉にゼノンは驚いた。
「あの透明草は光の国でも有名でね。体の中に入ると腐っちゃうのよ。体が。」
女の子は淡々と喋る。
「で、でもあれは他の奴らにも配っていたものだし。」
「だって君に渡したやつだけにしか入ってなかったわよ?私見たもん。」
「なに?」
あの背の高い女が俺に毒を?
まさか、俺が闇の国の王子だって知ってのことなのか?
「なんで狙われてんの?」
「い、いや・・・。」
ゼノンは混乱した。
作戦は上手くいくのだろうかと、そして
「あの女何者だ?!」
辺りを見渡したがどこにもいない。
同じような透明のワインを飲んでいる貴族達が楽しそうにしている。
「く、くそ!どうなってやがる!王女もいないし!!」
「王女を探してるの?」
「ああ。」
「それ私。」
「は?」
女の子はふんぞり返っていった。
「私はヒカリ王女!光の国の王女なり〜〜〜!!」
「はあ?王女はフィーリだろ?」
「のん!それは私の姉ナリ!」
「あ、姉ぇ?!」
聞いていない。
「君・・・どこの人よ?そんなことも知らないなんて。どっか遠いところからわざわざ来たの?」
「い、、、いや、、、。」
なにがなにやらわからなくなってきたゼノンはその場を離れ、もとの柱の所に向かった。
(ど、どーいうことだ?確か父上は王女はフィーリとしか教えてくれなかったし)
その時無線がかかった。
(誰からだ?この忙しい時に!!)
『・・あ〜、、ハロー!聞こえますか〜王子ぃ!、、て、聞こえないか!!もうくたばっちまったかなぁ??くははは!!』
(・・・・・ジェンラ?!)
ゼノンは無線を黙って聞いていた。
『ワタクシのプレゼントはいかがでした?おいしかったでしょ?特別に混乱の薬草も混ぜた毒ワインは!』
(・・!!あ、あの女は・・ジェンラだったのか?!)
『変装が得意なジェンラちゃんは〜なーーーんと!光の国のスパイだったのでスゥ!☆
気づかなかったでしょ?だって変装が得意なんだもん!!』
(・・こ、このやろう・・。)
『もちろん、二次軍が来るってことも光の国は知ってるんだ!私が教えたからね!
だからこの作戦は失敗ナリ〜〜!!』
(・・・・ナリ?)
『孤立した19人の闇の民はどうなってしまうのやら?あ!そーいえば、マックスの奴は助けてやっといたよ。
今頃牢屋にぶち込まれてさ。ま、殺されるよりはましなんじゃない?』
「・・・貴様!!よくも騙してくれたな!!!」
『はれ?生きてんの?うわびっくり!!さすが虫のごとく!!しつこいなぁ。』
「今どこにいる?!ただじゃおかないぞ!!!」
『今?ははは!!今ね、二次軍の最後の生き残りの頭の上にいるよ。
お話しする?』
『お、おたすけ〜〜!!』
「!!くそ!」
『じゃ!そろそろ、本陣に乗り込みますかな〜?今なら兵も手薄でしょ?こんなに出陣させたらさ。』
「・・・くそ・・・。」
『お前のとーちゃんの首をもってすぐ帰ってくるからよ!期待してな。』
「・・ちくしょう」
『最後に言っとくぞ。俺の名前はジェンラなんかじゃねえ。善気っていうんだ。知ってるだろ?』
「・・・・・・。」
『光の国、王女フィーリの付き人だ』
ブッ・・・
「・・・・・・・。」
何もかもが止まっているような感覚がした。
絶望しかない。
もう自分はどうすることもできない。
いっそ暴れてめちゃくちゃにしてやろうかと思ったが、もうそんな元気は残っていなかった。
「・・・俺、一体どうしたら・・・・。」