第一話:その少年の名、阿部優聖
ギラギラと照りつける太陽。そして、カラッとした気候。その条件だけでも、女子高生のスカートは普段よりさらに短くなるのだ。
そのことを彼は一分たりとも忘れない。阿部優聖。青春真っ最中……になるはずだった十六歳。彼女居ない暦十六年。しかし、告白された回数は三回の、色素が少し抜けた髪が特徴的な高校二年生の男子。
彼、優聖は夏が大好きだ。
「よぅし……今日も朝から腕試しだ」
舌なめずりをし、手をぽきぽきと鳴らした。今日の標的は最近急にいきがり始めたギャル、玉野姫華だ。ケータイ片手に登校している彼女は、これから起こることをちっとも予想していないのだろう。
とても濃いギャルメイクにピンクのメッシュが入った金髪。ふわふわと魅力的な短さのスカートを揺らしながら歩いている。
そこで、優聖の目が光った。目にも留まらぬ速さでギャルの下にしゃがみこみ、何事も無かったかのように玉野を追い抜いた。
「……え? なんか変! すーすーする!」
異変に気付いたギャル玉野の声を聴き、優聖はにやっと笑った。彼の右手にはヒョウ柄のショッキングピンクの、レースがついたパンツがいつの間にか握られていた。
「ふっ……。気付くのが遅いな。ギャル玉野!」
ばっと優聖がギャル玉野のほうを振り向くのと同時に、彼の服装は変わっていた。優聖が通っている公立真名緒高校の制服は消え、代わりに黒のベストに黒のズボン、血のように真っ赤な棒タイに漆黒のマントを羽織っていた!
「このヒョウ柄のギャルパンツ……確かにいただいた!」
そして思い切り飛び、民家の屋根に着地した。
「だぁぁ! あたしのパンツ返せ!! さもないとてめぇを潰すぞゴルラァァア!!」
しかし、優聖は屋根の上を走り出していた。
「ハーッハッハッハ!! この怪盗パンティーヌがあきらめると思っているのか!?」
つるっ……。
あたり一面に盆栽が粉砕する音と、オヤジの怒り狂う叫びが響いた――。