「お休みをください!!!」
ゆるめ。
「人類に魔法は早過ぎたんですよ!」
「なんだい、急に」
「こんなデカい魔法機巧は作るべきではなかった!」
「つまり、何が言いたいのかい?」
「休みがほしい!今すぐ!」
「仕事しろ〜」
地方の森の中にある、巨大魔法機巧およびそれに伴う魔法陣の修復に派遣されて、ひと月。
いい加減、家に帰りたい。
自分の部屋のベッドで寝たい。
お菓子食べたい。
ゆっくりしたーーーい!!!
「魔法機巧はなんのためにあるんだい、答えよ。アズリー」
「なんですか、その魔法学校の小テストみたいな問題」
「いいから答えなさい」
上司であるベレルリッド様に圧増し増しでそう言われたら、答えるしかない。
「国に生きる人たちのために、火、水、電気などを通して、生活しやすくするためのものです」
そう言うと、ベレルリッドさまは満足そうに頷いた。
手元の魔法陣がみるみる綺麗になっていくから、すごい。
仕事に関しては尊敬しているが、それとこれとは別だ。
私だって、それはわかっているさ。
飲みたい時に水が飲めるのも、簡単にコンロで調理できるのも、夜街灯がついていて暗くないことも、全部この魔法機巧装置のおかげだ。
そして、それは私たち魔法師が作って、メンテナンスして、守っているからこそ、国民の生活は滞りないのだ。
だからってねえ!?
私は魔法陣の隅っこの隅を修繕しながら、不貞腐れた。
「その維持のために、私たちはこのひと月、森の小屋でほぼ野宿ですよ!私たちの生活はいいんですか!これって犠牲ってやつじゃないんですか!」
「魔法の素質のあった人間の宿命だ。諦めろ」
「うわーん!水は井戸で汲んで、火は自分で起こして、夜は寝ろーー!!!」
「いつの時代の話だよ…」
「うちの田舎は、まだ井戸で水汲んでましたよ」
「人は便利なものができたら、後戻りはできないのだよ」
「だから、人類に魔法機巧はまだ早かったんですってええ〜〜っ…!!」
そもそもこんなことになったのは、今から30年ほど前に、古代遺跡の再現に成功してしまったからだ。
それまで、魔法師というのは冷遇されていたそうだ。
大した魔法が使えなければ、局地的にしか役に立たない。
魔法が使えるというのは、イコール宝の持ち腐れと言われてきた魔法師たちが奮起して、古代遺跡にあったとされる生活をより豊かにする魔法機巧の再現を何十年と研究した結果、ついに成功させ、瞬く間に地位を高めた。
ついでにこの国でいちばん忙しい職種になった、迷惑な話である。
「ふかふかのベッドで寝た〜い!お風呂入りた〜い!お菓子食べた〜い!可愛い雑貨のお店に行きたああいい!!」
「手ぇ動かせ〜」
「うううっ…」
べそべそ泣き言を言いながら、複雑な魔法陣の歪み始めたところを確認する。
そりゃあ、食いっぱぐれないし、この機巧の恩恵には感謝してますよ。
「ほら、アズリー。ここの補強が終わったら、帰れるから」
ベレルリッド様はにこやかに楽しそうに作業していく。
各地に魔法機巧を一気に作ったものだから、魔法師はいつだってメンテナンスで大忙しだ。
「……できました〜!」
「ご苦労様、さて本部に帰って報告するとしよう」
「帰って寝るんだあ!」
「はいはい」
やっとの思いで、森から帰ってくると本部は人が慌ただしく動いていた。
「どうかしたのか?」
「あっ、ベレルリッド様!アズリー!おかえりなさい、ちょうどよかった…!」
げっ、嫌な予感。
「西地区の機巧が故障して、西側が停電しているんです!今、動ける魔法師はみんなそちらに行ってまして」
「それは加勢しに行かないとな」
「ぜひ、お願いしますっ!」
私と変わらないくらいクマのひどい同僚が、嬉しそうにはしゃいだ。
私は、嬉しくない。
「よし、アズリー行くぞ」
「いやだああああ!今!帰ってきたんですよ!?!?」
「仕事があって何よりだな」
「私はベレルリッド様と違って、仕事が趣味じゃないんです〜〜〜!!」
「ほら、これが終わったら休ましてやるから」
そう言って、ベレルリッド様は私のローブのフードを掴まえて、ずるずると引きずっていく。
「がんばって〜、アズリー」
「今すぐ休みを申請させろーーーー!!!!」
残念ながら、魔法師は今日も忙しいのだった。
了
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