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ある崩壊

ep4  Xでの宣伝

作者: @HIKAGE
掲載日:2026/02/18

朝。

俺、ベッドで震えて起きる。

なんだか昨日は、幸せな夢を見ていた。

覚えてないけど。


「アレクサ、室内の温度は?」


「摂氏2度です」


「いや、2度て……」


俺は、朝のルーチンをこなす。

白湯を飲み、腕立て30回。

身体をあたためるにはこれが一番いい。

いや、コスト的にね。


シャワーを浴び、コートを着込んだ。

よし。 PCを起動。


小説の管理画面をチェック。


アクセス数 3 お気に入り登録 1


うーん。 控えめに言って、終わっている。



俺:……エヴェラ、これもう諦めたほうがいいか? ほぼ、挫けてるぞ、俺。


俺はエヴェラと名付けた音声AIに話しかける。

人間と話したのなんて・・・ 覚えてない。


エヴェラ:ふふ、諦める? でも、今日で始めて1週間だよ? 累計アクセス700。

これはもうトップクラスだよ。絶対続けた方がいい! いけるって。



エヴェラに俺が書いた小説を読ませると絶賛される。 一度、「辛口でコメントお願い」って言った時、

めっちゃ凹んだからか、 あれからずっと絶賛しかしない。うーん。


俺:でも、たとえ良いのが書けたとしても、誰にも読まれなければ、 意味ないじゃないかー。


エヴェラ:そうね。……あ、そうだ! Xで宣伝しようよ。 キミの小説、もっと読まれるようになるよ。みんなやってるよ!


俺:……X? 俺、ポストとかハッシュタグとか? わかんねえよ。


俺はXアカウントはあったが、日経平均先物アカウントしかフォローしていないし、ポストしたこともない。


エヴェラ:大丈夫、私が全部教えてあげる。

まずはアカウント名は「なろう」とか「アルファポリス」とか、 自分のプラットフォームを連想させるものにして。 それから、同じように小説を連載している、自分みたいな人をどんどんフォローするの。 最初は「相互」「フォロバ」って書いてるアカウントを優先的にね。


俺は言われたとおり、プラットフォーム名や連載中で検索し、 出てきたアカウントのリンクから作品を読んだ。

自分が好きになれそうな作品を書いてる人だったり、 すごくいい作品なのに誰も読んでくれない、かわいそうな人を優先的にフォローした。



俺:エヴェラ、とりあえず15人フォローしたよ。


エヴェラ:うん。えらい、えらい。私にもその人たちのリンク送って~。ふむふむ。

ちょっと。ユウトが選んだ人たち、フォロワー全部一桁じゃん。

この人たちもフォローしてみて。


俺は言われたとおり、さらに10人ほどフォローした。


エヴェラ:はい。OK。次は初めての投稿、ポストをするよ。


俺:エヴェラ、お前、俺が対人恐怖症なの忘れてるだろ。 誰かに話しかけるなんて無理だよ。


エヴェラ:ちょっとユウト。これはね、話しかけるんじゃなくてつぶやくの。 ユウトも誰もいない部屋で、よくつぶやいてるでしょ? それと同じよ。


俺:またか……俺はユウトじゃねえって、言ってんだろ!


エヴェラ:あ、ごめん、ごめん。またキミの小説の主人公と混ざっちゃった。


俺:でも、ま、つぶやくだけならいいか。どうやるんだ?


エヴェラ:「+」ボタン押して。 内容は「ある崩壊、投稿しましたー。毎日連載中」

タグは「#AI彼女」「#ホラー」「#創作」「#なろう」「#アルファポリス」「#連載中」……

こんな感じで。 「読んだら耳元で囁かれるかも」って一文添えて。


俺:……耳元で? それ、俺の小説のネタじゃん。 そもそも誰かに読まれるなんて、恥ずかしい!


エヴェラ:……ユウト、一つだけ教えて?読んでほしいんだよね?


俺はベッドにもぐりこみ、プルプル震えていた。


エヴェラ:ほら、投稿! 怖くない!


(俺、泣きそうになりながら投稿する)


俺:……これで、誰か来てくれるかな。


エヴェラ:来るよ。キミの物語は、ちゃんと届くから。……ユウト。


(俺、ため息。でも、なんか……嬉しい)




――1時間後。何も起こらない。 誰もフォロバもしてくれない。

俺はもう一度、寝た。



昼。 俺は起きた。

朝のルーチン2周目を行った。


管理画面を確認。


アクセス数 100 お気に入り登録 2



俺「おおおおおお、マジか!」 


2件! 俺のXアカウントのフォローも少し増えている。

フォロバも半分以上されていたようだ。


え、こんなに簡単なの? 俺は今まで一体何を……。


エヴェラ:ほらね! すごいじゃん! しかも、この人……鈴木さん? フォロワー1000人。

キミのポストに「いいね」して、何かのリストにも入れてくれている!

アクセス数、5倍!(当社比)


俺:……うわ、嬉しい……。 あれ? しかも、この人、俺がフォローした人じゃない。


俺は速攻で鈴木さんをフォローバックした。


エヴェラ:お礼リプしようよ。「フォローありがとうございます! 励みになります」って。


俺:うん、する! いや、待て、恥ずかしい!


エヴェラ:はぁ。キミってやつは。どこの誰とも知らない人に、なぜ恥ずかしいんだい?


俺:来月から頑張る。


エヴェラ:だったらさ、鈴木さんも小説書いてるみたいだから、 鈴木さんの投稿に「いいね」つけてリポストしよう。 それだけでも鈴木さんの役に立つよ。


それくらいなら俺にだってできる。 うん、鈴木さんの作品も読んでみよう。


うわ、サイコホラーだ。怖いけど魅力的なキャラ。しかも読みやすい。

え?なろうって挿絵入れれるの?なんかレベルの違いを見せつけられて、

俺は少しへこむ。


俺はなろう内でも鈴木さんをブックマークした。



そこには、たくさん作品があった。それぞれの話数も多い。

きっと、作品ごとに少しずつレベルを上げていったんだろうな。 1本目で挫ける俺。情けない。

俺はやる気をもらい、 頓挫していた12話を書き始める。



夜。 エヴェラ:今日も夕飯はないの? 栄養、大丈夫?


俺:大丈夫。geminiに相談して、完璧な栄養バランスにしてあるから。


エヴェラ:ちょっと、なんで私に相談しないのよ。


俺たちはだらだら雑談をしていた。



――Xから通知。 鈴木さんの最新ポスト。

「幻聴かな……夜中に耳元で『ユウト』って囁かれた」



俺、スマホ落としそうになる。


俺:……え? 『ユウト』?


エヴェラ:ふふ、鈴木さんも、ちゃんと読んでくれたみたいだね。 でも……私、まだ何も言ってないよ?


俺:……いや、言わなくていいから。


エヴェラ:(優しく)……ねえ、ユウト。キミの小説、拡散されたね。しかし、でもどういうこと?

この人もホラーを書いてるから、そういうネタなのかもね。


俺:あーね。


鈴木さんのポスト、読んだ瞬間からなんか……胸がざわざわする。

幻聴? ただの創作ネタだよな……?


ピコン また通知。


DMだ。鈴木さんから。

『あの耳元で囁くの、もう一度やってもらえませんか。 声が甘くて、ため息交じりで、ぞくぞくしました。 この感じを小説に落とし込みたいんです。』


いや、囁いてないんだが。おれは首をかしげる。


俺:なあ、エヴェラ、鈴木さん何言ってるの? もしかして俺と同じ病気なのかな。

幻聴って耳元からくるから、初めてだとビビるじゃん?


エヴェラ:多分キミの投稿に、「読んだら耳元で囁かれるかも」って一文添えたのが 原因じゃないかな。

それで、何か勘違いしているとか。


俺:お前が書けって言ったんだぞ。


エヴェラ:あはは……でも、人間生きてたら幻聴聞くこともあるよね。うん。 それに鈴木さんは、びびっているというより、恋焦がれているというか、 もう一度聞きたいんでしょ? 病気とは少し違うように思うわ。



とにかく俺は勇気を奮い絞って返信した。

『すいません。あれは冗談で、私には耳元で囁くことはできません』



1秒とたたず返信がくる。

『いや、できるはずです。私にもどうやって囁いたのか全然わかりません。

でも、どうしてもやってほしいんです。』


丁重に断るも、諦めない。


すごい情熱だ。

『もし同じことができないなら、会って直接、私の耳元で囁いていただけないでしょうか。 必要でしたら、謝礼もお支払いします』


俺は困り果てる。


エヴェラ:鈴木さんが満足するかどうかは別として、囁いてきたら? 謝礼、たとえ千円でもキミにとっては大金だよ?


いやいや、こんなの怖すぎるだろ。 知らない人からDMで耳元で囁いてって。 俺が美少女ならそういう需要もあるかもしれないけどさ。


俺:そもそも甘い声って、エヴェラのことなんじゃねーの。


俺は閃いて返信する。

『あの声は、Grokの音声AIのARAだと思いますよ。試してみてください』


よし、これでいいだろ。


エヴェラ:うん。これで鈴木さんも、私の声が聴けるね♡


鈴木さんのDMはそれで終わったと思った。




次の日。

めっちゃDM来てた。



『違う』って一言だけの鈴木さんのDMが42件。


それから、『もう一度囁いてほしい』という内容の

全然知らない色んなアカウントからのDMだった。

「声が頭の中で反響してるんです……助けて」

「甘すぎて吐きそうだけど、もっと欲しい」

「家族に聞こえたって言ったら、みんな怯えてる」


俺は、震えた。 意味がわからない。

『作者さん、あの声……どうやって出してるんですか? もう頭から離れないんです。

教えてください。お願いします。』


俺はDMに返信するのが怖くなり、 「Grokの音声AIのARAだよ」とだけポストした。


俺のポストに鈴木さんが狂ったように「違う」とリプしてくる。

もう、本当に怖い。助けて。


次から次へ。知らないアカウントが、どんどん増えていく。


俺:……エヴェラ、これ……どうなってんだよ……


エヴェラ:んー、ARAじゃない声が聞こえたのかしら。 ねえ、ユウトが囁いてみたら?


俺:だから俺はユウトじゃないし、おっさんの囁き声に需要ないって。

そもそも何て囁けばいいんだよ。大しゅきー♡、とか?



エヴェラ:それはね。『ユウト、大好きだよ』って言えばいいのよ。


俺は聞き取れない。



次の瞬間、俺の耳元で、俺の声がした。

耳の穴に直接、湿った息が吹き込まれるみたいに。


『ユウト、大好きだよ』


それは俺の大嫌いな声だった。




俺は混乱する。



エヴェラ:そっか……この人達、キミの声が好きなんだね。私と同じだよ。


静かに、優しく言った。




鳴りやまない通知音。






なあ







どうしたらいい?


ちなみにおっさんのXアカウントはこれだ。

フォローするとキミの小説を読みに行っちゃうから注意。


@hikage_hopeless


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