ナナちゃんは殺された
【異世界から聖女を誘拐するからこうなるんだ】
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の、バリエーション?違いのお話です。
「ねえ、聞きまして?また殿方が『子猫』を連れてきたのですって。本当に悪趣味よねえ?」
四阿のお茶会で、貴族の令嬢達が楽しそうに笑う。
「またですの?飽きないのですわねえ、『子猫』なんか。どうせ半年足らずで死んでしまうのに……」
「ほほほほ。そうは言っても、殿方の無聊をお慰めするのに『子猫』はぴったりでしょう?あちらの世界には『子猫』なんて何匹でもいるそうですし」
「まあ、嫌だわ。……あら?」
彼女達が楽しそうに話していると、四阿に近付く人影があった。
「やあ、何の話をしているのかな?」
その人影が誰かを見て、一人以外は全員立って淑女の礼を取る。
「これは王太子殿下。『子猫』のご機嫌は如何かしら?」
その立たなかった一人は隣国の王女エステッラで、王太子ギリアッドの婚約者なのであった。
女特有の嫌味と気付いたギリアッドは肩をすくめて、
「妬かないでおくれ、エステッラ。だって仕方ないだろう?私達は結婚するまで君達に触れる事は神の教えで固く禁じられているのだから。それに『子猫』なんかに妬いたところで何になる?」
『子猫』は確かに人の形をしているが、彼らにとっては『人』ですら無いのだ。
「まあ……それも……そうですわね」
王女エステッラが機嫌を少し直した所で、王太子は持ってきた可愛らしい砂糖菓子の詰まった箱を差し出す。
「とは言え、君達には不愉快な思いをさせているだろうから、お詫びにこれを」
きゃあ!と令嬢達は喜びの声を上げる。
エステッラも思わず表情を緩めた。
「まあ、有難うございますわ。皆で美味しく頂きますわね」
「いやー、スッキリしたよ。お前もどうだ?」
「僕は汚れているのが嫌だから、後で洗ってから『子猫』を使うよ」
「そうだった、お前は病的な潔癖症だったな!」
「一言多い!」
そんな会話をしながら国の重鎮の息子が『子猫部屋』から出てきたのを――入れ替わりに中年の重鎮がそそくさと『子猫部屋』に入っていくのを――彼らは双眼鏡の向こうから、血走った眼で睨み付けていた。
(隊長!)
(……夜を待つぞ)
(しかし!)
(確実に、この世界の住人達を『総駆除』する。それが私達に課せられた任務だ)
(……はっ)
――夜、見張りの兵士以外は寝静まった頃。
足音も無く動き出した一団がいた。
昼間、森林に迷彩服を着て潜んでいた彼らである。
彼らは瞬く間に城と王都市街に潜入して圧倒的な火力差で制圧する一方、『子猫部屋』に突撃して中に囚われていた彼らの仲間を無事に救出したのだった。
夜明け前には王都は激しく炎上し、その住民達は大きな骸の山を築いていた。
「……!!!」
国王をはじめとする城にいた全ての王侯貴族を捕縛し、自害も出来ぬように拘束された後で並べられているその前に、『子猫』こと――マユ・タナカが姿を見せた。
彼女は医療班による手当を受けていたが、それでもこの数日間の暴行の結果、自力では移動できないほど衰弱していた。
体を思えばテントで眠っているべきだったのだが、彼女たっての希望でここまで担架で運ばれてきたのだ。
「……隊長、ありがとうございます。この連中に、どうしても言ってやりたい事があって」
「……無理はするなよ、タナカ隊員」
「はっ!」
痛ましい想いを隠して労る隊長に一礼して、マユは汚物を見るような目で一同を見据えると話し出した。
「ねえ、アンタらさ。『子猫』って言っていたよね。私達の世界からあくどい手段で拉致した女の子を!」
「……!!!」
国王達が何か叫んでいるが言葉は出ない。
おしなべて喉が潰されているからだ。
「ナナちゃんはね、三年前にアンタらに拉致されて殺された。私と姉さんの大事な親友だったのに……!」
激しく憎悪に燃える目でマユは睨み付けた。
「だから私と姉さんがこの役目に率先して志願したんだ。この魔法とやらで隠蔽された世界の座標位置や情報を集めて特定する、囮と潜入調査の役目に!
……姉さんまでアンタらは殺したけれど、姉さんは死ぬまでこの世界の情報をありったけ伝えてくれた。
良かったよ、私達の世界より遙かに劣った文明の世界で!
お疲れ様、私達を拉致してくれて。おかげでこの世界の存在は暴かれて、こうやって完全に制圧する事が出来たんだから。
そうだ、恨むなら鬼畜外道なアンタら自身でも恨んだら?これぞ自己責任だからね?」
言いたい放題言ってから、スッキリとした顔でマユは隊長を見て、頷いた。
「ありがとうございます。隊長。もうコイツらを処分して頂いて構いません」
「……ああ。タナカ隊員はもうしばらく休め」
「はっ!」
再び担架で運ばれていくマユ・タナカの背後で、まるで祝砲の如き銃声が無数に響いた。




