第8話「永遠の夢 ~新しい夢、追い続ける夢~」
「新しい夢ってのは?」
ジークが夢を諦めたはずのテリーに圧倒されつつ尋ねる。
彼はニカッと笑って答えた。
大人になって垢ぬけたテリーだが、その笑顔はジークの記憶の中で笑っている当時の笑顔のままだった。
「ああ。それはな、教師だ! ははっ、みんなと話し合わせる時だけ適当に言ってた嘘が現実になったんだ。そしてそれは俺の新たな夢になったんだ。将来の世界を担う子供たちが困らないように、しっかりと教育すること。それが俺の夢なんだ」
力強く笑顔で語るテリーに釣られて、ジークにも笑顔が戻る。
「そっか……。その表情を見てると、それがテリーの本心だってわかるぜ」
ジークの言葉に、テリーは恥ずかしそうに頭を掻く。
そして、再び笑顔を向けて尋ねる。
「ああ、今俺は本当に幸せなんだ。……お前はどうだ? ジーク」
「お、俺?」
テリーの言葉に、ジークは考え込む。自分の考えを言葉にするのがなかなか難しい。
「本当に諦めるのか? さっきの同窓会で吹っ切れたように見せてたけど、あれは本心じゃないんだろ? 俺は完全に諦めがついた。なぜなら、身体要件があるから絶対に採用されないからな。……けど、お前は違うだろ、ジーク。お前はまだ挑戦できる。何度だって挑戦できるじゃないか」
テリーはそう言って、ジークの決断を促す。
「確かに……そうかもしれないな……」
「諦める必要なんてない。お前はまだ夢を追いかけていいんだよ。世界政府の国防省に入って、大勢の人を守るのがお前の夢なんだろ。もう少し頑張ってみてもいい、と俺は思うぜ」
テリーの言葉に、ジークは目を閉じて考える。そしてすぐに目を開いた。
「そう……だな。俺は世界政府の職員になるのが夢だったんだよな。でも、今日しっかり地に足を着けて生きてるみんなを見て、夢を諦めて平凡な日常を送る方が幸せになれると思っていたんだ……」
そう言ってから、ジークはビールを一口飲むと続ける。
「……けど、それは違うな! 今はっきりとわかったよ! 俺はやっぱり諦めたくない!」
ジークの決意に、テリーは嬉しそうに笑う。
「ああ! そうだ! その意気だ!」
「おう、ありがとな、テリー。なんだか吹っ切れた気がするよ」
ジークがそう言うと、テリーは笑いながら言った。
「やっと本当に昔みたいなお前に戻ったな。いつか世界政府の職員になって、俺の分まで頑張ってくれよな」
「ああ、任せておけ。俺は必ず世界政府の職員になってやる」
そう言ってジークとテリーは笑い合うのだった。
「よし、今日は俺の奢りだ。じゃんじゃん飲んでくれ!」
テリーの言葉を待っていたかのように、女性バーテンダーはスッとジークのところにカクテルを差し出す。
「こちらのカクテルは、"永遠の夢"というカクテルになります。……ジークさんの夢が叶うことを祈って、私からのサービスです」
女性バーテンダーは柔らかく微笑む。
「あ、ありがとうございます……」
そんな女性バーテンダーに少し照れながら礼を言うと、ジークはそのカクテルを味わう。
「ずっと応援してるぜ、ジーク。俺だけじゃない。クラスのみんなもだ。実はこの集まりは最近元気が無いお前を元気付けるためにみんなで企画したんだ。発案者は今日来られなかったキャシー・パークだ」
「え……?」
ジークが驚いていると、テリーはニッと笑う。
「彼女もお前の夢を応援してるんだぜ。"今日は行けなくてごめんね。いつか世界政府の職員になったジーク君と会えたらいいな"だそうだ」
「・・・・・・・」
「お前は俺たちのクラスの太陽だ。いつまでも明るくいてくれよな」
テリーの言葉にカクテルを一口飲み、無言になるジーク。
「ん? どうした?」
顔を上げたジークの目には涙が浮かんでいた。
彼やクラスのみんなの優しさに堪えきれずに、思わず涙が流れてしまったのだ。
「い、いや……。なんか嬉しくてさ」
ジークは涙を拭うと、カクテルをもう一口飲んでから言った。
「俺は本当に幸せ者だな……」
そんなジークにテリーは笑顔で頷くのだった。
日付が変わる頃、店を出た2人。
「本当にありがとうな、テリー。お前やみんなのおかげで、俺また頑張れそうだ!」
ジークは拳を突き出す。
「ああ、頑張れよ」
そんなジークの行動にテリーはクスッと笑う。そして自らも拳を突き出した。
2人の拳がコツンとぶつかる。
「……じゃあな! また飲もうぜ!」
そう言って別れを告げるテリーに、ジークも手を振る。
「おう、ありがとう!」
(本当にありがとうな、テリー、キャシーさん、みんな……。俺、絶対に夢を諦めないよ)
去って行くテリーの背中を見送りながら、ジークはそう心に誓ったのだった。
「おう! おかえり、兄ちゃん。同窓会どうだった? お目当ての女の子とは再会できた?」
家に帰ると、寝る準備をして歯を磨いていたケインが出迎えてくれた。
「ただいま~。楽しかったよ、本当に。お目当ての女の子には会えなかったけどな」
そう返したジークの顔を見て、ケインは嬉しそうに尋ねる。
「へぇ~、いい同窓会だったみたいだね。行ってよかったな。いい表情してるよ、兄ちゃん」
ケインの言葉に、ジークは笑顔で応える。
「ああ、本当に行ってよかったよ」
そんなジークの表情を見て、ケインは更に嬉しそうに笑うのだった。
翌日、起きたら昼過ぎだった。
「……ちくしょう……習慣は簡単には変わらねぇか……。だけど少しずつ、一歩ずつ、変えていかなきゃな」
ジークは頭をわしゃわしゃとして、ゆっくり起き上がる。
そしてリビングに向かうと、そこにはもうケインはいなかった。
スマホには、アミとデートして来ます! というメッセージが届いていた。
ジークはそれに簡単に返信すると、コーヒーを片手にパソコンの前に座った。
いつものネットサーフィン、ではない。
世界政府の試験に向けて勉強を始めたのだ。
いつもは半年前からスタートするのだが、約1年後の試験に向けて彼は今から勉強を始めるのだった。
その日の夜、ジークは久しぶりにお酒を一滴も飲まなかった。
次の日も、その次の日も……。
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