第6話「同窓会にて ~友たちの成長と自分~」
翌日の夕方、ジークは駅前の居酒屋へと向かう。
同窓会は18時からだが早く着きすぎてしまったため、駅の近くで時間を潰すことにした。
(はぁ……緊張するなぁ……)
今日は朝から落ち着かず、楽しみ半分、緊張半分だった。
トイレに入り鏡の前に立つ、高校時代からトレードマークのもっさりアフロパーマをいい感じに弄り、黒縁メガネの位置を直す。
服も大人っぽく見えるよう、シンプルで清潔感のある無難なものをセレクトした。
高校時代の同級生なら一目見てジークだとわかるように、敢えて高校時代と同じヘアスタイルで行くことにしたのだ。
ヒゲはしっかりと剃ってきたが。
「よし。……せっかくみんなと会うんだから楽しまないとな」
そう呟くとトイレを出て、同窓会の会場である居酒屋へと向かうのだった。
店に入ると店員に誘導され、2階の奥の座敷へと通される。
そこにはすでに数人の参加者が集まっていた。
ジークが来たことに気づくと、1人の男が声をかけてきた。
「お~! ジークじゃないか!」
ジークがそちらを向くと、そこには懐かしい顔があった。
それは彼に、今日の会の連絡をくれたテリーだった。
「お、おう……久しぶり……(うわぁ~テリーのヤツ、大人っぽくなったなぁ)」
ジークが挨拶を返すと、テリーは笑顔で言った。
「ジークは変わんねぇな~。相変わらずもっさりしてるぜ!」
テリーの冗談に、ジークは苦笑いを浮かべる。
「はは……。そういうテリーはカッコ良くなったな」
「そうか? まぁ、いろいろあったからな。……って、立ち話もなんだしみんなで座って話そうぜ! まだ来てない人もそのうち来るだろうしな!」
そう言ってテリーが席を勧めると、他の参加者もジークに声をかけてくる。
「お!ハワードじゃん! 久しぶり~!」
「あ~! やっぱりハワード君だ! おひさ~!」
そんな声と共にみんなが笑顔で手を振ってくれるので、ジークも嬉しくなり手を振り返すのだった。
少し気後れするぐらい、みんなオシャレになっていたり、立派になったりしていた。
高校時代の髪型をして来たのは間違いだったかもしれない、とジークは思う。
明らかに彼だけが浮いてしまいそうな雰囲気だ。
それでもせっかくみんなに会えたのだから、できるだけ楽しもうと席に着く。
お目当てのキャシー・パークをはじめ何人かまだ来ていないようだったが、予定の時間になったため幹事のテリーの挨拶で飲み会がスタートする。
同級生たちはそれぞれ仲が良かった人同士や、久しぶりに会って垢抜けている人たちで盛り上がっている。
(はぁ……なんか場違い感が半端ないな……)
一方のジークはと言うと、端っこの席で1人ちびちびとビールを飲んでいる。
(そりゃあそうか……。みんなはちゃんと就職して、大変なことがありながらもそれを乗り越えて来たんだ。自分の道を自分で決め、それに向かって1日1日を生きている……。俺はどうだ……? あの頃から何も変わってない。夢ばかり見て……。その夢だって、きっと叶わないって分かってるのに、俺は……)
「ハワードって今何してんの?」
「ハワード君ってまだバイトなの?」
仕事に関する容赦のない質問がジークの心を抉る。
恐らく同級生たちに悪意はないのだろう。
社会人ともなれば、まずは仕事の話から入るのが当然なのだ。
「バイトだよ、食品工場の。コンビニのパンを加工したり、袋に詰めたりしてるんだ」
あまり触れて欲しくないため、端的に答えるジーク。
「ふぅん、社員として就職はしないの?」
同級生の女性1人がジークに尋ねると、もう1人の同級生の男性が言う。
「ほら、ハワードってずっと前から世界政府の職員目指してたから。まだ諦められないんだろ」
それを聞いて、同級生の女性はう~んと考えるように首を傾げる。
「でも、世界政府って新卒採用がほとんどなんでしょ? 募集は年齢制限無しになってるけど、よっぽど才能が無いと20代前半が限界だって聞くわよ? 余計なお世話だろうけど、ハワード君もそろそろ別の道を考えてもいいんじゃない?」
彼女の言葉に、ジークは愛想笑いで返した。
すると別の男性がその話を聞いて、ジークの元にやってきた。
「そういやケインは世界政府に就職決まったんだってな! おめでとう!」
彼はケインとも面識があるため、兄であるジークにお祝いの言葉をかけてきた。
「ありがとうな。あいつも喜ぶよ」
ジークは複雑な感情だったが、弟を褒められたことはやはり嬉しかったので笑顔で答える。
「へぇ! ケイン君、世界政府に入ったんだ! すご~い!」
「しかも在学中からスカウト受けてたらしいよ!」
周りはケインのことで盛り上がり始めた。ケインのことが話題に上がるたびに兄であるジークは褒められる。
嬉しい反面、無意識的に比較されているような感じがして、ジークの内心は複雑だった。
「ケイン君が世界政府に入ったなら、弟にその夢を託すのもありじゃない? 大人としては間違ってない選択の1つだと思うけどな~。ただでさえ世界政府に入れるのなんて一握りなんだもん」
「夢を追うのも大事だけど、俺たちくらいの年齢になったらそろそろ現実のことも考えないといけないしな……。俺もバンド諦めて実家の醤油屋継ぐことにしたし」
ジークはそれらの言葉を聞いて考える。
(そうだよな……。今だってケインに負担掛けてばかりだ。あいつはもうすぐ世界政府の職員としてバリバリ働くことになるし、結婚してアミちゃんも家にやって来る。俺ばかりフラフラしてられないよな……。ここらが潮時か……)
真剣に今後のことを考えているジーク。
するとテリーがみんなに声を掛ける。
「キャシーさん、今日来られなくなったって。旦那さんの実家に行く急用ができたらしい! みんな会いたかっただろうけど、また今度だな!」
その言葉と同時に、みんなから落胆の声が上がる。
片思いをしていた彼女との再会を楽しみにしていたジークも、同じように心の中で大きなため息をつく。
と、同時にやはり現実を見るべきだと感じる。
(そうだ……。夢を見てばかりじゃダメだ。大人には責任が伴うんだ。世界政府国防省に入る俺の夢は、夢でしかない。キャシーさんもやっぱり結婚してた。夢や理想ってのは儚いもんだな……。ちゃんと……現実を生きないと、な……)
そう心の中で呟くと、フッと自嘲気味に笑い、ビールを一気飲みする。
「プッハ~ッ!! 考えがまとまったら酒がうめぇ~!! よっしゃ、今日はたらふく飲むぞ~!!」
急に明るい声ではしゃぎだしたジークの様子に、同級生たちは一瞬呆気にとられる。
が、すぐに周りも大声で盛り上がり始める。
「やっと昔みたいにうるさいハワード君に戻った~!」
「ジークはずっとこんなだったもんな~!」
「久しぶりに会ったら元気なくてビックリしたよ~! よかった~!」
同級生たちはそんなジークを見て、懐かしそうに笑っていた。
「いやぁ~、お待たせ! 今日はとことん盛り上がろうな!」
人が変わったようなジークだが、同級生たちにしてみればこっちのジークの方が馴染みがあった。
高校時代、クラスメイト達はジークの明るさに幾度となく元気付けられていた。
そのため、むしろ今の落ち着いたジークの方にこそ違和感を感じていたのだ。
クラスメイトたちが喜ぶ中、ジークのはしゃぐ様子を、テリーだけは真面目な表情のまま見ているのだった。
「また近いうちにみんなで集まろうな! 今日来れなかった人たちも集めてさ」
テリーの締めの挨拶で同窓会が終わり、1人、また1人と帰って行く。
すると最後に残ったのは、ジークとテリーだった。
「今日はありがとな、テリー」
同窓会を開いてくれたことに感謝するジーク。
「いいってことよ! それに俺もジークとは話したかったしな!」
そんなジークに、テリーは笑顔で返す。
2人きりになったところで、テリーがジークを呼び止める。
「まだ時間あるか? 近くに俺の親戚がやってるバーがあるんだけど、2人で飲み直さないか?」
ジークは時間を確認する。まだ10時過ぎだし、もう1件飲みに行ったとしても余裕で帰れそうだ。
それに幹事として忙しく動き回ってくれたテリーとは、さっきはあまり話せなかったのだ。
彼を労いつつ、ゆっくり話したいと思った。
「ああ……。じゃあ少し飲んで帰るかな」
「よし、決まりだな!」
2人はそのまま居酒屋を出て、テリーの行きつけのバーへと向かうのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!




